第21話 決意
「おおい! エリス!」
ドン
ってて。ちくしょうエリスめ。尻持ち着いちゃっただろ。
俺達が落とされた場所は恐らく倉庫。薬や武器といった物が所狭しと並んでいる。
「ほほぅ。セクトルス卿、いい所に落としてくれたのう」
アディル、ベル、爺さんは優雅に着地している。・・・着地出来ていないの俺だけですか。
「ここは司令室手前の倉庫じゃ。ここを出ればすぐにアムネルの元へとへ行けるぞ」
「なら行かない理由は無いな」
ベルは自分の剣、
「せや!」
一瞬で小さなドアが切り刻まれる。
やっぱりベルの動きは異次元だ。認識することすら出来ない。
「一応構えとけよ」
確かにベルがいれば百人力だが、絶対では無い。
俺はホルスターからベレッタMCを取り出し、セーフティを外す。
「行くぞ」
ベルが先行し、爺さんが後ろから追ってくる。戦力の使い方としては正しい戦法だろう。
廊下は今まで見てきた室内とは別物だった。ドラマで見る警視庁の廊下の様な潔白さと、いつも見てきた様な硬いのか柔らかいのか分からないゴム材で出来た床だ。
「わぁお。作りが故郷風〜」
アディルがチャラチャラと口笛を鳴らしながら言う。
「とはいえ、敵は目の前じゃ。とっとと行こうぞ」
「・・・罠は無さそうだぜ。」
既にカマエルの記憶を有している爺さんと、何らかの脳裏で罠の有無を確認するアディル。・・・俺、必要無くね?
「それを言っちゃおしまいだな」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもない」
全員が足を音を立てずに移動する。罠が無いと言っても誰かがいるかもしれないしな。
少し歩くと無機質な鉄の扉が現れる。
「ここじゃ。多分出迎えてくれるじゃろう」
なんの緊張感も無く爺さんが扉を開けた。中は大きな金庫の様で鉄類で出来ており、壁側には施設の外で見た逆卍の旗がいくつも並んでいる。
そしてその中央には白いタキシードとシルクハット姿の男が立っていた。少し遠いから分かりにくいが、恐らく俺よりも少し身長が低いだろう。
「おや、中々楽しげなメンバーではないか」
タキシード姿の男が低めの声で話しかけて来る。この状況下で誰だか分からない奴はいないだろう。
「アムネル!」
「アムネル・・・。ああ、この世界で私はそう呼ばれていたね」
近づいてみると、やはり俺よりも低い。・・・あのちょび髭はチャームポイントだな。
「んん〜。ここに来た目的はもう分かっているが・・・どうやって突き止めたのか教えて貰えるかな?」
「ホッホッ。ならばワシらに勝てたら教えてやろうぞ!」
その声に肩を竦め、タキシードから純白だが悪魔の翼を生やし、飛行するアムネル。
「私はあまり老若男女を区別しないからね。遠慮なく行かせて貰うよ?」
パチン! 、とアムネルが指を鳴らすと何十もの大剣が頭上に現れる。その大きさは通常の大剣とは違い、大型バス並の大きさだ。
「とりあえず・・・
指揮者の如く優雅に腕を振り下ろし、剣を落下させる。
「冗談じゃねえ!」
俺は慌てて身体能力強化をして剣の雨を避ける。
「・・・こんな大技、初手に行うべきではなかろう。隙を作ってから狙うべきじゃったな」
爺さんは
「ほう。やるね、そこの爺さん」
大剣を気にもしないアムネルは余裕綽々で爺さんに話しかける。そうしているうちにも大剣は体へと落ちていく。そして当たる寸前に・・・
ガン!
