第10話 ロック湖への道のりは厳しいです……

 翌日。コータは昨日よりは少し遅い、しかし普通に考えれば早い時間に冒険者ギルドにいた。

 昨日約束した冒険者バッグとやらを買いに来たのだ。


「うっせぇな!」

 もう少し早く来ればよかった。冒険者ギルドの受付はコータの知る限りではナナ一人だ。そのナナの前に、黒い長髪を後ろで結んだ男が声を荒らげている。それをみたコータは、心底でため息をつくそう思う。

「ですから、このクエストは……」

 困ったような顔を浮かべ、ナナは丁寧に説明しようとしている。だが、

「だからやれるって言ってんだろ!」

 男は受付カウンターを叩きつけ、吠える。

 どうやらクエストの受注で揉めているらしい。仲介に入るのは簡単なことだが、くわしい理由も分からずに入るのはただの出しゃばりになってしまう。もう少し様子を見るのを決めたコータは、黙って二人を見守る。

「一つ上の級までのクエスト受注は可能です。しかし、これはかなり難易度が高く、もし失敗した時の違約金の額もかなり多いです」

「だ、だから! 大丈夫だって言ってんだろ!」

 コータのように根拠のある大丈夫なら大丈夫だろう。しかし、根拠のない大丈夫の場合、この男性はクエストを失敗するのは目に見えている。

「それにこれは時間制限があります。たった3日で、このクエストを1人でクリアするのは不可能です」

 キッパリと言い切ったナナ。コータはその事が逆に気になった。争いなどどうてもいい。3日という制限が設けられ、それが1人では攻略不能と言われるクエストとはどのような内容なのかと。

「あの」

「あぁ!? 誰だこのガキは」

 コータの声にいち早く反応したのは男性だった。

「あ、コータさん」

「こんな糞ガキまで冒険者だって言いてぇーのか?」

 チンピラ風情の言葉遣いをする男性に、ナナは少し鋭い目を見せる。

「ウルヌさん。コータさんは立派な冒険者です。先ほどの言葉は訂正してください」

「なんでオレが」

「ウルヌさん! 言葉の暴力として、冒険者ギルドの一員であることを剥奪しますよ?」

「す、すまん」

 ナナの押しに、長髪の男ウルヌは小さく謝罪を口にする。

「いや。大丈夫だ」

 気にするな、そう言わんばかり短く答え、コータはナナを見る。

「冒険者バッグですね。準備できてますよ」

 そう言うと、ナナはカウンターの下からバッグを2つ取り出した。

「冒険者バッグには2つあります。ショルダー型とリュック型です」

「そんなのも持ってないなんて」

「何か?」

 冒険者バッグという冒険者なら持っていて当たり前の物を持っていないコータに、ウルヌが何かを言おうとする。ナナはそれを短い一言で抑えつける。

「いや、なんでも」

 ナナから視線を逸らし、ウルヌは小さく舌打ちをする。

「何か順番抜かしたみたいでごめんなさい」

 ウルヌにそう告げてから、コータはショルダー型を指さす。

「こっちでお願いします」

「分かりました。それでは銅貨3枚をお願いします」

「あぁ」

 短く告げ、コータは銀貨を1枚だす。

「いま銅貨2枚しかなくて」

「分かりました。それでは銀貨1枚、お預かり致します」

 コータから銀貨1枚を預かったナナ。瞬間、銀貨は消え、ナナの手の上には銅貨7枚が生まれる。

「はい、こちらがお釣りの銅貨7枚となります」

「あ、あぁ」

 理解出来ない自体に、適当な相槌うち、銅貨7枚を受け取る。手持ちは銀貨4枚と銅貨1枚から、銀貨3枚と銅貨8枚になった。硬貨の枚数が増えてきたためか、少し動くだけでポケットの中からジャラジャラという音がする。

「てめぇ、精算魔法くらい使っとけや」

「精算魔法……?」

 名前的に何となく想像はついている。だが、それが合っているかどうかの確証はない。

「買い物とかする時に勝手に使う魔法だよ。貴族でもなきゃ3歳までには使えるようになるだろ?」

 ウルヌはコータを蔑むように見ながらそう言う。

「ま、まぁ今後気をつけるよ」

 まだ精算魔法を使えないコータは、これ以上突っ込まれると面倒だと判断し、話をすり替えるように試みる。

「それで、ウルヌさんだっけ? 一体何の話をしてたんだ?」

「こいつがクエスト受けさせてくれねぇーんだよ」

 一瞬、訝しげな表情を浮かべたが、ウルヌは視線の先にナナを捉えながら吼えるように言う。

「それはウルヌさんのために……」

「オレは受けられるって言ってんだろーが!」

 ギルドの受付として、ナナは冒険者が破綻しないために必死に頑張っているのだろう。だが、ウルヌのような者には火に油を注ぐようなもの。ウルヌは激昂にも近い声色で言い放った。

