一章 スタートライン

第2話 唐突の異世界

「⋯っは!」

気づくと俺は見慣れない小屋の中にいた。

六畳位の広さに、木製の壁。そして辺り一面に本が散らばっている。


「どこだ?」

たしか俺はワールドトレードセンターの瓦礫に押しつぶされたはずだったが⋯


そんなことを考えていると、部屋につけられている扉から1人の少女が入ってくる。碧眼で、ピンクのワンピースを着ており、それと同じ色のカチューシャが銀髪の上に乗っている。身長は160前後だと思われる。


「あ! 目が覚めたんですね!」

少女は長い銀髪を揺らしながらトコトコと歩いてくる。

「良かった⋯。 もう3日も寝ていたから目が覚めないかと思ってました!」


少女は笑顔で俺が目が覚めたことを喜んでいる。

少なくとも悪い人では無さそうだ。

「助けてくれたんですね。 ありがとうございます。」

「いえいえ。 森の中で倒れていたのですから。 助けるのは当たり前だと思いますよ。」


ん?

「森の中⋯ですか?」

「ええ」


どういう事だ?俺がいたのはワールドトレードセンター付近のはずだ。その近くのには森など無いはずだし、瓦礫の下敷きなのだから3日で目覚めた事が奇跡だ。 しかも俺のTシャツは無傷。

「すみません、ここはどこですか?」

「ふふふっ」

尋ねると少女はにクスクスと笑っていた。

「敬語使わなくても大丈夫ですよ。とても話しにくそうです。 私はこれが素なので」

「そうで⋯そうだな。 それで、ここはどこだ?」 「ここはアイクレルト王国の西端。 フェリト村です」


アイクレルト王国? フェリト村?

そんな国は俺の記憶には無い。

「⋯まあいい。ここからアメリカまでどれくらいだ? 」

「アメリカ? 初めて聞きましたよその名前」

「そうか⋯」


あまり信じたくは無いが、どうやら俺はとんでもない未開の地に転移してしまったらしい。

あっ、そうだ!

「すまん。 君の名前を聞いていなかった」

「私の名前ですか? エリス・セクトルスです。

エリスと呼んで頂いて構いません。 貴方は?」

「俺は⋯」


俺は⋯


俺は⋯


「すまない。 どうしてか出てこないようだ」

「そうですか⋯」

エリスはおもちゃを取り上げられた子供の様にしょんぼりとした。 以外に子供っぽいのかもしれない。


「まあいいでしょう。そろそろ朝食が出来ますが食べますか?」

「そうだな⋯。 ここまでして貰っているのにご飯まで⋯」

「大丈夫ですよ。遠慮しないでください」

「そう言ってくれるなら嬉しいよ。 頂こうかな」

「わかりました! もう少し待っててください!」

エリスはそう言って部屋を出ていった。


さて、俺もやることをやってしまおう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



持ち物


・リュックサック

・携帯電話

・ノートパソコン

・財布、ポイントカード

・免許証

・現金 ( 188ドル )

・預金通帳 ( 2557ドル )

・自動拳銃 ( ベレッタM92 )

・銃弾 ( 45発 )


⋯なるほど。

リュックがまるごと無事なのに感謝だな。これがなかったらベレッタに入ってる15発が全てだったぞ。

ただ携帯電話の電波が死んでるのは厳しいな。これじゃ助けを呼べない。 これからどうするか⋯。

そんなことをを考えているとエリスが入ってきた。


「ご飯出来ましたよ。早く!早く!」

「ああ。 分かった。 」

なんかエリス結構はしゃいでるな。 ホントに子供っぽくてちょっと可愛い。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


どうやら俺が居たのは2階のだったので階段で1階に降りると少し変わったリビングと、見慣れないが美味そうな食事が待っていた。


まず、部屋には窓がない。部屋全体は木造で、扉以外に外に通じる所がない。そして電気とはまた違う不思議な光を発するものがある。

そして端にあるキッチンにはガスコンロがない。

そして血圧測定機の様なものがあるが、奥に手をかざす部分があるためおそらく別の機械だろうが。


そして料理だ。

何の変哲もない食パンとイチゴジャム。 そしてポタージュの様なスープに、 青いキャベツの上に緑色のドレッシングがかけてあるサラダ、 ベーコンエッグだ。

サラダの色がすごいな。 朝食がパンなのは地味に嬉しい。

ベーコンエッグや焼きたてのパンの匂いが俺の鼻をくすぐる。 早く食べたい⋯。


「早く座りなよ。 覚めちまうぞ」

万遍の笑みで俺をテーブルに促したのは銀髪のお姉さんだった。多分エリスの姉だろう。

「はい。 ありがとうございます」

俺はなんの仕掛けもない4人用テーブルに座る。それに続いてエリスも座る。


「いただきます」

俺はパンにジャムを付けて、パクリ。

「美味しい⋯」

3日も食べていないからだろうか、ただのパンでも相当美味しく感じた。

ちなみに不思議な色のサラダは結構美味しかった。


食事が少し進んだころエリスのお姉さんが口を開いた。

「アンタ、森で倒れてたらしいじゃないか。 一体どうしたんだい?」

「ええっと⋯」

別に隠すことも無いので俺は正直に話した。

「わーるど? とれーど? せんたぁー? すみません、なんですかそれ?」

「私達はよく分からんねぇ」

「そうですか⋯」


やはり俺はどこか異郷の地に飛んできたということか。

「あ、エリス! 魔力がきれたから食べたらタンクに補充しておいて」

ん?

「わかりました。 あ、今日街に買い物に行ってもいいですか? 食料が心もとなさそうです。」

「いいよ。 私の服もよろしく」

「母さんの服ですか? わかりました」


魔力?

「魔力なんてあるんですか!?」

「え? ええ。」

エリスのお姉さん⋯ではなくお母さんが困惑した表情を見せる。

「俺の記憶にはそのような力はないんですけど⋯」

お母さんの表情を見ると魔力を知っていることは常識の様だ。 つまり⋯


「ここは異世界か?」

多分間違いないだろう。

「異世界って⋯すごい所から来ましたね」

「ああ、自分でもびっくりだ」

とりあえず外は未知の世界ということでいいだろう。 でも、どうしてここに? どうして俺が?

考えていても仕方がない。とりあえず行動だ。


「エリス、この後街に行くんだろう?」

「はい。 食料とついでに母さんの服と思っていたのですが⋯」

「ああ、俺もついて行っていいか?」

エリスはニコニコしながら頷いた。

「はい! 大丈夫です! ついでに街の案内もしましょうか?」

「ああ。 ありがとう」


「その前にシャワー入りなよ。 貸してやるからさ」

たしかに⋯。3日もシャワー浴びてないもんな。

「ありがとうございます、えっと⋯」

「マリアだよ。」

「ありがとうございますマリアさん」


俺はシャワーを浴び、最低限の装備を整えた。

「さ、早く行きましょ!」

エリスに手を引かれ、家を出る。

街か。 結構楽しみだ。

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