第7話 最悪の予兆と記録の無い記憶

俺は村に戻った後無事だった機材の確認、エリスはお風呂に入り、今はリビングで夕食を頂いている所だ。

「そういえば、食料の保存とかってどうしているんですか? あと、この灯りとか」

この世界での食料保存方法や灯りなど気になった事が色々あったのでマリアさんに質問してみた。今はエリスの方を見ると色々不味いのだ。


「これかい? 魔道具をつかっているね。食料保存は冷却の出来る箱の魔道具、灯りはランプの魔道具だね。魔道具は魔力が無いと使えないから家にある魔力貯蔵庫に魔力を貯めて、必要に応じて使っているんだよ」


へぇ。家電製品は無くても同じような技術が有るのか。この世界の建築レベルは中世ヨーロッパ辺りだったが、生活面では現代レベルの技術を魔法技術によって会得しているのか。

「今の母さんは魔力がそこまで多くないので、私の魔力を貯蔵しています」

私の方が多いですよ! と自慢げに口を挟んだ。


今はということは昔は多かったのかな?

そんなことを考えているとエリスがハッとした表情を浮かべた。

「あ! そうだ、レクトさんの部屋の掃除をしていませんでした! 一応たまに<清掃クリーン>を使っているのですが完璧ではないのでレクトさんがお風呂に入っている間に掃除をしてきますね」

「あ、ああ。ありがと・・・う」


俺はすんなりお礼の言葉が出なかった。理由はエリスの格好に目を引かれたからだ。

ノースリーブで首元がゆったりしている作りなのでエリスの胸の谷間が強調されている。今は見えないが、下は際どいミニスカートなのでむちっとした太ももが丸見えなのだ。前にも思ったがエリスは結構エッチな体付きをしていて、サイズは大体90くらいの大きさである。そのため小さな動きでも大きな胸はタプタプと動く。


というか、この世界の寝間着はみんなこんな感じなのだろうか?


