第2話 タイムリープテスト

 真冬の凍てついた空に星々が輝く。透明感を増したその空に、オリオン座の三ツ星とその下にある大星雲がはっきりと見えている。

 夜の八時、三谷の自宅へ集まっていたのは黒田星子、綾川知子、有原波里、トッシー・トリニティ、田中義一郎、そして三谷朱人の6名だった。


「他の人呼ばなかったの?」

「こういう儲け話は広まるのが早い。このメンバーなら安心できるからさ」

「ふーん。そうなんだ。信用あるんだね」

「まあな。信用というよりは性質だけどな」

「性質?」

「そ。みんな大体ぼっちだろ?」

「あ、そうか。あははは」


 何故か普通の会話をしている星子と知子だが、他のメンバーには新鮮に映る。

 先月の実験でエンジンが焼き付いたマッハの修理は完了していた。その赤いマッハの周りにメンバーは集まっている。


「時間がもったいないので既に時間跳躍用の改造は済ませてある。このマッハには新たにタイムリープカウンターを取り付けてある。今夜は、マッハが正確にタイムリープできるかどうかのテストを行う。30秒前、30秒後、それぞれ実際にタイムリープできるのか、誤差はどの程度あるのかを確認したい。ライダーはギー先生、星子は後ろのシートだ」

「わかりました」

「はーい」


 迷惑な呼び出しであろうに、義一郎の顔は上気してほころんでいる。星子も義一郎の後ろに乗ることが気に入っているようだ。浮かれている様子が周りに伝わっている。義一郎はマッハに跨りキック一発でエンジンを始動する。おもむろに星子を見つめ頷くと、星子も頷いてリアシートへ座る。もこもこのダウンジャケットで着ぶくれている星子は、義一郎にギュッと体を押し付けてしがみついた。


「何だかいい感じで恋人同士になっちゃってるよ」

「これは羨ましすぎますわ」

 

 知子と波里が茶化すのだが、星子はもう自分の世界に浸りきっているようだ。義一郎はかえって緊張し、体が硬くなっている。


「この直線道路は約3キロメートル、往復6キロメートルだ。先月の実験と同じ場所になる」


 三谷の説明に義一郎が頷いている。


「田中先生はここを三往復してくれ。概ね平均時速120キロメートルで走ってほしい。Uターンも含めて平均時速が120キロだから、道中は最高180キロ程度は必要だと思う。厳密な速度は考えなくていいが約3分で一往復する感覚で頼む。メーターの上部に、デジタル表示の時計とタイムリープカウンターが設置してあるから参考にしてほしい。タイムリープのタイミングはこちらで入力する。取り合えず一往復してくれ。二往復めの1000メートル地点で30秒未来へとタイムリープする。三往復目の2000メートル地点で30秒過去へとタイムリープする。計算上、二往復目は1000メートル地点から2000メートル地点へと跳躍し、三往復目では2000メートル地点から1000メートル地点へと跳躍するはずだ。クールダウンしてから戻ってきてくれ。いいな」


 義一郎は頷きマッハをスタートさせる。見事に重心が落ち着いたライディングでスタート地点へと向かう。Uターンしてから全開加速を始める。そのまま加速して目の前を通り過ぎていく。


「トリニティ。どうか」

「予定通りの速度ですね。正確です。ギー先生ってテストライダーでもやってたんですかね」

「なかなかの技術だな。一般人には真似できんだろう」

「確かに、並の腕じゃない。白バイ以上だよ、あれは」


 賞賛の言葉は彼の耳には届いていないだろう。マッハは復路の反対車線を通過しスタート地点へと向かう。再びUターンした後、全開加速を始める。


「トリニティ。どうか」

「シンクロ率100パーセントを維持。タイムリープ開始です」


 1000メートル地点に差し掛かったマッハは眩い光に包まれ2000メートル地点に出現した。そのまま走り去っていきUターンする。復路を再び全開加速していく。


「成功です。30秒未来へのタイムリープに成功しました」

「うむ。今度は過去だ。行けるか」


 再び全開加速して往路を走り抜けるマッハ。今度は2000メートル地点で眩い光芒に包まれ、1000メートル地点へと移動していた。後ろ側へと出現していたのだ。そのまま目の前を走り抜けていく。


「成功です。30秒過去へのタイムリープ成功しました。完璧です」

「ふふふ。私の科学技術とトリニティの魔術を融合させた超魔技術だな。最高だぞ、ははあははは」


 三谷の高笑いが周囲に響く。予定の過程を走り終えたマッハが帰ってきた。マッハに跨っている二人に三谷が質問する。


「どうだった? 体調に変化はないか? 記憶はどうだ? 混乱していないか」

「特に問題はないと思います。光に包まれて1000メートルも前に出てたのには驚きましたが、事前に聞いていた位置だったので迷わずに対応できました」

「ああ。なんだかすごく興奮しました。これ、病みつきになりそう」


 そう言ってぎゅっと義一郎に抱きつく星子だった。

 ヘルメットを被ったままの義一郎は、羞恥のあまりその場で固まっていたという。

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