第9話 商談と基礎知識パート2

その後、エリスは店の中をぐるぐる回って品物を見に、俺はアディルの今までの事を聞いていた。

アディルは錬金術系統が得意なクロウズナイト家の三男に生まれたらしい。後継ぎは出来ないが兄弟の中でも圧倒的な才能があり、こうして自分の店を出すまでになった。


「最初は苦労したぜ~。なんせ店を出すには上位貴族の許可がいるわ、土地も高いわ、貴族は許可が欲しかったら金を寄越せだとか。客も客で要望通りの性能の武器や防具をつくったら見た目が気に入らないとか言いやがるし。まあ第六番街に店を出せたからもう人生勝ち組だかな!」


前の世界とは常識の違う異世界なんだ。最初は苦労して当然だろう。でもやはりここまで上り詰める事が出来たのは・・・・・・。


「この世界での才能。アディルの場合は錬金術の才能か。という事は転生か世界間転移をすると何か特典として才能か何かを貰えるのは間違いないな」

「そそ。俺の場合は生産系の才能だな。何か特典が貰えるのは過去の文献を見ても間違いないな。・・・・・・。そういえばレクトはどんな特典なんだ?」


「お、俺は・・・・・・」

「レクトさんは特典の様なものはない気がします。戦闘能力は不良並で、何か得意な技術も無いどころか魔力エネルギーを排出する事が出来ないので生活が不便ですね。家では魔力貯蔵庫から水、灯り、火などなど全て使うのでそこが出来ないと正直しんどいです」

エリスが店を回り終えたのか俺達の居たテーブルに戻ってきた。それを言われると心に来るんだよなぁ 「おいおいレクトォ! それでも転移者かよ!」


ガハハ! とアディルが笑う。そんなに笑わなくてもいいだろ。

「まあ俺には拳銃と銃弾があるから一応戦えるぞ?」

「おいレクト? 本気で言ってんのか?」


え?


「この世界じゃ拳銃を上手く使いこなして魔法師と5割、エリスクラスじゃ勝てる確率なんて3厘を切るぞ?」

「は? ちょとまて? 秒速380mレベルの弾を使いこなして勝つ確率3%って回避とか防ぐ事が出来るって事か!?」

アディルはやれやれと呆れながら話す。

「イエス! 魔法師序列第五位辺りは相手の相性によっちゃ秒で終わるからな。基本魔力強化後の身体能力で約4倍、魔法強化後は更にその5倍になる。単純に100m走のタイムが20分の1になるって事だ。考えてみろ」


俺が13秒くらいだからその20分の1・・・。

「0.65秒? うぇぇ!? 化け物かよ!」

ならこんな弾簡単に避けらるな。

「あ〜。ベルキューアさんならそれくらいの速さですね。私の戦闘スタイルとは合わないので魔法強化は使いませんが。それに私の魔力強化の倍率は2.54ですのでベルキューアさんほど接近戦が得意じゃないです」


へぇ。確かに前に魔力強化は個人差があるとか言ってたな。エリスの戦闘スタイルって・・・・・・。

「確か・・・魔力消費を計算に入れねぇ超ゴリ押しの短期決戦型・・・、だったな?」

アディルが思い出す様に呟く。

「ええ。よくご存知ですねアディルさん」


「魔法師序列上位の戦闘スタイルは基礎知識だろ」

「あははっ」

エリスは楽しそうだ。こういう戦う系の話は特に。

「そうですね。自分で言うのはなんですが特に私のは有名ですかね。基礎魔法を最小限に抑えて残りの300近い魔法を電気系の火力特化魔法という完全脳筋構成というのは」


「いいや? 俺もほぼ生産系の魔法だから人の事ぁ言えねえよ」

生産系の魔法か。どんな物なんだろ。

そんな思いが通じたのかアディルがテーブルに置いておいた俺のベレッタから銃弾を取り出す。

「銃弾か。・・・・・・おいレクトォ!残弾いくつだ? 上手く行けば作れるぞ?」


「マジで!?」

生産職つえー!

