第6話 雷閃の魔女
俺達は血の匂いを追って路地に入っていく。
路地の幅は約4m。動くには充分ではないが不十分でもないような空間である。
そしてまだ13歳くらいの少年一人を犬の顔と体をしている二足歩行の生物が一人、同じように猫の体をしている生物が二人で顔面を殴りつけていた。
少年は既に血まみれで意識を失っており、抵抗することは無いはずだがそれでも止める気配はない。
「あの少年を虐めている方が獣人ですね。タリナザス王国にいるのはみんなあんな感じです」
「見た感じ危なそうなオーラ出してるんだけど?」
「そうですかね?」
犬の獣人だけで言っても2m半近い身長に丸太の様な腕。殺傷性の高い危険な爪や、ドーベルマンのような顔の口から見える鋭い牙。どこからどう見ても危険であろう。
「いえいえ。多分この獣人は弱いと思いますよ」
「どうしてそう言い切れる?」
エリスは、簡単ですよ。と言いながら楽しそうに説明してくれた。
「タリナザス王国は基本的に一騎当千というイメージがありますし、実際に強い場合は国から優遇されるのでここにいるのは仕事で派遣された強者か、国では仕事の無い雑魚ですね」
それで見た感じ不良の雑魚だったから弱者ということか。というか雑魚とか言うなよ。
「まあ見た目で判断するのもあれですがね。ちなみに犬の獣人の殴り方が素人っぽいというのも理由ですが。・・・ところで、あの少年を助けますか? それともあの獣人達に加担しますか?」
まて、発想がおかしくないか? 普通なら襲われている方を助けるぞ? まあ、そうだな・・・。
「この状態じゃ、どちらが白かは分からないから怪我を負っていない方をやるぞ」
「いい判断です」
エリスはやはり楽しそうだ。この状況で楽しそうにしているっておかしい気がするが。
俺達が近づくと犬の獣人がこちらに気付き、それに続いて猫の獣人がこちらを向いた。
「なんだテメーら! 見世物じゃねーんだよ、とっとと散りな!」
「あ~。完全に不良ですね」
エリスは近くでボソリと呟いた。
「今回は私は極力不参加にしようと考えています。レクトさんにとっては魔力強化後の初戦闘ですので、その体を慣らすという感じで。時間がたったら私も少し戦いたいですね」
魔力強化とはベルがやってくれたことだろう。ちなみに魔力強化は最大4倍だが、魔法による身体能力強化は本人の腕次第だがその5倍まで強化できるらしい。
「まあ、少しやってみる」
俺はエリスに伝わるくらいの小さな声で言った。が、どうやらそれが気に入らないらしい。
「なにコソコソしゃべってんだ! テメーもこのガキみたいにズタズタにしてやんよ!」
そう言って犬の獣人は俺に襲いかかる。
獣人は俺との距離を一瞬で詰め、俺の顔に殴りかって来た。人間では到底かなわないような筋肉から放たれる拳は鉄をも容易く砕くだろう。
しかし、俺は視線や体の動きからフェイントでは無いと見極め、その拳を相手の懐に入るように回避する。
「なっ!」
自慢の拳を回避されたのが驚いたのだろう。 そしてそのまま腕を掴み背負い投げを食らわせる。ここは煉瓦の道なので相当な激痛が走っただろう。
「ガッ」
しかし相手は獣人。見た感じこれくらいでは意識を奪えないだろうと思い、腰のホルスターからベレッタを抜く。セーフティを外し・・・・・・
ドバン!、ドバン!、ドバン!
発砲。右肩、両膝にそれぞれ一発ずつ。
これで一人。あと二人は・・・・・・
俺は残りの二人がいた場所を見る。そこには猫の獣人がいた場所には少年が倒れている姿しか無い。
どこにいった・・・・・・? いや、猫の身体能力は恐らくそのまま。一本道の路地では隠れる場所は無い。つまり・・・・・・。
「ッシャ!」
俺が気づいた時にはもう遅い。猫の獣人は上からの奇襲で俺の首に傷を負わせた。
至近距離戦はこちらが不利。適当に相手に照準を当て、発砲。更には上にいるであろうもう一人にも適当に発砲。このまま二発目を食らうのは良くないだろう。
上にいた一人は下に降りてもう一匹の半歩後ろに。俺は数m後ろに飛び退いた。
俺は傷口に触れる。
首からは鮮血がだくだくと流れているが、傷が傷口は大きくないため浅いだろう。
このまま長期戦になるのは不利だな。どうするか・・・・・・。
そんなことを考えているとエリスが待ちくたびれたかの様に前に出た。
「もう。 レクトさん遅いですよ~。 選手交替です。
エリスはそう言って俺に魔法を使った。するとすぐに傷が治っていく。そして周りからはバチバチという音が聞こえてくる。
「はーい。次は私と遊びましょう!
