解けない魔法11
数日後、森の魔女が飴玉を回収するために、デイビス家を訪れた。
沼の魔女はしばらく森の魔女預かりとなり、彼女の手足として働かされることになるそうだ。
「イーサン。忙しそうじゃのう」
「誰のせいだ」
夜会から、イーサンの元へ、メーガンとの面談を取りついでくれと申し出が多くなり、彼は急に忙しくなった。
森の魔女はその責任を取り、イーサンから連絡を受け、よしと思う人物だけには会うことにしていた。
会う条件の第一に、イーサンに話を通すことを入れているので、彼の昆虫顔と対面できない者は、その時点で失格となるのだ。
昆虫男爵を恐れる者がまだ多いが、それでも一日少なくとも一名と会い、その用件を聞く。
そうなると数ヶ月もたつと、イーサンの人物なりを気にいる人も出てきて、お茶などに誘われることになった。
こうして、彼は顔を隠すことなく、変えることなく、外に出る機会が増えていった。
ジャスティーナはそれを嬉しく思っていたが、自分以外にも彼の魅力を知る人が多くなり、ちょっと心配するようになっていた。
「大丈夫ですよ。ジャスティーナ様。というか、まだ結婚の申し込みをいただいてないのですか?もう!あの方は!」
「モリー。そんな風に言わないで。婚約者なのは確かなのだから」
「それもお約束はまだされていないんですよね?」
モリーは、正直言ってそろそろデイビス家で夫と仲良く暮したかった。そのためには二人に早く結婚してもらう必要がある。
「ジャスティーナ様。一日だけお休みをくださいませ。デイビス家に参ります」
「いいけど。イーサン様には何も言わないで」
「いいえ。言わせてもらいます。あのへたれ!」
「モリー……」
ジャスティーナもそう思うこともあったが、この状態を楽しんでいた。
夫婦一緒に暮せないモリーには悪い気はしているので、再三デイビス家に戻るように伝えている。しかし、彼女はがんとして譲らなかった。
現在、ジャスティーナはホッパー家の使用人たちとも、母とも仲良く話せるようになっており、のんびりとした生活を送っている。
☆
「へ、くしょん!」
「イーサン。風邪か?」
今日はウィリアム・ハンズベル伯爵がイーサンの屋敷を訪れていた。
彼は森の魔女には興味はなく、単に面白いという理由で、イーサンに会いにきていた。
「時に、君はまだホッパー男爵令嬢に結婚を申し込んでないのかね」
「は、はい」
「そんなに待たせたら、ホッパー男爵令嬢が誰かに攫われてしまうぞ。あれほどの美人だ。二度の婚約破棄でも、妻にしたい男性がたくさんいる」
「二度とは?」
「一度は、ルーベル公爵子息。二度目は君だ」
「二度目はありません!」
「だったら急ぐのだな」
ウィリアムは、イーサンをからかうのが面白く、毎回こんな感じで彼との会話を楽しんでいるようだった。
彼以外にも同様な理由で訪れる人も少なからずいて、イーサンは毎日にぎやかな生活を送っている。
数ヶ月前、森でジャスティーナに出会う前には考えられなかった生活だ。
森で彼女に会えたことを、イーサンは心の底から感謝していた。
昆虫男爵は美しい令嬢と会い、姿こそ醜いままであったが、心にかかった魔法は完全に解かれていた。
イーサンが悪夢にうなされることは二度とない。
彼は昆虫男爵として、愛する妻と生涯幸せに暮らしたという。
(おしまい)
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