「この格好は一般のドレスコードとしては適切なので基本の寝間着はほとんどこんな感じです」

 エリスはジトーっとした視線を向けてくる。


「・・・また読心魔法か?」

「いえ? レクトさんが私の胸元辺りを物珍しそうにじーっと見つめていたので、そんなことを考えているのかなと思っただけですよ。・・・そんなに気になりますかね?」

 そう言ってエリスは自分の乳房を持ち上げた。音にしたらタプン、とかタユンという感じだろう。


「レクトさん。またエッチな目をしてますよ」

またまたジトーっと見つめてくる。

・・・男性はみんなこんな感じですよーだ。

「ハハッ」


少しふて腐れていると隣でマリアさんが笑いだした。

「大体の男はそんなもんで、みんなエッチだ。・・・ちなみに、エリスが今やった行為は男から見るとポイントが高いらしいぞ」

・・・なんか今日はたくさん心を見透かされてるな。それにマリアさんも痛いところを突いてくる。


「え!? そうなんですか?」

エリスは俺に尋ねてきた。が、これに答えては不味い。

「・・・マリアさん! お風呂借りてきまーす!」

俺は撤退を選択した。


「待ってくださぁぁい!」

後ろからはマリアさんの笑い声と、俺を呼ぶエリスの声が響いてきた。



~~~~~~~~~~~~~~~



「ふう」

冷たい夜風が風呂上がりの火照った体を流れていく。

風呂に入った後(湯槽にはエリスが入ったであろう残り湯があったが、頑張って無視した)はマリアさんに冷たいミルクを頂き、この家のベランダで飲みながら景色を見ていた所だ。

 

真っ暗で何も見えないと思ったが近くの森が薄い緑色の光を発しているのと、ちらほらと小さくて色々な光を発している物が蛍の様に飛んでいるため視界は悪くない。だが不思議な事に光を掴もうとしても掴めず、何処かにいってしまう。


「なんだこれは?」

「あー。それは精霊ですよ」

一人言のつもりだったが、エリスは聞いていたらしい。部屋の掃除が一段落ついたようで、ベランダに出てきた。


「掃除ありがとう。それで精霊って?」

「はい。正式名称は精霊種エレメンタル、私達人間種ヒューマンよりも上位の種族で、魔法との適正率が高いんだとか。高位精霊はもっと大きくて様々な魔法を使えるそうですがここにいるのは、はぐれの下位精霊でしょう。危害は無いですよ」


「他種族か。魔物とは違うのか?」

「ん〜。一概には言えません。ドラゴン一つとっても知能があり、国を作るような個体は竜王ドラゴンロードと呼ばれていて、魔物という区分ではなく、しっかりとした生きる権利があります、そこら辺を飛んでいるような野良ドラゴンなら魔物扱いされますよ。精霊種エレメンタルは昔から交流もあるので魔物ではないです」


色々と曖昧なんだな。

そんな事を考えているとエリスが目をつぶる。

「普段はあまりやらないのですが、一つ魔法を使ってみますか。〈精霊の声〉エレメンタル・エコー

エリスは魔法を使うと、一人でブツブツと喋りだした。精霊の声と言っているのだから精霊と話しているのだろう。


「この魔法は精霊の言葉を翻訳するのと、こちらの言葉も翻訳してお互いに聞こえるようにします。・・・ええっと、何々?」

俺に聞かせてくれるらしい。


「今日の昼に、エルフィム隣町、エール・セルヴィンで悪魔襲撃があったそうです。数は下位悪魔約10000、中位悪魔凍結の悪魔フロスト・デーモンが5000体、・・・上位悪魔陽炎の魔神将アドラメルクが一体だったそうです。中々の大物が出てきましたね」

「上位悪魔・・・」

この騒動って相当な被害が出たんじゃないか? 下位とはいえ一般人100000人分の戦力に、中位だから一般人35000人。13万5000の兵力に、魔法師序列第3位がセットだから・・・。


「考えたくねぇ・・・」

「そうですね〜。エール・セルヴィンの人口は約18万人。まともに戦える人はその半分と言ったところでしょうか。数はエール・セルヴィンの方が多いですが、一粒の質は明らかに悪魔の方が上ですからね。にしてもエール・セルヴィンよりもエルフィムの方が物資の流通はいいのでそっちを狙った方が余程打算的だと思うのですが。ええっと?なになに・・・、」


ふむふむ、とエリスは精霊の声を聞き続ける。そして苦笑を浮かべた。

「あー。悪魔の内、衛兵隊による討伐が13%、その他の一般人が2%。残りの84%全てが1人で片付けてました、魔法師序列第3位のバジステラ・エール・セルヴィン卿ですね。街はほとんど被害は無かったようです」

被害が少なかったのか。それにしても魔法師序列第3位がでてきたのか・・・ 、 ん? ちょっとまて、


「上位種が魔法師序列第3位レベルなんだよな? なんでそんなにぶっちぎりで討伐数が高いんだ?」

「え? ・・・ああ。バジステラ卿は一対多の戦闘特化の魔法師なのでこの状況なら序列第2位の人よりも強いです。対して陽炎の魔人将アドラメルクは戦闘よりも指揮能力が高いです。ですので手足である雑魚悪魔を片っ端から潰して撤退させたのでしょう」

優秀な将軍がいても部下が居なければ一般人と変わりないということか。


「この件で明日エルフィムから2万の兵が調査に行くようです。ついでに言いますと、最近小さな集落への悪魔襲撃が多いようなのでその件にもエルフィムから調査兵団を送るそうです」

そんなに兵を出して大丈夫なのだろうか。

「ふむふむ・・・。あ〜」

精霊の声を聞きいていたエリスは狡猾な笑みを浮かべた。その笑みからは今まで見たことの無い黒い感情が見えてくる。


「明日は荒れるかも知れませんね〜」

この笑みでこの少女は物語の中にいるただ優しいだけの美少女では無いことを確信し、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



俺はミルクの瓶を1階に持っていくとマリアさんから話があると言われ、食卓テーブルにつく。

「すまないねもう寝る所だろうに」

「いえいえ。まだ11時ですのでもう少し起きてますよ。部屋にあった本とかも読んで見たいですし」

エリスは自分の部屋に戻りベッドに入った。この世界での就寝時間は早いようだ。


「あの部屋は夫の部屋だったからね。その私物もたくさん残ってるから好きに使いな」

