第3話 有馬記念を狙え

 昼休みの理科準備室。本日、女子生徒三人組は弁当を持参しておらず、学食で食事をしている。そして、いつもはいない数学教師のギー先生こと田中義一郎が来ていた。


「今夜計画を実行したい。田中先生に任せるがいいか」

「はい、わかりました」

「タンデムシートには星子を乗せる。この条件で引き受けてくれるな」

「もちろんです」


 頬を赤く染め羞恥に捕らわれている義一郎である。三谷は女子生徒に熱を上げている義一郎に一言注意を促すべきだろうと考えたのだが、自己の野望をなす為その一言を呑み込んだ。


「ところで、どういう目的でタイムリープするのですか」

「それはだな。過去にさかのぼり結果の分かっているレースの馬券を購入するのだ」

「馬券ですか」

「そうだ。狙うは有馬記念」

「なぜ有馬記念なのでしょうか」

「理由は一つ。日本で最大級に資金が投入されるレースだからだ」

「それはどういう事でしょうか」

「多くの人はな。オッズを見て購入馬券を決めるのだ。オッズはまあ購入された金額が多ければ多いほど下がる。人気薄、つまり購入された金額が少ない方が上がる。そういう仕組みだ」

「大体知っていますけども」

「つまり、過去にさかのぼって大金を投入してみたまえ。オッズが変化し歴史に影響を与える可能性がある。例えば、地方のボートレースで100万単位で舟券を買ってみたらいい。オッズが一気に半分以下になったりするぞ」

「7倍が3倍になったりするわけですね」

「ああそうだ。地方競馬でも同じだ。大金を投入するにはデメリットしかない。それと比較してJRA日本中央競馬会最大のレースが有馬記念だ。このレースに投入される金額は他のレースと比較して桁が違う。100万単位ではほとんど変化しない。オッズが変化する事でレース結果が変化するとは思えないのだが、そこは慎重に行動すべきだろう」

「はいわかりました」

「ところで田中先生。資金の持ち合わせは……あるかな?」

「五千円程度なら」

「五千円か、仕方がない。では、私のこの切り札である一万円札、そして田中先生の五千円を資金にしようではないか」

「たったそれだけで勝負できるのですか」

「勝負するのだよ。転がすのだ」

「転がす?」

「そう。転がすのだ。前のレースに資金を投入し的中させる。そこで得た資金を本命に投入するのだ」

「うまくいきますかね」

「必ずうまくいく。まずはこれを見たまえ」


 三谷が資料を広げた。そこにはこう記載してある。


2017年12月24日(日曜)5回中山8日

10R「2017フェアウェルステークス」

払戻金

単勝 ③ 840円

複勝 ③ 230円、⑦ 890円、⑪ 510円

枠連 2⃣-4⃣ 4360円

馬連 ③-⑦ 16690円

ワイド ③-⑦ 3770円、③-⑪ 1460円、⑦-⑪ 8280円

馬単 ③-⑦ 29740円

三連複 ③-⑦-⑪ 63900円

三連単 ③-⑦-⑪ 421800円


「これだ。この一万五千円を中山10Rに全額つぎ込むのだ。もちろん三連単にだぞ」

「これは……100円買ったら42万円って事ですか?」

「そうだ。1万円なら4200万円だな」

「四千万?」

「まあ待て。こんなオッズの3連単に一万円だけ突っ込むのは怪しまれるだろう。そこで、4着の⑤番を絡め、一着固定のボックス買いをする。そうすれば不自然ではない」

「はい」

「つまり、③-⑦-⑪、③-⑦-⑤、③-⑪-⑦、③-⑪-⑤、③-⑤-⑦、③-⑤-⑪、この六通りを購入するのだ」

「となると一点あたり2500円ですね。配当は……それでも10545000円になる……」

「そう、その一千万を有馬につぎ込むのだ」

「一千万もですか?」

「問題はない。大口専用の窓口がある。そこは混まないから、並ばず楽に購入できるだろう」

「同じようにやるんですか?」

「これを見ろ」


2017年12月24日(日曜)5回中山8日

11R「第62回 有馬記念」


[払い戻し]

単勝

② 190円

複勝

② 120円

③ 550円

⑩ 180円

枠連

1⃣-2⃣ 1600円

馬連

②-③ 3170円

ワイド

②-③ 1180円

②-⑩ 280円

③-⑩ 2760円

馬単

②-③ 3810円

三連複

②-③-⑩ 5430円

三連単

②-③-⑩ 25040円


「ああそうだ。一番人気のキタサンブラックから同様に購入するのだ」

「つまり、②番を1着固定にして2~3着を③番、⑩番、そして4着の⑭番のボックスですね」

「すなわち、②-③-⑩、②-③-⑭、②-⑩-③、②-⑩-⑭、②-⑭-③、②-⑭-⑩、の六点買いだ」

「一点当たり150万ですか」

「そうだな。予定通りなら25040円×15000で3億7560万円の配当だ」

「三億……そんな大金どうやって持って帰るんですか?」

「心配ない。馬券をそのまま持って帰ってくればいいんだ。換金は60日有効だからな。まだ1月だから問題ない」

「なるほど」

「今夜8時集合だ」

「わかりました」


 三億の資金を入手できる、その期待感に三谷は震えていた。

 義一郎は星子の胸の感触を思い出し、赤面していた。


 決行は今夜。義一郎は一万五千円を握りしめ、過去へ飛ぶ決心を固めていた。

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