第20話 作戦決行
朝9時半、作戦まで五時間程あるが休日の起床時刻なら妥当な所だろう。エリスはまた睡眠中、アディルは徹夜で武器の整備をしている。
なので俺はフラフラと城の中を歩いている。昨日程の慌ただしさは無く、誰かが走る様子は無い。
「そう言えばここら辺に庭園があるらしいな」
庭園と言えば花だろう。眺めに行くのも悪くないな。
こうして俺は城内の庭園に向かった。
俺が入口に着くと、中からはキン、キンと金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「ここでか?」
庭だぞ? ・・・まあ中に入って見れば分かるか。
俺が入口のアーチをくぐり、中に入ると中には・・・
「っ!」
中央にある広めの場所でお互いジャージ姿のベルと爺さんが剣を交わしていた。
「何をやって・・・」
ん? 花が舞ってないぞ?
俺は近づいてみる。だが、ある一定の場所からは中に入る事は出来ない。
「これは・・・。花を散らさないように
前の世界では無かった美しい花々。世界中の色が凝縮された様な空間の中央で、高速で剣を振るう二人。
「いやいや。それでもダメだろ」
だが、俺が出来る事は無い。諦めて見物しよう。
しばらくするとこちらに気づいたベルが手を振ってくる。それと同時に
「なあベル、体を動かすのはいい事だと思うがここでやる事では無いだろ」
「ん? そうか?
ベルがキョトンとした顔で言ってくる。
いや、あの風圧でぶっ壊れるだろ・・・。
「あ、魔法不干渉の法則があるのか」
魔力の帯びた物質じゃないと魔法は壊せないんだっけ。・・・そういう所もしっかりしてるんだな
「ふう〜。爺は朝練に付き合ってくれてサンキューな」
「ホッホッ。このくらいならワシも動けるのう。これからも気軽に声をかけるが良いぞ」
ベルと爺さんはお互いタオルで汗を拭き、同じタイミングで片手を腰に当てて水筒の飲み物をがぶ飲みする。
「動きが全く一緒だ・・・」
師弟だな〜。いや、ベルは爺さんに拾われたんだっけ。そうなるとほとんど親子みたいなものだな。
「ホッホッ。それじゃワシは支度をしてこようかの」
そう言って爺さんは
「爺さんっていつも
「爺の
そりゃあれば便利だろうな。なんでも持ってこれるし。引越し業者要らなくなるぞ。
「・・・手ぬぐいすら
ベルは拭き終わったタオルを持つ。
「それじゃ俺は風呂入って来るぜ」
こいつも終始マイペースだな。
「ああ。午後、頑張ろうな」
「おう!」
そう言ってベルはこの庭園を後にする。
俺はもう少し散策しようかな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
午後二時半。城の前には俺を含む作戦メンバー全員が揃っていた。
「それでは今回のアムネルの拠点襲撃作戦、スティールを開始します」
エリスはアディルの店で買った黒のドレスとそれに似合う黒のハイヒール。ベルはいつものフード付きパーカー。爺さんは豪華な白のローブに赤の刺繍の入った高価そうな一品、アディルは上質な軽鎧を着ている。
それに比べて俺は安定のTシャツだ。どうしようかな・・・
そんな事を考えてても話は進んでいく。
「では、とりあえず・・・」
エリスが小さな青い結晶を爺さんに渡した。
「ここにカマエルの記憶が入ってますので、それを覗いて私達を基地前に飛ばして下さい」
「いいじゃろう」
爺さんが結晶を受け取り、口に含む。
「む・・・ほほ〜。OKじゃ」
爺さんが
「では私達も行きましょうか」
俺達は
周辺は森で囲まれているため秘密の拠点としてはピッタリだ。
その発電所には大きな旗が複数掲げられていた。それはいわゆる逆卍と呼ばれているものだ。
「逆卍・・・。何処かで見たこと有るような・・・。無いような・・・」
「さて、私の意見としてはこの山ごと吹き飛ばしてあげたいのですが諸事情でそれは却下しましょう」
チラリ、とエリスは俺の背後を見ていた気がした。
しかし、なんだかエリスらしくないな。
「ホッホッ。分かってるのう」
爺さんはその諸事情を理解しているらしい。
「ここからは私は行くべき所に行くので別れましょうか。・・・レクトさんはこの十字架を持ってて下さい」
「了解」
「ではレクトさん方はここから入って下さいね」
は?
そう言ってエリスが地面に手を当てた。
「
そして俺達が立っている地面が突如として消える。
「うぇぇぇ!?」
俺は姿勢を崩しながら下へと落ちていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて、私は私で片付けなければいけない問題がありましたね。
「カマエル。私の前で透明化をするなら心臓をを止めるくらいしないとダメですよ。・・・まあすぐに止まりますけどね」
私がそう言うと元々レクトさんがいた所にカマエルが現れました。
「ちっ!」
「感謝して下さいね〜。レクトさん達を地下に行かせたので貴女は一人で死ねるんですよ?」
「・・・それの何処に感謝の要素があるんだい?」
「・・・ふっ」
予想通りの返しですね。思わず笑が零れてしまいます。
「全て、ですよ。この状況を作った私に感謝してほしいのです。・・・まあすぐに殺しますので感謝する時間は無いですけどね・・・
「っ!
私の不意打ち龍雷は綺麗にヒットする寸前にカマエルの
「壊してはいけないのはこの施設だけだと思いますし、木も邪魔ですので外は全部吹き飛ばしちゃいますか」
「っ!