「ああ!この弾とPCを貸せ! そしたら五分で作ってやる!」

五分で出来んの?

「安心しろ! 俺達は親友だろ? 仮に安心出来なくてもこの世界での俺の才能を信用しろ!」


そこまで言われると断れないな。

「じゃあよろしく」

笑って頼むのが親友の務めかな。多分

「おう! 任せとけ!」

アディルも笑って銃弾とPCを持って工房の奥へ入っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「いい人ですね」

「ああ。言葉使いは荒れてるけど中身は善人だ。・・・そういえば何を買うか決めたか?」

「はい。ピンと来た物があったので。確か・・・」

エリスはふらふらっと奥に行き黒いドレスを持ってきた。

「中々趣味の物がありまして」

そのドレスは光沢のある不思議な糸で出来ており幾何学的な模様の他は細々とした装飾は少ない。言うほど動きやすいという訳では無さそうだが大人の女性っぽい美しさがある。


「このドレスは金属糸製で対魔法で45%カット、対金属武器更には自動防衛機能の防御魔法も着いているんです! この性能なら2億マルクはいきますよ!? 」

「お! エリスの嬢ちゃん、目の付け所がいいじゃねーか! そいつは俺の自信作なんだが色々付けちまって。素材がミスリルだった魔力合成の容量が多かったせいだな」

アディルが工房から片手で持てるくらいの箱を持って出てくる。


それを聞いたエリスは目を丸くした。

「ミスリル糸製のドレスなんて作れる人初めて見ました・・・。というか1着作るのにいくら分のミスリル糸が必要になると思っているんですか・・・」

ん? そういう金属を作るのが錬金術なんじゃないの?


「いやぁ。結構安く手に入ってな。だがドレス自体はさすがに元素記号未解明の金属で出来た糸ってなると希少性と実用性が相まってな」

「そういう金属って普通に買うんだな。錬金術師って言うから1から作るのかと思った」

俺は素直にそう言うとアディルは間の抜けた顔をしてから・・・。


「ブッ! ガハハハハハハ! お前何言ってんだよ!? 錬金術で作れる金属なんて限られてるからな?」

「そんなに笑うなよ。まだ異世界2日目なんだ」

「ほう。まだそこら辺には疎いと。教えてやるが錬金術で出来るのは周期表の周期が同じ金属じゃないと変化出来ない。まあこれを見ろ」

アディルは奥の工房から1冊の本を持ってきた。その本にはこう書いてある。




錬金術の三原則


・錬金術における物質変換は周期表上で同じ周期でないといけない。


・物質変換後の質量は物質変換前から変化しない。


・質量は変化しないが形は好きな様に変化させることが出来る。



「つー事だ。錬金術では制限が多いから基本は外から金属を買ってきて金属を魔法で強化して出品するって感じだな」

「なるほど・・・。魔法で強化ってどんな?」

一番気になるのがそこだな。

「金属に魔力を流し込んで金属中の魔力量を最大値にするのさ。レクトは知らんと思うが金属中の魔力量の最大値は金属の質量と同じっていう法則があるから、より上位の金属を使うとその分魔法で強化できる分が増えるという事だな」


つまり鉄とオスミウムで比べると


・鉄 1cm3=7.87g/cm3 だから魔力は 7.87g/cm3流し込む事が出来る。


・オスミウム 1cm3=22.57g/cm3 だから魔力は22.57g/cm3流し込む事が出来る。


という事だろうか。

「魔力ってスゲー」

こう思うのって異世界に来て何回目だろう。

「そうですね〜。先程魔法は魔力エネルギーが発生すると言っていましたが、こういった魔法は魔力エネルギーは発生しません。魔力の原則として物質内に流し込まれたものは全て同化し、重さや質量が無くなるという法則があります。つまりどれだけ魔力を流してもその物質の重さや質量は変わらないという事です」

私は認めませんが、とエリスがボソリと言う。


「・・・? それって意味があるのか? 重い金属で剣を作って魔法を付与した所で振れなくならないか?」

するとアディルは呆れたような、懐かしいような表情をした。

「・・・。流石だな。そこら辺の思考回転は前の世界と変わらねぇんだな。それか知らないだけか」

へ?


