第32話 ベルの意地

有彩の前にベルが立ち、イルバから守るように剣を取る。

「さあ! 第二ラウンドと行こうぜ!」


その声にイルバは小首を傾げる。というか、90度に曲がっているが。

「また来たんだぁ〜。 でもぉ〜。今はイチノセちゃんがぁ〜。来たんだよぉ〜。まずはぁ〜。イチノセちゃんを説得しなきゃ〜」


そう言われて、ベルが有彩の方を見る。

「・・・ごめん。でも・・・、薬が切れたら・・・」

「分かってるさ。・・・でもな、昼間も言ったろ? チビ助は俺の仲間だ。だからなんでも協力するし、責任も負ってやる。まずは最初に俺を頼って欲しかったぜ?」

有彩がその声を聞いて泣き出す。嬉し泣きである。

「・・・ううぇぇぇぇ・・・あり、ありがとっ!」

「ああ。下がってな。こっからは俺の番だ」


パチパチパチ、とイルバが拍手を贈る。

「いやぁ〜。友情劇だねぇ〜。・・・早く潰してあげたいなぁ〜」

「へっ! やってみな!」

イルバの体がボコボコと膨れ上がる。


〈召喚〉サモン〈装着多銃身機関銃〉アーム・ガトリング

そして、隣に居たネイビスが後ろに下がり、ベルが見た事の無い武器、回転式多銃身機関銃ガトリングガンを召喚し、右腕に装着する。


余談だが、星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードや、氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードを召喚する時は固有の空間を開くから〈開門〉サモン。今回は低位の召喚獣や武器を生成するため、〈召喚〉サモンなのだ。


「なんだぁ? あれ」

ベルが困惑するのも無理はない。見た事が無いのだから仕方が無い。

「二対一だけどぉ〜。いいよねぇ〜。・・・ネイビスぅ〜! いつものでぇ〜」

「ああ」

ネイビスがガトリングガンを構え・・・



ドゥルルルルルルルル!!!



ガトリングガンから魔力弾が放たれる。その連射速度は毎秒95発。その速さは地球では痛みを感じる間もなく死ぬので、Painless痛みの無いgunと言われる程である。

魔力弾であるため純粋な〈魔法盾〉マジックシールドでは簡単に破られ、体を蹂躙する。そして体内魔力を銃弾にしているため弾切れがほぼ無い。更には魔法で生み出したものは質量を好きに変えることが出来るため銃に重さが無く、反動が無いのだ。


「やっべ!」

ベルは慌てて剣を軟性最大+最長に切り替え、化け物じみた身体能力で全て斬り飛ばし続ける。

「おおぉ〜! すごいぇ〜。ならぁ〜・・・」


ドュバン!