猫の獣人を囲むように雷の檻と数十もの電気の球体が現れる。
「~♪」
ジュワッ
エリスは鼻歌を歌いながら極太の雷を放ち、獣人を絶命させた。死体を残すことすら許さない圧倒的な一撃。前二つの魔法で逃げ場を奪い、攻撃特化の魔法で瞬殺。ベルの言ってた通り尋常じゃなく強いな。
「ん~。
なんかゆる~く言ってるけどそんな場合じゃないよね。多分。
俺は倒れている少年に向かった。
「大丈夫か?」
まだ息はあるが、相当な数の傷がある。
「あー。結構深そうですね。・・・
へえ。治癒魔法にもたくさんの種類があるのか。
「レクトさんに使った
「治癒魔法一つでも使いどころが違ってくるのか」
魔法一つでも結構深いんだな。
しばらくすると少年は起き上がり、俺達に礼を言ってくれた。
金髪が長く伸びており顔の半分が隠れている。目は見えないが確かに感謝の念が伝わってくる。
「今回は助けてくれてありがとうございました!」
まあ一応命の恩人だからなエリスは。礼くらいするよな。
「で、どうしてあの不良達に襲われていたんだ?」
話を聞くと結構簡単な事だった。急いでいた少年が獣人の不良にぶつかってしまったらしい。そこから不良達に金銭を要求され、断ったら殴りかかられたと言っていた。
ちなみに犬の獣人も叩き起こし、話を聞いたら同じことを言っていた。そして、獣人の処理だが。
「どうします? もういっそ殺しちゃいますか?」
エリスは物騒な事を言っている。それって絶対に女の子が使う言葉じゃないよね。
そんなエリスの言葉に犬の獣人は満更ではないような顔をした。
「え? 何? 君は死にたいの?」
思わず尋ねてしまった。
「いや! そうじゃない! ・・・本物の『雷閃の魔女』に殺されるなら、まあ仕方ないかって諦めがつくからさ」
雷閃の魔女?
「私の事を知ってるんですか! なんか嬉しいです!」
エリスは一人ではしゃぎ出した。
「・・・。ガクガクブルブル・・・」
え?
少年は『雷閃の魔女』という単語を聞いてから顔を青くし、体が震え始めた。
まて、温度差。
「なあ。雷閃の魔女ってなんだ?」
俺は獣人に聞いてみた。
「一緒にいるやつのこと知らねぇのか。・・・まあいい。『雷閃の魔女』ってのははこの国にいる伝説級の魔法師だ。タリナザス王国では超危険人物リストに乗ってるし、この国の魔法師序列じゃ七位だぜ。更には単独で竜王の一体、『
竜王は現在では五体いると言われており、上位種と超級種の真ん中辺りの強さだという。
「私としては殺した数よりももっと強い人と戦いたいですね。フランデル帝国の人は弱すぎです。まあ人じゃなくても良いですが」
エリスが強いってわかってたけど見た目化け物の生物から化け物扱いか。それでも七位って・・・。
「・・・あ、あの~」
少年は不意に俺達に声をかけてきた。
「今から錬金術師の鍛冶屋に行くのですが、お礼と言ってはなんですが何かプレゼントしますよ」
少年がモジモジと引き気味言ってくる。恥ずかしいのだろう。もしくは怯えか。
「そうですね・・・。今日は村に戻らないと日が暮れてしまいますからね。難しいです」
「そうですか・・・。じゃあ明日はいかがですか? 僕は鍛冶見習いなので明日もいく予定です!」
「はい。私は構いませんが、レクトさんはどうですか?」
錬金術ね。イメージの通りなら鉄から金を産み出したりするんだろうか。いや、それより重要な事があるか。
「俺も大丈夫だ。というか行きたい」
少年はパァっと明るい顔をした。やはり子供だな。
「はい! よろしくお願いします!」
エリスと俺は目を合わせて少年の素直さに少し微笑んだ。
「そういえば、そこの獣人処理を決めていませんでしたね。 やっぱり殺しますか?」
いや、そうじゃないだろ。
「一応、詰所に持ってくか。そっちの方が良いだろ」
エリスは考えるように唸ったあと、そうですね。 と言って近くの詰所に運んでいった。魔力強化だけで重そうな獣人を女の子が片手で持っているのだから魔力ってすごいなと改めて感じる俺だった。
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