第31話 死神の心
クソっ! チビ助は何処に行きやがった!
俺は真夜中のレプテンダールの空を駆け回る。高さは60m程。街はまだ明るく、綺麗だがそんな場合じゃない。俺の場合、飛行魔法を使うよりも
「
俺が進む方向へ
「っと、風を調整しないとな」
これは俺のちょっとした
これで亜音速で飛んでも風やソニックブームで建物をなぎ倒す事は無い。・・・じゃあ、その体自体は大丈夫なのかって? それも問題ない。魔力強化で肉体の強度は上がってるし、
「んっくちっ!」
あぁーさみぃー。寒すぎるぜ。こんな真夜中に生身のマッハで飛ぶなんて正気じゃねえだろ。いくら風が無いとはいえ、温度は変わんねぇんだよ。
「・・・にしても見つかんねぇな」
既に本気で飛んでから三分経ってるが、まだ影も見えねぇ。・・・三分だと60周くらいだな。
「あまり嗅ぎ回られると困るのですが?」
と、俺の後ろから男の声が聞こえてくる。気障っぽい、俺の好きじゃないタイプの声だ。
急遽、俺は近くの
その男は眼鏡をかけた青年、黒と白で分けられた髪に、その対象色の瞳。その瞳で俺を睨め付けながら空中で立っている。こいつは・・・
「さっきの魔王ディステルの配下で括るとバーロン・ワリオルっぽい見た目だけどな」
そんな俺の呟きに対してバーロン(仮)は驚いている。
「よく、私の名前が分かりましたね。バーロンですよ、『魔法剣士』ベルキューア・カストルスさん」
どうやらバーロンで合ってていたらしいな。(仮)なんて付けてすまん。
バーロン・ワリオルは魔王ディステル軍の幹部の1人だ。二つ名は「
「へぇ。アンタが前に出てくるなんて珍しいな」
「ええ。今回の一件は私の案件ですからね」
ふぅん。つまり、この街の裏で何か起こっているのは間違いないな。そして「魔王ディステル本人」は関係ないのか。
「まあ、穏健派の魔王ディステルが攻め込むなんて言ったら天地がひっくり返るぞ」
魔王と言っても色々いるからな。
と、バーロンが咳払いをする。
「今貴女の前に現れたのは計画の進捗があまりよろしくないので、それを邪魔する貴女を説得しに来たのです」
「俺はただの人探しだ。邪魔なんかしてねぇよ」
バーロンは俺の返答をフッ、と鼻で笑ってくる。・・・あーもー、こいつ嫌い。一々仕草がウゼぇ。
「私が言っているのはその相手ですよ。イチノセ・アリサ。彼女は私の計画に必要なのです。貴女が干渉しなければあと少しで実行出来るのです」
「つまり、俺が邪魔だと」
「いえいえ。イチノセ・アリサから手を引いて頂ければ構いません」
コイツの計画が何かは知らねえ。もしかしたら善意でやるのかもしれない。・・・でもな。
「俺はお前が嫌いらしい。嫌いな奴の企みをぶっ潰すのは当たり前だろ?」
俺はエリスみたいに損得の天秤は無い。俺がしたい事をして、したくない事はしない。
だから、単純にコイツが嫌いだから潰す!
「それが一番俺らしい理由だ」
「おやおや。出会って早々嫌われてしまいましたね。ではこちらも・・・」
バーロンの周囲に幾つもの魔法陣が形成される。
俺も剣を抜き、盾を踏み込もうとした。
一触即発の雰囲気。ここに踏み込んで来るやつはそうそういない。
「やっと見つけましたよ。・・・そんな物騒な物を持って何をしているんですか?」
この空間に無遠慮に割り込んで来たのはエリスだ。いたわ。踏み込んで来るやついたわ。
「エリス! どうしてここに!?」
「ベルキューアさんがベッドを抜けているのに気がついただけですよ」
・・・つまり。
「最初から見てたな?」
「ええ。・・・ここは私がやりますよ。早く帰ってレクトさんの寝顔を眺めたいですし」
・・・。いい趣味をお持ちで。
「エリスも変わったな。以前ならただひたすらにアムネルを殺す事だけを考えてたはずなのに」
・・・というか、にいちゃん婚約者が勝手に抜け出してんのに気が付かないのかよ。未来の夫としてどうかと思うぞ?
「そうですよ。私はレクトさんのおかげで変われました。・・・ですから、今度はベルキューアさんがアリサちゃんを変えてあげて下さい」
・・・「助けて」じゃなくて「変えてあげて」か。俺なんかよりも頭のいいエリスは、もうチビ助の気持ちを理解しているらしいな。
「俺にはさっぱり分かんねえけど、チビ助を連れて帰ってくるわ」
そう言って俺は
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私と死神は世界を飛んだ。
それでも、私は未だに死神としての力はある。
だから人は来てくれない。 私に触れたくないから。
ねえ。死神さん、私はこれで良かったの?