「いいか? 錬金術系統の魔法で軽量化の魔法がある。この魔法で軽く出来る重さは全体の割合だ。だから重ければ重いほど軽くなる割合は多くなる。そこまでいくと剣の重さはさ程変わらなくなる。そうなると残りの容量のある重い金属で剣を作った方がいいって事だ。オーケー?」

「オ、オーケー」



「ちなみにこのドレスに使われているミスリル糸は元素記号が不明な希少金属なので再現が不可能なんですよ」

元素記号不明・・・。

「そういう金属って他にもあるのか?」

「あるぜ!」

アディルはノリノリで本のページをめくる。




希少金属


・B-ランク金属

・ミスリル ・バダリナ ・ゼラテクトニア 等


・B+ランク金属

・オリハルコン ・玉鋼(2級B) 等


・A-ランク金属

・エリバズ ・玉鋼(2級A) ・ヒヒイロカネ 等


・A+ランク金属

・ブラックナスレ ・玉鋼(1級B) ・ダマスカス鋼 等


・Sランク金属

青生生魂アポイタカラ ・アダマンタイト

・玉鋼(1級A) 等


「Sランク金属なんてそうそう手に入らないぜ。市場にでたら100グラムでも7000万マルク、このサイズのドレスを作って最大限魔法強化したら200億はするんじゃねーの?」


それは本当に金属ですか?

「ミスリルですら市場価格じゃ1キロ300万だ。ちなみに・・・・・・」

アディルがテーブルに置いていた箱を開ける。中には7つの銃弾が入っている。それもひとつを除いてジャケット部分が銀の輝きを放っている。

「レクトが注文した銃弾だが無事に完成したぜ。ジャケット部分はミスリル製、その他は何も変えてないから多分不発にはならんと思う」


「ミスリル・・・。しかもこんなに?」

アディルは照れくさそうな表情だ。

「俺は一度ミスリルを低価格で大量に仕入れた事があってな。それの残りだ」

「あー。ミスリルが大量に見つかったと思ったら偽物だったというオチの『ミスリル大暴落事件』ですね」


「そーゆー事だ。俺は本物を見分けられたから圧倒的な得だったが他は大損だろうなぁ・・・。ゴホン!」


アディルが咳払いするとかしこまったように態度を変えた。

「今回のお礼として、私は構いませんがこれでよろしいですか?」

アディルの営業モードか。なんか新鮮だな。

「はい。構いません」

「ああ」


「商談成立だな!」

アディルは今日1番の笑顔を見せた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


しばらく俺達は紅茶で一休み。

「うまいなこの紅茶。入れたのはペテルか」

「はい。僕は紅茶を注ぐのが上手いと評判が良いらしいので」

ペテルが照れている。こう見ると中性的な顔だな。


時計を見ると そろそろ2時になる。

「昼飯食べに行かないか?」

「そうですね〜。<魔力探知・保有量マジックサーチ>・・・いえ、少しやる事があります。武装してついてきて下さい。」


・・・・・・?


エリスは鍛冶屋のドアを開け、細い道を抜けていく。

俺とアディル、ペテルもそれを追っていく。どうしてか外はさっきより少し熱い。

来た道にいた衛兵はおらず、人もいない。

こうして大通りに出る。

「・・・っな!」

「おいおい冗談だろ」



辺りは、いや エルフィムの街は・・・。紅蓮の業火と数々の悪魔で溢れていた。

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