「
私を中心として大規模な電磁波が発生、視界内の木々が消し飛びます。
残念ながら背後の施設は自動防壁魔法によって防がれました。仕方がありません。元々そのつもりでしたし、
ですが問題の木々は全てと言っていい程吹き飛びました。・・・これでカマエルも傷を負っていればいいのですけど。
煙が晴れて無傷のカマエルが姿を現します。
「はぁぁ。今ので死んでれば楽でしたのに」
「ふざけないで。貴女に私は殺せない」
やれやれ。分かってませんね。無限再生があったとしても私の優位は変わらないのですよ?
「
「全く・・・。私は物わかりの悪い人は好きでは無いのですが・・・」
私は無詠唱の
「っ!」
カマエルは転移で私の背後に移り、手刀で攻撃を加えようとしてきます。
「・・・はあ。教本通りでつまらないですね」
私は右手で手首を掴んでみぞおちに膝蹴りを一発。
「がはっ・・・」
そしてもう一発。
「ぐっ」
二発加えた所で空いていた左手で首を掴み、高速で後頭部を地面に叩き付けます。
「ぁ・・・」
カマエルは声にならない声を上げますが、無視です。
「身体能力、最高強化・・・はぁぁ!」
私はカマエルの頭部を全力で蹴り付けます。この蹴りを食らえば下手な金属は粉々になりますが、どうやら頭部が体から離れただけの様ですね。
蹴った方向が敵の拠点の方向でしたので、頭は自動防壁魔法にぶつかってから地べたに転がっています。・・・自動防壁魔法に血のラインが浮かんでいるのが不思議ですね。
「
そう言っている内にもカマエルは首元から再生を続けています。
「はぁぁ・・・。プランが先延ばしになりそうですね」
折れるのが早いといいのですが。
・・・気がついて自分の頬に触れてみると口角が上がっていますね。きっと笑っているのでしょう。
カマエルはまだ胴の半分がまだ再生し終えていません。ですが、
「待つ訳ないじゃないですか!」
地面を全力で踏み込んで跳躍。そこから先程と同じような動きで頭部を全力蹴り。
ゴシャリ、と鈍い頭蓋骨が壊れた様な音が聞こえました。ですが、まだ形は残っています。
・・・自動防壁魔法で頭を潰すように蹴ったはずなのですがまだ潰れていませんね。
「も・・・う・・・いや」
なんか言ってますよ?
「どの面下げて言ってるんですかね? 貴女方がしてきた事を今、ここで清算してあげてるんですよ? カマ・・・いえ、エヴァ・ブラウンさん?」
「・・・っ!?」
エヴァさんは血みどろの顔の中でも驚愕の表情をしています。
「何故ここで驚くんですか? 記憶を覗いたのだから名前くらい知っていますよ?」
私はエヴァさんの髪を持ち上げ、手刀で首を切り裂き上に放り投げました。
「
私の周りに
「頭でサッカーですか。・・・サッカーの起源は人の頭蓋骨でしたのでちょうどいいですね」
「まだ死んで・・・」
なんか呟いたので私は頭部を再び思いっきり蹴り飛ばしました。
「ギャァァァァ!?」
「頭しか残っていないのは死んでるのと同じだと思いますけどね」
まあこの際どうでもいい事です。
私はせっかくなので楽しくリフティングをしてみます。
「もちろんやるからには思いっきり! いち!」
ゴシャリ・・・
「ギャァァァァ!」
「はいは~い。人のプレーの妨げになるような声は出さないで下さいね~。にい!」
ゴシャリ・・・
「イヤァァァ!?」
エヴァさんは泣き叫びます。千切れた首からはまだ再生した血が溢れ出し、コメディの様に顔面が崩壊しながら。
「泣いたって止めませんからね~。さん!」
ゴシャリ・・・
「ウギャァァァ!」
「ナチスドイツ? でしたっけ? 結局貴女方は負けました。なら、例え生まれ変わってどんな世界に来ようとも、敗者は敗者です。一時の栄光に酔っている連中に敗けはしませんよ。よん!」
ゴシャリ・・・。
「うぐぅぅぅ・・・」
一々会話に時間をかけている暇など無いので話ながら蹴ってあげますか。
「貴女の
頭蓋骨が砕け、再生し、再び砕ける。そのくり返しです。
しかし、記念の十回目は何処かにシュートしたいですね・・・。では奥の旗に向かってシュートしましょうか。
「それでは十回目! ゴールに向かって・・・シュート!」
私が蹴った頭部は大きな旗に一直線で飛んでいきます。
ゴン! ゴシャ!
自動防壁魔法に思いっきりぶつかったエヴァさんの頭部は今まで以上に鈍い音を立てて潰れました。
近づいて髪の毛を持ち上げて見てみますと、顔が血まみれで原型を留めていません。ブルドックみたいな顔になってます。
「も・・・う、殺し・・・て・・・」
エヴァさんは潰れた口から振り絞るように声を発します。
どうしましょうか。既にプランは達成しましたけど・・・。あ! そうでした!
私は煽る様にとびきりの笑顔を浮かべました。
「強制収容所の人達は貴女と同じことを言っていましたね? それなのに貴女は彼等に非人道的な行為を続けていました。でしたら貴女も同じ苦しみを味わうべきですね!」
エヴァさんの表情が少し動きます。多分恐怖故でしょう。
別にそんなことは微塵も思っていませんが、これだけでは私の気が済みません。
「それでは、私の気が済むまでボロボロにして差し上げますね!」
私の陽気な声がこの空間に響きわたりました。
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