イルバの体が爆散する。宙に舞った黒い液体はベチャベチャと音を立てて地面へと落ちると黒い触手が生えてくる。

「「「「もうバレてるからぁ〜。こっちで行くよぉ〜」」」」


周囲の触手がイルバの声を発しながら現在進行形で魔力弾を斬っているベルへと触手攻撃する。

「おいおい! 冗談じゃねえ!」


ベルが戦術をシフトし、剣を大盾状にして地面に突き刺し、魔力弾を防ぐ。

〈爆裂氷〉バーストアイス!」

〈爆裂氷〉バーストアイスは氷の球体を固体物質に触れた瞬間に爆散させ、周囲を凍結させる第三位魔法だ。それを自分の足元へと放ち、近くの触手を凍らせる。

これはカマエルの使っていた〈爆裂炎〉バーストフレイムと同系統の魔法だ。


「「「「それならぁ〜。普通にぃ〜。再生しちゃうよぉ〜」」」」

グリュグリュっと鈍い音を立てながら散らばった液体は4箇所に集まり、計4人のイルバを形成する。

「ちっ!」


ネイビスも盾の正面から外れてベルへと仕掛ける。流れ弾がイルバに当たってもどうせ再生するからと気にしていない。

正面からネイビスが引き付け、粘液種スライムのイルバがサイドから攻撃を仕掛ける。正面のネイビスが強敵な為、無視をする事が出来ずに横からの攻撃が通りやすくなる。

「クソ、 流石に不利かっ!」


有彩を守りながら戦うベルと、的確な連携で戦うイルバとネイビス。単体の強さは圧倒的なベルもこの状況下なら負ける可能性は十分にある。

「ううう・・・」

有彩が心配そうにベルを見つめる。

「せめて・・・チビ助を何処かに・・・」


すると、突然少し遠い所から爆音が鳴り響く。

『あー。ベルキューアさん? 繋がってますか?』

と、二人の攻撃を避けているとエリスからの〈念話〉メッセージが来る。


ベルは有彩を抱え、暗い路地から出る。人気がないのは変わりないが広く、明るい。ベルは回転式多銃身機関銃ガトリングガンの魔力弾を弾き、躱しながら〈念話〉メッセージを続ける。

「エリス!? そっちはどうだ?」

『リオが力を貸してくれてますからね〜。問題無く勝てそうですよ〜。まあ、下の人達には悪い事をしてますけど・・・』


ベルは知らない事だが、エリスの下は半径40m程のクレーターが出来ており、その中心には左腕の無いバーロンの姿があった。

「終わったらコッチに来て有彩を安全な所に・・・」

『おや? ・・・そうでしたか!』


何処かエリスが嬉しそうに呟く。

『既に助けが向かってますよ。・・・あ、これはベルキューアさんの力を疑っていた訳では無く、保険の一手ですし、それが無駄では無かったことを喜んだだけですからね?』


ベルは回転式多銃身機関銃ガトリングガンの魔力弾とイルバの触手攻撃を避けながら返答する。

「エリス以外に? 誰だ?」

『それは・・・おっと。もう着くそうなので場所を送ってあげなければ。とっても強いのでご安心下さい』

と言ってエリスは〈念話〉メッセージを終わらせる。


「エリスが強いって言ってて更には安心を約束するやつねぇ〜」

有彩よりもこの街が心配だぜ、と言った瞬間にパラパラと雪が降り出す。レプテンダールは西寄りで、冬は雪も降るが、10月に降ることは無い。つまり、この雪は人為的なものだ。