剣は当たる寸前に砕け散る。
「なっ!」
「私に魔力攻撃は効かないよ。どんなものであれ、全て無効だ。・・・ん?」
アムネルが横目で背後を見る。そこには
「でやぁぁぁぁぁ!!!」
ベルは威勢のいい声とともにを
が、それも当たる寸前で止まる。
「おやおや。その剣は魔力を帯びているのか。惜しいな、その攻撃で私を殺せたかもしれないのに」
アムネルはいやらしく笑う。
「クソっ」
「そのソニックブームは空気中の魔力を帯びているから攻撃とみなされる。つまり、キミの攻撃じゃ、私を殺せない・・・おっと、逃がさないよ
「ぐっ!」
空中で位置を固定されるベル。もがくが、それは無駄に終わる。
「
アムネルが神々しい聖剣を創り、ベルへと振るう。それを直で受けたベルは剣を持ってる右腕を切り飛ばされる。
「ぐぁぁぁ!」
「っ!」
そしてアムネルはかかと落としで追撃。脳天を勢いよく打たれ、床へと落とされる。
ベルは既に血だらけだ。動ける体では無い。
「これはまずいのう。
「全く・・・。もう少し良いものを見れると思ったのだけどね」
もう一度、アムネルは指を鳴らし、大量の大剣を創造、すぐさま落とす。
「ワシも舐められたものじゃの。治癒をしながらなら門を出せないとでも思ったのかの?」
爺さんも先程と同じように
ん? 俺と何かの影が重なったぞ?・・・あ。
「俺のとこに飛ばしてんじゃねーか!」
爺さん! 変なとこ飛ばすんじゃねーよ! と、言いながらも強化後の動き方が分かってきたのですぐに回避出来た。
「むう? ワシはこの悪魔の上に飛ばしたはずじゃが?」
爺さんも困惑しているな?・・・じゃあつまり。
「ここは私の領域だ。
「なんだよそれ? 強すぎだろ」
ベルが起き上がりながら毒づく。・・・君も大概なんだけどね?
「ハッ! 強く産まれなかった君達が悪い。強者が絶対なのはどの世界でも変わらないのだからね!」
「じゃが、お主も今、ワシに負けるかもしれんぞ?」
爺さんは強気だ。負ける気がしないと言っているようだ。
「いや、もういいよ。お疲れ様」
そう言うと、一瞬で爺さんの横に転移し、剣を振るう。
「ぬ!」
「はっ!」
流石は爺さんと言ったところか。瞬時に
「へえ。・・・意外だね爺さん。・・・でも」
アムネルは爺さんの目の前で小さな火花を散らす。
「ぬっ!」
極度の緊張の中でのこの一手は有効だ。爺さんに明らかな隙が出来る。
「っ!」
アムネルは流れる動きで爺さんの手を切り落とし、そして回し蹴りで吹き飛ばす。
爺さんはそのまま壁に激突する。
「・・・がはっ」
爺さんは肺に溜まった血を吐き出す。・・・既に動けそうもない。
「爺さん!」
「あぁぁぁぁ! よくも爺を!」
回復したベルが勢い良く飛び出す。
「だから、先程無駄だと言っているだろう?」
ベルの全力。だがやはりそれは寸前で止まる。
「ちっ!」
アムネルの背後からアディルが狙っていたかの様に後頭部へと拳を突き出す。
「ぬるい拳だね。
「ぐっ!」
アムネルの魔法で、2人の動きが止まる。
「はっ!」
アムネルがアディルに蹴りを入れ、壁まで飛ばし、
「チビがっ!」
ベルを強力なアッパーで意識を飛ばす。
・・・爺さん、ベル、そしてアディルは既に戦闘不能。
「残りは君だが、私に勝つ術はあるのい?」
翼を仕舞ったアムネルが歩いてくる。
「・・・無い」
結局、俺は・・・。
俺は何も無いのか?