夫の部屋だった。過去形、つまり・・・

「お父さんどうかなさったんですか?」

「ああ。2年前、私の前で息を引き取った」

「 ・ ・ ・ 。すみません、何も知らずに聞いてしまって」

「いいさ。話したい事ってのに夫も少し関わってくるからね」

それでも俺は失礼極まりないだろう。


「夫は優秀な魔法師だったんだよ。エリアル・セクトルス、旧魔法師序列第2位で世界魔法師序列第6位、異名は『迅雷の魔術王エレクトロ・エレックス』私とエルはとある依頼で出会って、そこから何度か一緒に仕事をこなしたよ ・ ・ ・ 」

マリアさんはしみじみと語る。一緒にいた時の事を思い出しているのだろう。


「色々あったけど結婚して、エリスが生まれて、みんなで出かけたりして、・ ・ ・ ・ ・ ・いい時間だったねぇ」

そんな幸せな空間を壊した何かがあったのか。

「そんな私達に依頼が来た。近くの街に悪魔アムネルが出現したから討伐して欲しいって」

悪魔。さっきも出てきたな。

「アムネルって超級種の中で一番新しいやつですよね。時系列おかしくないですか? 確か最後に出現したのって30年前では?」

「文献ではそう書かれているが実際は違う。この国の政府はこの事実を隠蔽したんだよ」


政治のドロドロした話ってどの世界でもあるんだな。

「理由は2つ。1つは帝国との戦争が近かったって所だ。襲撃を受けて弱い所を突かれるのを恐れたんだよ。まあ分からなくもないさ。で、気に入らないのはもう1つの理由さ」

ここまで来ると俺でもわかる。


「エリアルさんが死んでしまったからですか?」

マリアさんは力無く笑う。

「そうだよ。確かにこの国の力が弱まった事が露見するのは避けたいさ。私だってそうするさ ・ ・ ・ 」


バン!


マリアさんの手が木製のテーブルに振り下ろされる。テーブルに夫の死を記録に残さなかったこの国の政府への怒りをぶつけたのだろう。

「ああ! わかるさ! 戦争のためだろう! 弱みを見せるのは良くないなんて誰が聞いてもそう言うさ! でも ・ ・ ・ 」

マリアさんの目から涙が流れる。悲しさか。怒りか。もしくはその両方か。


「でも! その男の妻としては認められない! 自分の夫が! 死んでまで悪魔 ・ ・ ・ いや魔王に抗った自慢の夫の記録を! 世界に残せないなんて! 」

魔法師としてのマリアさんは分かっている。記録に残す事が出来ないのは。でも妻としてのマリアさんがそれを受け入れない。いや、受け入れてはいけないのだろう。


「私だって! 守りたかった ・ ・ ・ 。でも私には力が足りなかった! 夫を救える力が! 力があればと思ってしまった! だから ・ ・ ・ 」

マリアさんは深呼吸をして息を整える。

「あの子も知ってしまったのよ。力を求めなければいけないという事に。目の前で父が死んでしまったから私と同じ事を思ってしまったんだよ」


そこからあの戦闘狂バーサーカーじみた発言や行動が来ているのか。

「力が無ければ死んでいく。力があれば自分の思い通りににいく。強くなれば命を救える。あの子はそうやって生きている内に戦いに快楽を感じるようになっていったのさ」


いや、多分そうじゃない。

「いえ、多分違いますよ」

「どういう事かな? あの子を1日見て何か感じる所があったのかい?」

たった1日だが話し、行動した俺の意見だが ・ ・ ・

「エリスは強者を求めていました。多分自分を鍛えるためでしょう。知識を蓄え、経験を積み、その先を目指していました」

俺の推測ではあるが。


「おそらく悪魔アムネルに復讐するのでしょう。近くで悪魔の襲撃事件があった時、彼女は笑っていました。それは多分復讐心から来るものでしょう。そういう表情でした」


マリアさんは複雑な表情をした。娘が復讐に生きる事が悲しいのか、仇敵を倒してほしいという気持ちもあるのか、強者になる事を目指して努力しているのが嬉しいのか。全てが混ざったような表情だ。

「なるほど。それを思った上でレクトはどうする?」


俺か ・ ・ ・


「そうですね ・ ・ ・ 。俺は彼女に協力しますよ。この世界ではまだやる事は見つけていませんから。それに倒れていた俺を助けてくれた恩を返さなければいけませんし」

なんにせよ俺は強くならなければいけないな。少しでもエリスに近づければいいが。


「そうか ・ ・ ・ 」

そう言ってマリアさんは席を立ち、反対側にいる俺の方にくる。

「マリアさん?」

マリアさんは無言で俺の顔を掴み、俺の目を覗き込んだ。


「良い目をしてるな ・ ・ ・ 。エルみたいな目だよ」

「あ、ありがとうございます ・ ・ ・ 」

褒められたのかな?

「まあ今はこの話をしたい訳じゃない。まあその瞳で言いたいことは変わったんだが ・ ・ ・ 」

マリアさんの言葉は俺は異世界に来て1番驚いたかも知れない。



「エリスと結婚してくれよ」



・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ・ ・ ・


「!?!?!?」

「そんなに驚く事か?」

いやいや。驚くとかそういう問題じゃないだろう。出会って1日で娘と結婚して欲しいとか言い出すのは正気の沙汰では無いと思うが?


「一応聞いてもいいですか? どうし俺なんですか?」

「さっきから同じようなことを言うけどその目だよ」

目?


「レクトの瞳はエルにそっくりだ。私はその瞳が大好きだった。国からも結婚相手を送ってくるが良い目をしてないんだよ。どいつもこいつもエリスの能力を子供に継がせようとしていたり、権力闘争でくだらない事の道具にしようという意図しか見えない。でもレクトは違う。何か目的を求め、生きることを楽しんでいる。そんな瞳をしているから。 ・ ・ ・ じゃダメか?」


なんだかんだで深く考えているのか。しかし、前の世界でも結婚なんて正直考えてなかったな。

「もう少し考えてからでいいですか?」

「もちろんだよ。前向きな検討を期待してるよ」


前向き ・ ・ ・ 。どうしようかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る