「「「「あれぇ? なんで雪が降ってるのかなぁ〜?」」」」


そして、ベル達の上に大きな影が重なる。

ベルが見上げるとそこには荘厳な氷と白で彩られた巨大な龍がいた。


「なっ! り、龍! しかもこいつ!」

「・・・この気配、氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードか」

圧倒的な重圧と極寒の冷気。世界が一瞬で変わったかの様な圧力がベル達を押し付ける。


その龍王から氷のの階段が現れる。そこには青髪の少女、へスティア・エイリプトの姿があった。



「私の前では全てが凍る」



へスティアの一言で、ベルのいた道全てが凍りつき、その中にネイビスとイルバが飲み込まれる。

「っと、こんな感じかな?」

表情変えずに呟くへスティア。


「ぷっ、相変わらずやべぇねーちゃんだぜ」

たった一言でベルの視界の半分を氷漬けにするへスティアに面白がりながらも戦慄する。

既にベルは家の屋根に退避していたのだ。

やがて氷の階段を降りたへスティアにベルが声をかけた。


「ねーちゃん久しぶり。去年の序列最上位総会以来か?」

「そうだね。おねーちゃんは帰ってきたよー」

実際兄弟では無いが、へスティアがお姉さんをやりたいだけである。


「もうエリスさんから聞いてるよ。私も加勢すれば良いんでしょ?」

その問い掛けにベルが複雑な表情をする。既にパキパキと氷を壊す音が聞こえてくる。


「いや、ねーちゃんはそこのチビ助を守ってるだけでいい。あとは俺が・・・」

「ベル!」

有彩がベルに叫ぶ。確かにへスティアの力を使えば簡単だ。だが、それではいけないのだとベルは知っている。


「俺が、ちゃんと終わらせなきゃいけねえからな。仲間の不始末は仲間で終わらせる」

「で、でも・・・」

「おチビちゃん、ベルは止められないよー。 ベルはそういう子」

有彩が止めようとするも、へスティアがそれを止める。有彩も理解しているはずだ。だからすぐに引き下がる。


「チビ助でもないし、おチビちゃんでも無い。有彩だよ。・・・有彩のふしまつを・・・お願いします」

有彩は笑顔をベルを押す。自分の王子様が負けるはずないと信じて。


「やってやるさ」

ベルは有彩と同じように笑って屋根を踏む。

氷から抜け出しているイルバとネイビスは先程と同じよう攻撃を仕掛けてくる。


〈付与〉エンチャント〈氷粘の双爪〉アイスヘッグ・クロー

ベルは剣に魔法を付与させ、イルバを斬りつける。音速を優に超えている一撃。ネイビスは今、氷で身動きが取れない。回転式多銃身機関銃ガトリングガンが無ければイルバを真っ二つにするのは簡単だ。


イルバは大きく飛ばされたが、再生しようともがく。しかし・・・

「うおぉ〜。っとぉ? あれ? 傷が再生しないなぁ〜」

〈氷粘の双爪〉アイスヘッグ・クローは粘性のある氷を傷口に付着させる魔法だ。それを剣に付与し、外から固めていく。


「だったら爆散してぇ〜・・・」

「・・・〈霜巨人の足踏〉クラッシュオブヨトゥン

ベルが魔法を唱え、氷の巨大な足でイルバを押しつぶす。いくら粘液種スライムであろうとも大きな圧で潰されれば一瞬で絶命する。


「あと一人・・・」


ドゥルルルルルルル!!!


ネイビスが魔力弾をベルへと撃ち込む。だが、脅威なのは最初だけである。現状では対処法は分かっているし、挟撃される事も無い。

ベルは回転式多銃身機関銃ガトリングガンの魔力弾を難なく掻い潜り首元へ辿り着く。


「はあっ!」

そして神速の斬撃で一閃。ネイビスの首はあっさりと宙を舞った。


「ふう・・・」

一息つくベル。そしてそんなベルに拍手を贈るへスティア。

「いいね。特に最後の首を飛ばすとこ。おねーちゃん感激したよ」

「・・・有難いけど氷魔法に関しちゃまだまだだな」


「いやいや。おねーちゃんに氷魔法で勝とうだなんて一生無理だよ」

「ふっ、違いないな」

そんな談笑をしている間にへスティアは道の氷を解除する。何故そのままだったかと言うと、へスティアの氷魔法には氷属性強化が付与されていたからだ。


たったの一言で全てを凍てつかせ、なおかつ自分に有利な戦場へと持っていき、プランを立てる。それが『氷棘の魔女』である。

「ベル!」

「大丈夫かチビ助?」

「ベル! ありがとう! これで・・・。これで・・・」


有彩が泣きながらベルへと抱きつく。自分で抜け出したにも関わらず成果を出せなかった。その上、ベルに迷惑を掛けてしまった。有彩はそれが悔しかった。だから・・・

「だから! これからはベルの役に立つ! 絶対に強くなるから!」


そんな決意を抱いた有彩。

「ああ。期待してるぜ!」

それにベルが嬉しそうに頷いた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〈五重強化〉フュンフ〈天からの落雷〉ヘブンリィ・フォール・ライトニング


ジュッ・・・


エリスの魔法でバーロンの右腕が消滅する。両腕を無くしたバーロンは何かを感じ取ったかの様に何処かを向く。

「おや。人形ドールがやられてしまったか。ここは一旦退散かな?〈暗転〉ダークチェンジ


バーロンは体の全てを闇の粒子に変えてどこかへ行ってしまった。

人形ドールという事はベルキューアさんが戦っていたのはダミーですか?」


エリスはまだまだこの騒動は終わって無さそうですね、と言いながらベルの所へと向かった。

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