第19話 手記2

11月22日

 6時に起こされた。俺も行かなくてはいけない。人んちに大勢で入り込んで大丈夫なのかと問うと、人払いみたいなおまじないがしてあるとのことで、住居など生活する建物に近づいたり、庭園とか整備や手入れのされた場所に踏み込まない限りは問題ないと言われた。仕事の必須技能。


 俺は足手まといだと思うんだが俺を守る人員を割くより俺がワシノさんたちから離れないほうがいいというのがスタッフの意見だ。それともう一つ大きな要因がクチナシの姿や声などを皆それほど覚え込んでいないから。資料として、学校行事の記録や個人的な付き合いで撮られたものなどがあるし、俺もあの日一緒に撮った写真を提出した。

 しかし、なぜか、サギノさんは平気そうなのにリーダーたち現地組の多くには、クチナシの顔が憶えられないという。写真をコピーして携帯することになったが、コピーをとると、写真のクチナシの顔がなぜかぐしゃぐしゃというかシワシワというか、判別できないふうになる。


 クチナシの家から一番近い月極駐車場を借りて車を止めた。そして、玄関などがあるのとは逆のほうへ回り込むようにして目的地へ向かう。玄関や、建物に近いほうは道路に面しているが、半分以上は私有地(複数人)の山に接していて、山のほうは人影がない。道は行き止まりになっていて、フェンスや壁でふさがっている。


 フェンスに設けられた出入用の扉は鍵がかけてあるうえに、鍵をガムテープやひもなどでぐるぐる巻きにしてある。それには触らず、少し脇によじ登る。道の両側は私有地の山や森がはみ出してる感じで、そりゃ誰もこないよな、って思う。時間的なもんかと思ったが昼間下見のときでも薄暗くて不気味だったらしい。

 しかし、灯りなどは結構町のほうから見えてしまうらしい。光源は赤いフィルムを張ったライトを使う。作戦中に使うタブレットも光量を落としたり、画面を工夫したりして明るさを抑えても使えるように準備してあった。


 クチナシの画像をダメもとで表示してみたものの、時には見え時にはシワクシャという難易度高い仕込み画像みたいになってしまった。


 人払いの効果時間の都合で、効果がない時間は音や光を出さないように、動きを止める必要がある。今回は最初の効果時間で古墳周辺へ着けるようにし、出来れば周りをなるだけ調べ、時間内に隠れる場所を見つける。次は周辺を調べ、効果が切れる前に隠れ場所に戻る。そこで休憩と作戦会議をして、三回目の効果時間内に脱出。


 リーダーたちは、古墳内、祠の周辺(必ず儀式の場所へ行くための横穴があるはず、とのこと)、平成になってから新しく立てた神社のいずれかだと踏んでいる。最後の神社に関しては、存在は知っていたが近所の人が普通にお参りしてたくらいで敷地外との出入りが自由すぎて、敷地の中だと思わなかった。というかこのとき初めて知った。


 結果としては、古墳の中へ入る出入口が土砂で埋まっていた。祠の周辺は想定外に調べが進まず、何か所か出入口の見当をつけただけで終わった。

 神社だけは、奥の社務所への道の立ち入り制限のされている個所に、ごく最近人が複数回出入りしただろう痕跡を見つけた。そして、フェンスのサビに、黄色がかったベージュ?というかそんな色の線維が引っかかっていた。それを丁寧に回収した。

 俺にはその色に見覚えがあった。クチナシの下着の色だ。最初黄ばんでるのかと思って話をしたら、伝統的な衣服で植物とか紙とかで出来てるみたいなことを言ってた。シャツはなんか形が違ったし下はパンツじゃなくてふんどしだった。特に化学繊維と動物系禁止だったっけな。


 細かいのは最短三日待ちだけども分析結果も複数の植物の線維。いくつかは俺達がさっきまでいたあたりにも生えている。ただ、いなくなって何日か経ってるのにそのままあんなわかりやすい証拠を残したままにしておくか?という疑問もわく。

 俺は、古墳の周りの調査は最低限見つからない場所とかヤバイ場所を特定する以外やめておいて、クチナシを探すためにグループ分けするのはどうかと提案した。

 即却下された。ヤバイ場所を見つけ、その場で浄化しないといけない理由があるらしい。


 敵の力をそぐことが一番安全な策なんだ、クチナシ君にとっても。リーダーと、会社のちょっと偉い人はそういった。そして、俺は夕方、リーダーと二人で、隣の市の神社に連れていかれた。社務所には連絡がしてあり即通された。そして、


 ヤバイものと対面させられた。複数で完成するもの、とだけ。これは書き込みじゃなくても書けない。そいつを書き残すことはそいつの力を増やすことにつながる。何代もかけて弱らせてから、近代的な方法でゴミとして処理させる。


 そいつをしまってから、訓練と称して俺は呪文や浄化の練習をさせられた。会社に戻ると、お義父さんによる特別授業が始まった。22時に寝かされる。また明日は6時起きで繰り返しだ。




11月23日

 今日はクチナシの捜索はあの神社周りだけとなった。裏側から潜入するからめちゃくちゃ遠回りだ。当たり前だけど。時間もわずかだ。何回目かの書き込みを投下するように言われ、夕方に書き込みをする予定。


 昼寝の時に夢を見た。ゲームとかでありそうな、なんか長い長い洞窟をクチナシと走って逃げる夢だ。後ろから、あの時の薄気味悪い灰色の赤ん坊が張っているとは思えない速さで迫ってくるのを、中学入りたてくらいの俺が同じくらいの頃のクチナシの手を引いて走る。それをアクションゲームみたいな、少し斜め頭上の視点を基本にして、ただ眺めている。どうなったのかは覚えていない。


 夕方、書き込みをする。まだ当日のことしか書けていない。あえてペースはゆっくりだ。ハヤシギさん以外はそれほど食いついてない感じだな。

 ハヤシギさんはサイトの黎明期からいるコテハンで、サイト管理人さんから自分用のスレッドを立てるキーをもらってるくらいだ。30~40歳以上だなって以外男女も分からない。仕事に関する話を書くのでない限り、仕事内容なんかいう訳ないし、ハヤシギさんは俺が知っている限りそういう話を書いていない、と思う。リーダー曰く、みんなが想像する通りのおっさんだというから、そうなんだろう。



 初めて、お義父さんに見守ってもらいながらも、自分だけで古文書を読む。それと、同じ内容を書いた様々な記述と見比べ、メモを取る。このメモもネットの海に放り込む。


 夜、ハヤシギさんがチャットに部屋を開いていた。鍵付きで、招待者は俺だけ。リーダーと、ネットに詳しいサギノさんを呼んでから、入室。

 ハヤシギさんは、そこそこの古参である俺の心配も少しあるが、完全に興味で久知野のことを調べ始めていた。彼は特に、物語の中心である朽ちる神に興味を持っているようだった。

『単に作物を枯らす神だったら、鎮めるために祀ったものと考えるのが普通だ』

『もしくは、抑制した女神も同様に祀った場所があるはずだ』

『だが、抑制した女神に関しては、名前すら出てこない。名が伝わっていないのかと思ったが、探せるうちの最古の文章にも名前がない。中には、女神ではなく男神なのか女神なのか分からない描写が残る古文書もある』


 そこまで調べていたなんて。俺はお義父さんも呼んで、まずはハヤシギさんの考察を読みなおした。


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