第4話

放課後。陽は暮れかかり、生徒の数が極端に少なくなった頃。

僕は見たんだ。

一条に、転校生が暴行を受けているのを。

椅子などのモノは使わず、手足の殴打による暴行だ。

鈍い音が立て続けに響く。

「う、ぐっ……」

「……気に入らないですわ、貴女のその態度が。その口調が。どれだけ余裕ぶって私を惨めにすれば気が済みますの!?」

「あ゛ぁ……!!」

蹴りが鋭く腹部に刺さる。瀬海さんがお腹を抑えてうずくまった。

携帯を構え、バレないよう周囲に細心の注意を払って録画を開始する。

「私のことが、そんなに妬ましいんすか……?」

「ええ、それはもう! 貴女は何度も、私の前に立ちはだかって、私の上に立ち続けてきた! ……でも、今の貴女にはこの手は必要ありませんものね!!」

「マズイ……」

録画を止めて、杖を数回、床に打ち鳴らす。

瀬海さんの手を踏みつけようとした足が止まる。

「ちっ……」

その音はどうやら足音に聞こえたようで、一条は忌々しげに舌打ちをした後、瀬海さんを置き去りにして、去っていった。


周囲に誰もいないことを確認し、廊下で倒れている彼女の前に来た。

瞼をゆっくりと開いて、レンズの奥の瞳が僕を捉える。

「……ぁ、えっと、誰でしたっけ……」

「お隣さんだよ。高島雄介。あの、大丈夫だった?」

「平気っす。これぐらい、慣れてますから。いっつぅ……」

彼女の顔が、苦痛で歪む。

お腹を抑えているところを見ると、そこを重点的に攻撃されたようだ。

「病院行くかい?」

「あー、いや、いいです。おおごとにしたら、マズイことになりそうなんで……」

「うーん。じゃあ、ウチに来る?」

「は……? なに、言ってんすか。新手のナンパか、何かですか……」

「いや、僕はチキンだからそれはない」

そう言うと彼女は、面倒くさそうにため息を吐いた。

「即答ですか。はぁ……、でも良いんですか?」

「うん、構わないよ。親御さんには連絡出来そう?」

「それは大丈夫っす。……えーっと、お願いします。へ、変なことしたら警察に突き出しますから」

白い目で見られる。こっちはそんなつもりカケラもないんだけど。

「よし。じゃあ、ほいっと」

手を差し伸べる。

彼女は少し恥ずかしいがりながら、僕の手を掴んだ。

「オーケー。行きますか」

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