『そうだよ。僕が君を導いてあげるよ。さあ、君の全てを振るうんだ』
それでいいの? 私の・・・
でもそしたら、急に意識が無くなって・・・
気がついたら辺りは何もかも消えていて・・・
草や土、空気も腐ってて・・・
そこには私しかいなくて・・・
「おやぁ〜? 君いいねぇ〜。一緒にこなぁい〜?」
いえ、そこに居たピエロの女の子、イルバさんだけが、私を・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時は少しだけ遡る。
有彩は静かにベッドから起き上がり、部屋の窓を開けた。
「・・・ベル、・・・ごめんなさい」
この部屋は一階なので窓からでも簡単に出ることが出来る。有彩は宿の庭を抜け、街へと出る。
「綺麗・・・」
有彩は夜の街の景色に目を奪われた。
街灯の魔道具が幻想的な光を放ち、川の中にいる水の下位精霊が街を彩る。
有彩はこの世界に来てから夜に外へ出ることは無かった。だからこの街の夜景に目を奪われたのだろう。
「・・・もう・・・見れないのかな?」
自分への問いかけ。その答えは無い。
「行かなくちゃ」
有彩はその幻想的な街の中を走り、この街の暗く、光が射さない場所を目指した。
そんな彼女を二階にあるレクトの部屋からエリスが見ていた事は、有彩は知らなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ベルキューアさんはアリサちゃんの所に行ってあげて下さい。・・・と、言ってしまったので。こちらも生きて帰ってあげましょう。
「さて、私は貴方に用は無いですが・・・」
私は手元に魔力雷を帯電させます。一見意味は無いですが、これは準備体操の様なものです。
「ベルキューアさんと約束したので全力でお相手してあげますよ」
「ふふっ。『雷閃の魔女』が最初から全力とは、冗談がキツイですね」
そんな事言いながらも魔法陣出すなんて、結構やる気じゃないですか。初手は何を使いましょうか・・・。
「まあ空中戦ですし一択ですね〜。
私はバーロンの周囲に総数130もの雷球を配置します。これに触れると爆散からの感電死という
「おや雷閃の魔女がこの様な小細工に頼るとは思いませんでしたよ。
魔法陣から幾つもの小さな光の欠片が私の機雷破壊していきます。
「これは面倒くさくなりそうですね〜。
私の後方から
「
彼は円形に作った盾で全てガードしました。
「
「おっと、危ないですね」
そう言いながらも
と、飛んでくる
「リオ。少し力を貸して下さい」
『いいぜ! とっとと使って終わらせな!』
・・・むう?
「最近は物わかりがいいですね。妙に良心的です」
『うっせ! 俺としちゃ、あっちの方が気になんだよ!』
あっちの方? ・・・ああ。
「アリサちゃんの
『そうだ。 なんでアイツが
「まあ、詳しい事は聞きませんけど、とりあえず目の前の敵を倒してしまいましょうか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
イルバさんとの生活は楽なものじゃ無かった。
毎日、力を制御するための薬を飲まされて・・・
毎日、洗濯や掃除をやらされて・・・
毎日、人体実験みたいな事をされて・・・
だから私は逃げ出したの。これ以上は無理だって分かってたから・・・
そしたら怖い人達に捕まって・・・
他の街に行くことになって・・・
そしたら、私はベル達に出会ったの。
優しくて、強くて、明るくて・・・
だから私はベル達の役に立ちたかった。初めてそう思えて・・・
それでも、薬が無いとみんなを傷つける。・・・だから戻らなくちゃいけないの。
死ぬほど苦しいけど・・・
一度、光を見せてくれたから・・・
ベルは昔に頑張った。
今度は私が頑張る番なの。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「イルバさんお願い! 私は戻るから、ベル達には手を出さないで!」
私は部屋を抜け出してイルバさんの所にいる。ここはレプテンダールのとある裏路地。薬の効果が切れるまであと九時間。それまでにここの街を出れば・・・
「う〜ん。難しいねぇ〜。イチノセちゃ〜ん、一度はぁ〜。逃げ出したんでしょ〜?」
「そ、それは・・・」
「ねぇ〜ネイビスぅ〜。どうすればいいと思う〜?」
「どうもこうも、お前の好きにすればいいだろ。俺の役目はお前の護衛だ」
後ろにはポンチョのフードを被った大柄男の人、ネイビスさんがいる。・・・多分この人も人間じゃなくて、魔物? かな。
「う〜ん。ま、どうせ回収する予定だったしぃ〜。別にいいかなぁ〜」
よ、良かった〜。これでベル達の無事は・・・
「でもやっぱりぃ〜。カストルスはダメかなぁ〜」
「! どうして!? なんでベルだけ!?」
イルバさんはケラケラと笑う。
「一回ぃ〜。首飛ばされたからねぇ〜。こっちも飛ばし返さないとねぇ〜」
「私が・・・。そっちに行くから・・・だから・・・」
「あはぁ〜。いいねぇ〜。その絶望してる表情たまんないねぇ〜」
・・・もう・・・どうしたらいいの?
「ううぅ・・・」
「泣いたってぇ〜。考えはぁ〜。変えないよぉ〜?」
ベル・・・。どうすればいいの? あの時みたいに・・・教えてよ・・・
そんな私の願いが聞こえたかのように空から一筋の赤い流れ星が落ちてくる。
「なあ、チビ助。願望だけじゃ、なんにも変えられねえよ」
・・・この声は!
私を助けてくれる、女の子だけど私の王子様みたいな存在。
「来てくれた・・・。ベルが・・・」
「言ったろ? 俺はチビ助の仲間だ、 だから来てやったんだ。感謝しろよ? 」
感謝・・・。そうだ、しなきゃいけない。
「ありがとう・・・、ベル!」
私は涙目を擦り、全力の笑顔を作ってお礼をした。助けてくれた事と・・・
私を変えてくれる事を願って。
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