第3話 マッドサイエンティストが魔術回路を使う時

「さあトリニティ君。魔改造の概要を説明する」

「はい。ミミ先生」

「エンジン自体はノーマルのままにする。耐久性を考えればこの選択が一番だ。先ずはオルタネーター。ここに魔術回路を組み込み、直流電力を高次元エネルギーへと変換する。この電気回路を通じてマッハの車体は約70パーセントが高次元化する。次はキャブレターだ。キャブレターの吸入側、エアクリーナーの位置に私の発明した次元吸引器を取り付ける。これはこの宇宙に遍在するダークエネルギーを抽出する役目を果たす。そのダークエネルギーとガソリンを混合する為の魔術回路をキャブレターに組み込むのだ」

「はい、何となくイメージできます」

「そして肝になるのがスパークプラグだ。ガソリンとダークエネルギーの混合体に着火せねばならない。このスパークプラグには私の発明したダークマターエフェクトを組み合わせる。うまく着火できれば膨大な高次元エネルギーが発生し、エンジンを三拍子で回転させるのだ」

「それでどうなるのですか」

「これでマッハのエンジンは次元駆動力を得る。次はそれを伝達する装置だ」

「はい、それはタイヤでしょうか」

「その通り、現在はダンロップのTT100GPが取り付けてある。新品だがヤスリで一皮むいてあるぞ」

「新品タイヤは滑りやすいと言いますからね」

「うむ。ここに時間軸に対して駆動力を生む重力子スパイクを組み込むのだ。これは既に私が発明しているものを使用する」

「なるほど」

「最後はヘッドライトだな。ここに時間調節用の高次元ソナーを搭載するのだ。このソナーがないと調節のための正位置が把握できない」

「これらを組み合わせることで実現するわけですね」

「そうだ、マッハが1000メートルを18秒で走りぬける時、外の世界では0・0000029秒しか経過していない状態を作り出す。ちょいと時空を歪ませマッハを時間に逆らうように走らせるのだ。まあ、70パーセントの高次元化がミソだな」

「ところで、そのタイムをどう計測するのですか?」

「ふふふ、空間変異測定器を使う。物体が移動する距離と時間を正確に測れる。一億分の一秒単位でな。これもすでに準備済みだ」

「おお、ミミ先生素晴らしい」

「では早速作業に取り掛かろうではないか」

「はい!」


 トリニティと三谷は作業を開始した。先の技術的な会話についていけなかった知子は、パイプ椅子に座ったままウトウトと眠っていた。星子はというと、この娘もピストンとスパークプラグを握りしめ、ソファーの上で眠りこけていた。


「ふん。クソにも劣る……。むにゃ」


 星子は相変わらずアニメの夢を見ているようだ。


 それから約3時間経過したところで稀代の魔改造は終了した。外装関係はトリニティの魔法により復活し、新品同様に光り輝いていた。


 大あくびをしながら知子が目を覚ます。


「お! ピカピカになってるじゃん。これすげえよ。どんな魔法を使ったんだよ」

「はははは。まあ、古代の魔法ですね」

「訳わかんないけどまあいいや。ところで先生。これ誰が乗るの。誰か大型二輪免許持ってるの。私は普通二輪だから400ccまでしか乗れないんだけど」


 三谷とトリニティは顔を見合わせる。二人とも眉間にしわを寄せていた。


「あ、僕は原付免許しか持ってないですよ」

「私は普通免許と大型特殊だな。無限軌道キャタピラーの車両なら任せたまえ。自衛隊の戦車でも運転できるぞ」

「ミミ先生。これ、戦車じゃなくてマッハなんだけど。オートバイ」

「あははははは」


 マシンは仕上がったがそれを運転できる者がいなかった。寒空の下、三谷の乾いた笑い声が深夜の作業場に響いていた。

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