第26話 もっと! 詰め込み教育!

「アディルさーん。お肉焼けましたよー!」

「おっけ。そんじゃ、食べよーぜ!」

あれから俺達は少し進み舗装された森の中へと入って行った。辺りが暗くなってきた所で休憩スペースの様な広場があったので今夜はそこで寝る事となった。


野営初日は焼肉だ。魔法の冷凍クーラーボックスから肉を取り出せば簡単に肉が食べられる。この調子ならあと100年もあれば地球よりも文明が進むだろうな。


「わぁーい! 俺が先だー!」

・・・ベル。はしゃぐな。

「肉だ! 肉! 肉!」

・・・アディルも精神年齢は変わらないのか?

「野菜も食べましょうね〜」

・・・お母さんかな?


と、言いつつ俺も鹿の肉を取る。そして一口。

「美味い」

まずタレだ。地球で売っている焼肉のタレとは違う深みのある不思議なしょっぱさ。癖になりそうだ。

そして肉。無難な感想だが、下の上で簡単に溶けていく。脂身も俺好みだ。


「これ、市販の肉か?」

「ええ。少し高めのですが、高級店で出すようなものでは無いです。・・・お口に合いませんでした?」

「そんな事は無い。というか絶品だ」

「なら良かったです」


エリスが嬉しそうに野菜を取る。

「・・・」

有彩は目が覚めたが、空気が掴めないのだろう。どこかソワソワしている。


そんなほんにゃ表情ひょうびょうすんなしゅんにゃって・・・チビ助。ほい肉だ」

「・・・いいの?」

有彩は戸惑いながらもベルの肉を欲しそうに見ている。


「当たり前だろ? 早く食わないと無くなるぞ?」

「ありがとっ。んっ・・・。美味しい」

ベルのお陰で少しづつ心を開いてくれているな。


「あとチビ助じゃない。有彩」

「おお? 言うじゃねか」

むっと頬を膨らませ、むくる有彩。

さっきは敬語を使っていたけどこっちが素ならしいな。


「とりあえず、助かって良かったな、有彩!」

「うん!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



初の野外夜焼肉が終了し、現在10時頃。有彩は子供らしく既に寝ている。ちなみにベルも一緒だ。

俺は馬車の先頭で見張りをしながら少し考え事をしていた。

「・・・ん〜」

「お前が考え事なんて珍しいな」


と、後ろからアディルがやってくる。・・・夜なのにサングラスはどうしてだ?

「・・・有彩の事は聞いてるよな」

「おう。俺が寝ている間にエリスの嬢ちゃんが拾ったんだろ?」


「そうだ。有彩は地球での記憶を全部持ってて、俺達と違って名前を覚えている。だからその違いはなんだろうなと思ってな」

「おっ! そう言われると確かにそうだな」


まず、転移者と転生者の区別は無いだろう。そして年齢という線もない。それは坂本龍馬が居たという事が物語っている。

「それじゃ、とりあえずおさらいしてみっか。お前の覚えているのどういうもんだ?」


「俺が覚えているものか。・・・まず、家族の顔は出てくけど名前は出てこないな」

「俺も似てっかな。親友とか結構深めな奴らは出てこねぇが、全然興味の無い連中は出てくんだよ。・・・おいデブこっち見てんじゃねえ」


・・・不思議な葛藤があるようだ。

「まだ2人しかいないが、記憶が消えてるやつの共通点は似ているようだ」

「アリサは消えてなさそうだな。・・・明日にでも色々聞いてみっか?」


んー。なんでこっちに来たのかが関係あるかもしれないし、はたまたいつの時代から来たのかが関係あったりするのかもしれない。

「賛成だ」


「・・・」

ん? アディルが俺の服をまじまじと見てくる。

「そういやお前、Tシャツしか持ってないよな?」

「ああ。俺も戦闘服みたいなものが欲しいとは思ってるけど機会が無くてな」


俺もエリスの様な黒いドレスの様な高性能の服が欲しい所だ。

「おれもゆーてチェインシャツだからな。内蔵されてる魔法も、軽量化、消音、身体能力強化:小、と打撃系防御くらいなものだぜ?」

「それって多くないか?」


俺がそう言うとアディルが首を横に振り、1枚の紙を〈転移門〉ゲートから取り出す。

「エリスの嬢ちゃんの方がやべえぞ? これを見てみろ」


アディルが渡してきた紙にはエリスが持っているドレスの説明が書いてあった。


『・魔法攻撃45%カット ・金属系武器攻撃自動防御 ・消音・軽量化 ・指定魔法属性強化 ・飛行速度上昇 ・支援魔法効果倍増 ・氷・風属性魔法完全無効 ・脳内処理効率上昇 ・身体能力強化:中etc・・・』