正直、さっきの戦いでは俺が入れる所は無かった。それが俺の実力。結局この世界でも俺のする何も無い。
前の世界では全てが中間だった。でも、この世界では全てが劣っている。
力や知識は無いし、前の世界で培ったセンスや感もたかが知れている。
「結局、何も無い」
それでも、それでもだ。
俺はマリアさんと約束したからな。
「俺はお前を倒す。そう約束した」
「何故? 何故そんな無謀な約束をした?」
何故、ね。
別にカッコイイことは言えないが、エリスは今も復讐に囚われている。
俺は少し過ごしただけだが、それでも分かる。
エリスの笑顔は全て復讐の裏側だ。
復讐を支えに生きている。それはあいつの生き方だ。エリスはそれでもいいかもしれない。
それでも、俺は嫌だ。
これはただの我儘。俺はエリスに復讐以外の生き方を見つけて欲しい。前の世界で生きる意味を見つけられなかった俺が言うのもなんだが、その生き方はつまらないと思う。
この気持ちはマリアさんと約束した時とは違う。でも、理由としては十分だろう。
「俺はただ、エリスの純粋な笑顔が見たい! 復讐の裏側の笑顔じゃない、本当の笑顔が!」
それが今の生きる意味であり、目的であり、俺が全力で成し遂げなければならない事なのだ。
「・・・ほう。だが君は弱者だ。どうする?」
どうする? も何も無い。
「俺が進むべき道はお前を倒す事。それに俺が持ってる全力を出すだけだ。例え弱者であってもそれは変わらない!」
アムネルは初めて面白そうに笑った。
「
そして再び大剣を生み出し、落とす。
さっきまで、俺は何も出来なかった。
「だからここで俺がやる!」
先程の四倍の量の大剣の雨をくぐり抜け、接近戦へと持ち込む。
「っ!」
俺はベレッタMCのトリガーを引く。3点バーストの熱系弾丸を打ち込み、寸前で爆発。
「学習しろよ。効かないって」
知ってるよ。だからこれは陽動。俺は聖剣を持つ左手を振り払い、すぐに顔面へと右フック。
「っ!」
俺の拳は上手くクリーンヒット。すると思った。
アムネルが俺の拳をいなし、聖剣でカウンターを仕掛けてくる。
「っと」
聖剣を腕で受けるのは難しいため、狙われた首元を後方にずらし、回避。
が、それを狙われ、聖剣での振りを利用した回し蹴りが俺の腹を追撃する。
「がっ!」
思いっきり後方へと飛ばされ、壁に激突する。
「いい答えだったが、実力が無いね。・・・少し期待して損したよ」
そうして、4度目の剣雨が俺へと落とされる。
・・・結局、こうなるのか。
なんて、
「思ったら! 終わりだ!」
絶対に成し遂げる! エリスの純粋な笑顔を見るまでは!
俺はアムネルへと走る。無数の剣を避けながら。
「絶対に!」
俺は一心不乱に突き進んで行く。
アムネルはそんな俺に拍手を送っている。
「素晴らしいね。ならば私もそんな君に敬意を表すとしよう
どうやらアムネルは格闘戦がしたいらしい。
接近した俺は顔面への左フック。
「っ!」
しかし、俺の攻撃は簡単にいなされ、体が右方向へと流される。アムネルはその隙を逃さずに反撃の右フック。
だが、それくらいは読めていた。
「っと!」
それを上手く躱し、横腹に蹴りを入れる。
「がっ!」
よし! 初めて一発を入れられた!
だが、これで終わりじゃない。蹴りは大きな隙を生む。一歩下がって・・・・。
「はあっ!」
アムネルは即座に俺の動きに反応する。アムネルの強力な回し蹴りが顔面を目掛けて打ち込まれる。
「ぐっ!」
俺は両手でガードする。しかしその勢いは殺せない。そのまま後ろへと飛ばされる。
流石にそろそろ体が動かんぞ?
「私に一撃を入れるとはね・・・。でも終わりだ!」
俺が倒れ付したまま、再び剣雨が襲いかかる。これは避けられないだろうな。
「・・・くそっ!」
体は動かない。まだ終わりたくは無い。だが、体が動かない以上、このまま受け入れるしかないのか。
「最後くらいは・・・」
・・・見たかったな。エリスの本当の笑顔を。
そして俺に剣雨が降り注ぐ。
「あんなにカッコイイこと言ったんですから、ちゃんと約束を守って下さいよ」
俺の知っている声が聞こえた瞬間、目の前の大剣全てがが地に落ちる。
「全く・・・。ここまで惚れさせておいて、死んでいくなんて私は認めませんよ?」
黒のドレスをひらりと翻し、この場に居なかった少女、エリスが俺の前に立っていた。
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