屋敷へ帰還

 ジャスティーナが眠りに落ちかけようとした時、ざわめきが耳には入りベッドから起き上がる。

 ハンク達にイーサンが戻ってきたら起こすと、無理やり客間のベッドに連れて行かれた彼女はやはり寝付けなかった。

 彼たちはああ言っていたが、ジャスティーナを起こさないつもりだったはずだ。

 眠らなくてよかったと、彼女は駆け出す。


「ジャスティーナ様!」

「イーサン様」


 部屋から飛び出してきた彼女の姿にモリーが驚きの声を上げる。ジャスティーナは、ニコラスに肩を借り、ようやく立っているイーサンを見て悲鳴をあげそうになった。

 

「だ、大丈夫だ」

 

 近寄ると顔が腫れあがっており、服も薄汚れ、暴力を振るわれたのが一見してわかる。


「モリー。傷の手当てをしましょう」

「はっつ、そうでしたね。お湯と塗り薬を用意いたします」


 ジャスティーナは傷ついたイーサンの姿に腰を引きそうになったが、ドレスの端をキュッと掴むと、モリーに声をかける。

 彼女の言葉に反応し、我に返ったようにモリーが動き始めた。


「ハンク。マデリーンのことをお願いね。ニコラス、イーサン様を寝室にお連れして」

「はい」


 顔を腫らしたイーサンの帰還に呆然としていた使用人達は、ジャスティーナの指示にそれぞれ自分を取り戻し、与えられた役割を果たそうと動く。

 ただしマデリーンだけは不服そうにしていたが、ハンクに諭され渋々と部屋に戻っていった。「朝食はまかせておいて」その言葉を残してだが。


「ジャスティーナ。俺は大丈夫だ。部屋で休んで」

「嫌」


 ベッドに横になったイーサンはまず先にそう言葉を漏らしたが、最後まで言う前に、ジャスティーナが首を横に振る。


「あなたがこんな状態で、ゆっくり寝られるわけがないわ。それはきっとマデリーンもだろうけど。私はあなたにずっと付き添っていたいの」


 ジャスティーナはニコラスにも勧められ、ベッドの側に椅子に腰掛けて、彼の手を握った。


「俺、モリーの様子見てきますね」


 ニコラスは軽い咳払いをした後、早々に部屋を退散する。

 通常の状態のジャスティーナなら自分が放った台詞が非常に甘いものであることに気がついたのだが、今はただイーサンのことが心配でたまらなかった。なので、ニコラスが出て行くことにもただ頷くだけで、イーサンに目を向けたままだった。


「ジャスティーナ。大丈夫だから。出血もしてない。ただ顔と腹を殴られただけだ」

 

 ベッドの上の彼は献身的な彼女にかなり照れてしまい、顔が腫れているから顔を熱いのか、恥ずかしいから熱いのかわからないくらいだった。


「お腹?大丈夫?ちょっと見せて」

「いや、必要ない」

「だめよ。ちゃんと見ないと!」


 周りが見えていないジャスティーナは、彼のシャツをまくりあげようとした。抵抗するのはイーサンだ。

 二人が揉み合っていると、扉を開けたモリーの驚きの声によって、ジャスティーナはやっと冷静になった。


「ごめんなさい。私、なんてことを!」


 一気に頬を真っ赤に火照らせて、部屋から逃げたくなったが、イーサンの怪我のことを思い、思いとどまった。


「モリー。お湯と薬ありがとう。わ、私が世話するわ」

「ジャスティーナ。それは」

「モリーにさせるつもり?」

「いや、それはないが。ニコラスに……」


 今度はイーサンが顔を紅潮さて、モリーのほうが歯がゆくなってしまう。


「埒があきません。ニコラスにさせましょう。治療が終わったら、ジャスティーナ様が付きそうということで」

「任せる」

「え」

「ジャスティーナ様。大丈夫です。旦那様は逃げません」

「わかってるわ」

「それでは部屋の外で待ちましょう」


 ニコラスがなんだか申し訳なさそうに部屋に入ってきて、ジャスティーナは自分が如何に子供っぽかったかと反省する。


「ごめんなさいね」

「そんなことはないですよ。可愛いです」

「え?」

「ね、旦那様」

「あ、ああ」


 どさくさにそんなやりとりをしてから、モリーはジャスティーナを連れて部屋を出た。


「お疲れでしょう。何かお飲物をとってきますね。もしかして旦那様もお腹もすいているかもしれないし」

「私が」

「ジャスティーナ様。ここで椅子に座ってお待ちください」

 

 無理やり肩を掴まれ、モリーに椅子に座るように念をおされ、彼女は勘弁して、座って待つことにした。



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