第7話

昼休みになると、生徒の行動は大まかに2パターンに分けられる。

一つは、食堂で昼食を摂るもの。もう一つは教室で摂るもの。

例外は存在するようだけど、その件について僕は全く興味がないので放っておく。

「……雄介、飯行こうぜぇ」

眠そうな顔をしながら孝昌が財布片手にやって来る。

「……食堂で、か。ごめん孝昌、今日はパスで」

「マジかよ。弁当か?」

「まぁ、そんなとこかな。一緒に食べたいならパンか何か買って来てここで食べよう」

「メンドいからやだ。一人で食え!」

孝昌は指を突きつけてから、大股で食堂に向かった。あらあら、怒らせちゃったか。

どうやって慰めようかと思案を巡らしつつ、僕はお隣さんへと視線を向けた。

「……ぅ、すぅ、すぅ……」

今日の初っ端の授業からこんな感じだ。

起立、礼、睡眠。ホントによく寝てる。


「いただきます」

ボソッと呟いて、弁当のフタを開けた。パカッという音と共に見えたのは、白ご飯。

二段弁当の上は白ご飯。下の段は冷凍食品のコロッケやらミックスサラダなど。

「……瀬海さん、お昼、どうするんだろ」

「食べますよ?」

「……ッ!?」

驚きのあまり大声で叫びそうになった自分の口を塞ぐ。机に突っ伏した横顔から覗く目は、知らぬ間にバッチリと開いていた。

「ビ、ビックリしたぁ……」

ほう、と胸を撫で下ろす。瀬海さんはぐいっと伸びをして、脱力感満載の姿勢で僕のお弁当を覗いた。

「……ほほう」

「言っておくけど、あげないからね」

「誰がそんなこと言ったんすか。やだなぁ、えと、名前なんでしたっけ……」

「高島」

「そうそう、高島くん。私がそんな物欲しそうに見えてたって言うんですか?」

「見えてた。すごく、目がキラキラしてた」

もちろん、真っ赤な嘘だ。

その嘘に、瀬海さんは狼狽えていた。

「な、何をバカなっ。私がそんなことするわけないじゃないですか!」

「じゃあ聞くけど。お昼は持って来てるの?」

瞬間、瀬海さんの心臓の拍動以外の全ての動作が停止した。

「……」

「……え、大丈夫?」

「……そ、」

「そ……?」

瀬海さんはギリギリと、壊れかけのロボットのように口を動かして、

「そんなのォッ、あるはずないじゃないすかッ!!!!」

恐ろしいまでの勢いで否定した。

僕は大慌てで火消しに走る。が、時すでに遅し。

「せ、瀬海さん。その弁明は苦しいものが……」

「知りませんしどうでもいい!! 修正不可能レベルの致命的なミスを犯しているのは自覚してますけど、そんなこと今はどうでもいいんすよ!」

「え、えぇ……?」

すると勢いよく立ち上がり、両手を広げて高らかに、否、デスボイスで絶叫した。

「私は、今日、お弁当を忘れたんですっ!! つまり、お昼ご飯が食べれません!!」

なので、と僕の方へ向き直る。そして手のひらを差し出して、こう言った。

「……お金貸してください」

「金利は10%ね」

「……この薄情者ォ!!」


その後、瀬海さんはなんだかんだで僕にお金を借りて、泣く泣く利子付きで返してくれた。

もちろん、彼女のイメージがたった一日で崩れたのは言うまでもない。

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