第27話 死神と呼ばれた少女
・・・私は死神と言われてた。
・・・ううん。私は死神として生まれてきた。
・・・それが分かったのは私が7歳の時。
私のママがコップを投げ付けて言ってた。
『あんたはなんで生まれたのよ!』
そして友達だと思ってた子にもそう言われた。
『来ないで! ウチらに絶対近づかないでよね!』
こうして私は気がついたの。
「ここには私の場所は無いんだ・・・」
そんな誰に言ったのかも分からないような独り言。
そんな時、私に何かが話しかけて来た。
『そうさ。キミの場所はここには無い。でも他にキミの場所があるとしたら?』
そんな甘い言葉。私はその言葉について行った。
私と同じ、死神の言葉を信じて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺達が旅に出て早三日が経っていた。この辺りは道がしっかりと整備されており、至る所に川が流れている。
「おい、にいちゃん! 正面を見てみろよ!」
俺はそんな声のした方へと目を向ける。
「おお!」
目の前には湖上の城の様な街並みが見えてくる。湖よりも少し高い所に街があり、壁からは多数の滝が流れている。その滝と太陽の光が重なりいくつもの虹が見える。
「おや。やっと着きましたね。あれがレプテンダールですよ。街の中には綺麗な川が流れていて、アイクレルトの中でもトップを争うくらい綺麗な街です」
確かにこの幻想的な風景ならばトップを張るのも間違いないだろう。
と、街を眺めているといつの間にか門前へと到着していた。
「おう! STNで予約してたベルキューア・カストルスだ。入れてくれ」
と、衛兵達は俺達を検問もなしに入れてもらえた。
「いいのか?」
「はい。
コイツら・・・なんでも有りだな。
「エルフィムの時は私から自主的に検問を受けてました。元々私が出入りするのでそうしろと言ってたんですよ」
なるほど。偽装してるかもしれないからか。
街の中にも至る所で川が流れている。水車や小型のボート等もあり、水の名所と言われるにふさわしい街だ。
「私は宿のチェックインをしてきますね。ここからすぐですし。レクトさん達は馬車を置いてフラフラしてていいですよ」
「・・・分かった」
俺達の場所は分かるのか? と言いかけたが、エリスだから分かるだろう。
「アディ兄はこっからの予定は?」
ベルが何やら俺の後ろでカチャカチャと機材を弄り回していたアディルに問いかけた。
「俺か? 俺ん所の支店がここにあるからそっちに行く予定だぜ?」
「了解。そんじゃ、俺とチビ助は、にいちゃんと一緒か。・・・にいちゃんは、ハトルエ商店街のパフェに興味あるか?」
俺!? 急に振ってきたな。
「ん〜。パフェか。俺はどっちでもいいが、ベルが行きたいならそこに行くか」
「おっけ! チビ助はそれでいいか?」
「・・・」
問いかけられた有彩は何処か上の空だ。
「・・・また・・・戻ってきた」
「おーい! チビ助!」
「・・・んひゅぐ!」
ベルが大きな声で言うとやっと気付いてくれた。
「パフェだってよ。有彩も行くよな?」
「うん!」
有彩は明るい顔で頷いた。出会った時から少しづつ明るくなってきてる。いい事だな。
俺はエリス、アディルと別れて馬を駐馬場に泊める。この馬はまた次の街へ行く時に連れていくらしい。
駐馬場から出たベルはテンションが高い。
「よっしや! とっとと行こうぜ!」
「いいけど、道を知ってるのか?」
まずはマップを貰うのが普通だが・・・
「いいや? だから上から探すっ!」
ドゴォン!
ベルが煉瓦で舗装された地面の上で思いっきり跳躍する。その高さは約20m。ビルの四、五階に相当する。
「
そのまま
そして数秒後、上から戻ってくる。
「あったぜ」
「・・・お疲れ」
それしか言えない俺である。
「いやー。見つけにくかったぜ。この街3周したぞ」
この数秒で!? 周りすぎだろ!?