「予想以上に多いな! それにエリスならそれをフル活用出来そうで怖い」

「出来るだろうよ。それがこの世界で4人しかいない『魔女』の異名を持ってる奴の力だ」


「『魔女』って他にもいるんだな。どんな奴らか分かるか?」

・・・そう言えばエルフィムでベルがエリスの強さを説明してくれた時に出てきたな。

「『魔女』ってのはこの世界にいる超級種SSSランクの滅界の七龍王セブンス・カタストロフィ・ドラゴンロードの内どれかと契約した女の魔法師だ」


・・・ちょっと待て。

「まずSSSランクってのが分からん」

「おおう。そっからか。魔物や犯罪者、危険人物にはそれぞれ大まかなランクが付けられるのは知ってるよな?」

「ああ。上位種とか下位種とかだろ?」


人にまで付けられるのは知らなかったが。

「そそっ。それをさらに細かくしたのがアルファベットでランクしたものだ。下位種から上位種はDランクからSランクまでなんだが、超級種はDからSSSランクまで付けられる・・・。ここまで言えば超級種SSSランクがどれだけヤバいかが分かるよな?」


「・・・アムネルでどれくらいだ?」

「アムネルは超級種AAランクだな。カマエルで上位種Aランク。超級種は同じアルファベット3つまでだ」

・・・魔法無効と剣の雨、敵の〈転移門〉ゲートの行き先を平気で操作出来るのにそれでもまだ足りないらしい。


滅界の七龍王セブンス・カタストロフィ・ドラゴンロードは実際どれくらいの強さなんだ?」

そんな俺をアディルが鼻で笑ってくる。


「ベルが前言ってたろ? エリスの星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードはこのバルネスト大陸を単騎でほぼ全ての国を滅ぼしたって。つまりは相対する事が死を意味する。相対しなくても国を滅ぼす気まぐれで死ぬなんて事も有り得るからな?」


んな、むちゃくちゃだ!

「エリスが改めて怖くなってきたよ」

「そんな女の婚約者がお前とはねぇ。軍にいた時を考えれば随分と成長したもんだよ」

「おい。中々上から目線じゃないか?」


そうだな。エリスと俺は曖昧な関係だが、一応はそういう関係なんだもんな。

「ホントの意味で鬼嫁だな」

「鬼嫁と言うよりも龍嫁だぜ。・・・絶対怒らせるなよ」

「分かってる」


だが、エリスが怒るところは見た事が無い。余程の事がない限り怒らないだろう。

「それでも、エリスの嬢ちゃんは魔女の中じゃ一番弱いだろうな」

・・・あれで?


「な、なぜそう言いきれる?」

「魔女っつーのは龍王の力を最大限に引き出せる存在だ。だから嬢ちゃんから話を聞く限り、まだ発展途上なワケ」


魔法師序列七位でまだ強くなれるのか。

「と、まあこんな感じだ。ちなみにこの国の魔法師はレベルが高いから序列10位なら上位種は単騎で屠れるぞ」


都市壊滅の化け物を単騎で屠る化け物ね。・・・そこでグースカ寝てる年下の少女が五位なんだもんな。

「こう見ると実感湧かないな。そんな化け物が普通の女の子なんだから」

「おいおい。見た目で判断するのは良くないぜ。この世界じゃ、強さは見た目で決まらねえよ」


「そうだな」

「・・・んん〜」

と、後ろから有彩が起きて、こっちにやってくる。


「どうした?」

「ん・・・。トイレ」

「そうか行ってこ・・・」

「怖い。ついて行く欲しい」


なっ! ・・・急になにを!

「・・・ん?」

有彩が当たり前の様に行ってくる。

「ほれほれ。1人じゃ怖いんだとよ。行ってきてやれ。ま、襲ってもエリスには言わんといてやるさ」


アディルがからかってくる。

「そんな趣味してないぞ」

見張りも、アディルと話しているだけだったしな。トイレに連れていくだけなら構わないだろう。


「じゃ、行くか」

近くには親切に公衆トイレがある。ここを使用した団体が掃除の魔法を使うのでいつも綺麗なんだとか。

「そっちが女子トイレだ。行ってこ・・・」

「・・・ついて行くてきて下さい」


って、おい!

「さ、流石にそっちに行くのはまずいなぁ」

「・・・っ! ぅぅぅ」

おいおい! 何歳だよ! 急に泣き出したぞ!俺は子守りなんてした事無いんだが!


「お、落ち着け! じゃあそっちに行こうか!」

俺はコンビニにある様な男女共用のトイレに指を指す。

「・・・んっ、ぐずっ」

・・・俺はずっとこの役目なのだろうか?

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