第18話 手記1

11月16日

 リーダーに言われ、記録をとることにした。

 さすがに何もかも書き込みで残しておくわけにもいかない。書き込みできなくても残しておかなきゃいけないこともある。俺自身の行動も入る。

 書き込みする内容は打ち込んである。リーダーと、ネットに詳しいメンバーに見てもらってからになるけど、早くても明日か明後日には最初の書き込みをする予定。ハンドルはそのままのほうがいいかな。常駐というほどじゃないけど使い始めてから何年もたつから他のコテハンさんに気付いてもらいやすい。そのあたりも聞いてみること。あと、どれくらいフェイクとかぼかしを入れるか。


 文化祭が11月3日、俺が病院で検査と治療を受け、リーダーの説明を受け入れたのが6日。お義父さんの家に初めて行ったのが8日。養子の手続きと、家族と最後に話したのが9日。


 養子になって一週間。元の祖父母と同年代の人をおとうさんと呼ぶのにも慣れてきた。そのまま名前にさん付けでいいと言っていたけど、やっぱり失礼というかよそよそしいかなとも思う。


 リーダー(ワシノさん)は俺に何かをさせようとしている感じだ。タブレット迷彩(サギノさん)と同型のタブレットとスマホを俺にくれた。これはタブレットで書いている。データはネット上に保管してあって、多種のセキュリティで基本的に俺じゃないとアクセスできないような感じ。

 これまでクチナシから聞き出したこととか、調べたこととかをまとめておくつもり。そうすれば、俺に何かあってもワシノさんかその仲間の誰かが、引き継いでくれる。




11月17日

 クチナシの話をまとめたやつをさらに整頓する。午後準備→夕方~夜にかけて儀式、儀式の後にそのまま社で一夜を明かし、帰される。

 儀式の間と、社で夜が明けてから最初に神主?がしゃべるまで、儀式で踊ったメンバーは口をきいてはいけない。とくにクチナシは厳しく言われた。しゃべってはいけないという制限はクチナシ家ではよくあることらしく、3歳くらいからしつけられるとなにかの時に言っていた。俺の枯野のように、クチナシももしかして枯れないという意味のほかに口がない(喋らない。しゃべれない?)という意味もあるのかもしれない。

 クチナシの家を見張ってた人から連絡があり、クチナシが失踪したのを確認したという。単に出てこないだけだと思ったが、ちゃんと家の中の動きも見張っているらしく、たとえばクローゼットや押し入れにこもっているとかでなければどの部屋にいるとかも把握しているそうだ。最後に確認されてからいなくなった直後までのことは、今はまだ聞いていない。

 いなくなったのは、儀式とかの兼ね合いだろうか。




11月18日

 ワシノさんに言われて、初めて自分の先祖を丁寧に辿る。朽無がひとつと、朽野が五人になるまでたどったら、逆にその六人からそれぞれ出来る限り現代までたどる。

 古文書の見方も基本だけでも覚えないといけない。江戸末期くらいまででいい、いや初期まで、とワシノさんとお義父さんとサギノさんが言い合っている。険悪な感じというより、俺をおもちゃにしてる感じすらする。

 サギノさんが、こういう仕事は人がめったに増えないから後輩は弄ばれるものだと言った。俺は、弄ばれたんだろうなあ。


 夕方、ニュースでほんの少しだけ久知野高のことが流れた。風土病かテロなのか確認に手間取った、みたいな。当たり前だけど、当たり障りのない感じ。裏山にいる虫やヘビの毒でやられる人は毎年実際に出てるから、あんな報道ならこのあたりを知らない人にも違和感は少ないだろう。

 誤認というよりテロみたいなもんだろ、とワシノさんが怖い声で言ってた。怖かった。俺は知らなかったが、3日夜にも速報のテロップだけ流れたらしい。


 荷物もまとめたし、あとは最初の書き込みをするだけだ。こんな大きな家から荷物が小さいトラック一台って無理くね?って言ったら、遺品整理的な、家具とか全部置いてって一人分だけって考えたら十分だろうって返された。たしかに、お爺さん一人が都会の孫の家へ引っ越し、という設定?を考えたら、荷物があまりたくさんあったら入りきらなさそうだ。

 業者の制服が俺の分まである。体力づくりやらされた理由はこれもあるのかな。

 両親の引っ越しもこの偽装した会社で行う。超安い。迷惑料みたいなものか。俺のせいで、みたいなことを言ったらばあちゃんが、この家の子だから仕方がないんだと言って泣き出した。俺もばあちゃんの腕の中で泣いた。小学校のころに迷子になって以来か。

 祖父母は田舎の古い家に戻るらしい。何も知らない両親は神奈川か千葉だかに引っ越すことになっている。場所はあえて聞いていない。現地での仕事ももう決まってる。




11月19日

 偽装したトラックに処分品の家具とか本とかを積み込む。ヤバイ本も混ぜ込んで、会社に持っていって処分する。お義父さんがごめんねと笑っていた。むしろ俺のせいじゃないかと思う。言うとたぶんワシノさんにぶん殴られる。


 夕食のあと、最初の書き込みをする。まだ人が少ないかな?と思ったがレスがついている。たくさん過ぎないし、こんな感じで行こう。

 このオカルトサイトのことは調査済みらしい。前に会社がかかわった事件の関係者がサイトのROM専だったらしい。何人かのコテハンは身元をつかんでてこっそり監視もしてると聞いて、以前の俺のことを聞いたら、さすがに答えられないと言われてしまった。ダヨネ。




11月20日

 会社での「仕事」を終えてから二回目の書き込みをした。前よりレス数的には少なくした。次のぶんを書き溜め、明日リーダーたちにチェックしてもらう。リーダーたちはクチナシの家の森?を調べている。クチナシを探すのではなく、まだ、前段階だ。呪術的なものとか霊的なものとか、どんな様式を使っているかとか、強さや年代などを調べる。実際探しに行くときにはそういうオカルト的な装備も近代的な武装もしっかり持ち込んで、俺も装備させて連れていく。クチナシはリーダーたちを見ても何もわからないから、信用のために俺は連れていかれることだけは決定済みだ。


 今日の「仕事」も普通の廃棄物処理と家具の手入れ(やばくないものは海外に売る)と、ヤバイものの対処の練習みたいなものだ。

 初めてのヤバイものの処理は、古びて変なシミが付いた分厚い本だった。お義父さんが若いころ、どこかの骨董屋に怪しげな魔導書(笑)みたいな商品としてたたき売りされていたんだと。

 おそらくは中二病の結果、ようは学生のいたずらで作られたもののようだが、本物の魔術のように、製作者の髪や爪、血液のような身体の一部を利用していて、本人たちにその気がないだろうによくない仕上がりになっている。


 俺も早く、弱いものならこまごまとやらずに祝詞読んで気合で破ァーーーー!!ってやって燃やしたら済むようになりたい。いわゆる「零感」だからよくわかんないけど。




11月21日

 昨日の「仕事」と書き込みの内容のチェックを受ける。

 クチナシのことに気付いていないように見せるため、クチナシ捜索のことは出さないようにしろという命令が下った。直接は書いてないが、今クチナシがいないふうに取れる書き込みを少し改造した。もう少し書き溜めをする時間をもらったので時間いっぱいまで書き溜めた後、リーダーと似たような恰好の人に仕込みを受けた。22時までやって、風呂と飯だけで強制的に寝かされた。

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