「そ、そっかー。じゃあ案内してくれ」
「おっけ」
ふと。俺は有彩の方へと目を向ける。この街にきて何処か落ち着きが無い。大丈夫だろうか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あああ! うめえ!」
パフェを食べながらベルが叫ぶ。
「・・・食事中は静かにしなさいってママに言われなかったの?」
有彩が当たり前の様な事を言う。・・・まあご最もなんですがね。
「あ? 俺に母ちゃんはいないぞ? 親の顔も知らないまま捨てられて、気がついたら爺に拾われてたって感じだな」
有彩が目を見開く。・・・しかしすぐに同情の目へと変わる。
「大変だったんだ・・・」
「へっ! そんなもん自分の努力次第だろ! 運も実力の内、どんな才能だろうとフルに使えばどこまでだって上がれる。って爺が言ってたぜ」
爺さんもいい事言うな。やっぱ先人は凄い。
「ん・・・」
しかし、その言葉に有彩の顔が俯く。
「あ、じゃあさ、にいちゃんは昔はどんな奴だったんだ?」
俺の身の上話か? 有彩のために話題を変えるには露骨過ぎないか?
「得に何も無い。才能も実力も無かったから平均止まりの一般人だよ」
「ぷっ! あはははは!」
そう言うとベルが笑ってくる。何か面白い事を言っただろうか?
「にいちゃんの世界では異世界に転移する奴が一般なのかよ! ぷぷっ。そんな訳ねえだろ」
「確かに・・・」
もう一般人じゃないのか・・・。そうだな。この世界でもエリスとアムネルを倒し、この世界を攻略する鍵を探してるんだ。もう一般人じゃないな。
「あとはチビ助だな! こっちに来る前はどんな事してたんだ?」
「・・・昔の事、・・・ううっ」
どうしてか、有彩が泣き出す。
「あ、有彩? 大丈夫だぞ? 言わなくていいからな?」
「・・・は、はい・・・ぐずっ」
どうやらこの子は地球で問題があったらしい。
その後も俺達は食べ歩きを続け、途中でエリスが転移でやって来た。そういえばあの銀の十字架はまだ俺が持っていたようだ。すっかり忘れていた。
「ええー!? あそこのパフェ食べたんですか!? いいな〜! 羨ましいです!レクトさ〜ん・・・」
ねだるような目で見るな。
「・・・明日にでも行ってやる。それでいいだろ?」
「はい! ありがとうございます!」
そうこうしている内に宿へと着く。この宿は木造建築でよく箱根でありそうな風情のある旅館だ。それに温泉や露天風呂があり、建物自体も大きい。
「ほらほらー。早く行きましょうよ。アディルさんは既に入ってますよ」
アディルの野郎・・・早いな。
まあ、とりあえず中に入る。
中には檜のいい香りで包まれており、木造ととても合うおしとやかな装飾。どう見ても星とか付いてる宿だ。
「ここ『万恋花』はこの街で一番の宿と言われてまして、王や大貴族といった方々がよく来られるんですよ」
「ええっと・・・」
ホントにすごい所に泊まれるんだな。
「本宿は基本的に一見様はお断りで、紹介が無いとご利用出来ないのですが、今回はセクトルス様と、カストルス様がいらっしゃるとの事でしたので」
・・・これが魔法師序列上位陣の権力か。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふんふ〜ん」
日が暮れ、そろそろ十二時に差し掛かる頃。レプテンダールの裏路地では1人の小柄な少女がスキップしながら歩いていた。その少女は赤髪で、顔に傷の様なメイクを付けており、そしてピエロの様な奇妙な格好をしている。
「おっ、ネイビス! 約束の時間通りだねぇー」
芝居がかった高い声で正面にいる小太りの男をネイビスと呼ぶ。
「イルバ。 少し声を落とせないか?」
小太りの男はそれ以外は何も特徴は無い。どこにでもいそうな中年男性だ。
「ごめんねぇ〜。イルバはこれが素なのぉ〜」
「ちっ。これだからあのガキを逃がすんだよ」
ネイビスは不満を漏らす。
「えぇ〜。ネイビスだってぇ〜。アムネルの勧誘に失敗してるじゃ〜ん。人の事言えないよぉ〜」
イルバも負けじと口撃する。だが、ネイビスにはあまり効いていないようだ。
「アムネルにはビジョンがあった。ならばそれは仕方がない事だ。だが、お前は自分のミスだろうが」
「でもぉ。あの子にそれだけの価値はあるのぉ? イルバには分からないなぁ〜」
「価値があるかを判断するのはお前では無い。あくまで魔王ディステル様だ。その命令に従えないのならここで処分する事になるのだが?」
そんな不穏な言葉を聞いてもイルバはヘラヘラと笑っている。
「分かってるよぉ〜。どうせぇ〜。ここに戻ってくる事になるしぃ〜。別に追わなくていいかなぁ〜とか。思っただけだもぉーん」
「ちっ。どうだかな」
こうして2人は闇の中へと消えていった。
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