「で、結局どんな内容なんだ?」

 ウルヌに聞いていては埒が明かないと思い、コータは視線をナナに移し訊く。

「え、えっとですね」

 コータの質問が意外だったのだろうか、少し慌てた様子を見せ、ナナはカウンターの上に置いてある依頼書に目を落とす。

「内容は、コカノキと呼ばれる薬草の採取です」

「採取、ね」

 採取のクエストはコータが思っていた以上に疲れるもので、昨晩は食事もせずにすぐに眠ってしまったほどである。

「でも、なんで採取のクエストを受けさせてあげないの?」

 採取が難しいのかもしれない。だからと言ってここまで無理だというほどのものだろうか。いくら期限があるといっても超希少種でもない限りはいけるだろう。

 コータが勝手にそんな思考を巡らせていると、ナナは重そうに口を開いた。

「別にコカノキが希少種とかではないのですが、生息地域がソソケット森林だとかなり奥になるのです」

「かなり奥って?」

「ソソケット森林の最奥と言っても過言ではない、ロック湖のあたりです」

 ソソケット森林の一番奥にあるロック湖。それはかなり大きく、泳いで渡ることは不可能。また、迂回しようにも反対側へ行くには二日はかかると言われている巨大な湖だ。

「ロック湖くらいまで行けるって言ってんだろ!」

「じゃあコカノキを確実に見つけることができますか?」

 ナナの厳しい視線がウルヌを射抜く。ウルヌは何かを言おうと口を開くも、思い直したのか、口を閉じる。

「ちなみにナナさん。クエストの何級なんだ?」

 コータが放った質問に、ナナは小首をかしげながら答える。

「Bマイナス級だけど」

「ふーん。で、ウルヌさん、あんたは何級だ?」

「なんでお前なんかに教えなきゃいけねぇーんだよ」

 コータの質問を突っぱねるウルヌに、コータはまぁまぁ、と言い再度同じ質問をぶつける。

「C級だよ」

 ふてくされたように言い放つウルヌ。それとは対照的に大胆不敵に微笑み、ナナに向かう。

「な、何ですか?」

 コータの表情に何やら不安を覚えている様子のナナに、コータは宣言する。

「俺は今をもってウルヌとパーティーを組む」

「「はぁ!?」」

 あまりに突拍子もないことに、巻き込まれたウルヌだけでなくナナまでもが驚きの声を上げる。

「お、お前何考えてんだよ!!」

 どうやらコータの行動は正しかったらしい。コータの視界に、『C級冒険者ウルヌとパーティーを組みました』と表示された。

 同じようにウルヌの方にも表示されたのだろう。

「D級と組んでも得なんかねぇ! さっさと解除するぞ!」

「解除の仕方が分からん」

 ――てか、どうしてパーティーを組めたかもわからん。

 心の中でそう吐露しながら、コータは騒がしくなってきたギルド内で大きな声を上げた。

「俺とウルヌでこのクエストを受ける」

「ダメですよ! 絶対にクリアできません!」

「でも、ルール的には問題ないだろ? パーティーなら二つ上のクエストまで受けれるって昨日聞いたし」

「うぅ」

 ルール上問題ない。だが、ナナは二人をクエストに向かわせたくなかった。ロック湖周辺は、昨日コータがいた広間などとは比べ物にならないほど魔物が出やすく、またその魔物も比べ物にならないほど強い。

「で、でも危険であることには変わり有りません。それに、コカノキが発見できるかどうかなんて……」

「図鑑に載ってるだろ?」

「それを見たところで実物が見つけられるとは」

「それは問題ない」

 そう告げ、コータはお金が入っている方とは逆のポケットからギルドカードを取り出した。そしてそれを裏向け、ナナに見せつける。

「ナナさんは見てるかなって思ったけど、俺、鑑定スキルあるから図鑑とかで見ていけば問題ないから」

「まじかよ! お前すげーな!」

「それで昨日、ヒポリアス草のクエストがクリアできたのですね」

「まぁ、そういうことだ」

 二人の感嘆の声に、喜ばしい感情を抱いたコータはそれが表に出ないように心掛けながら数回頷いて見せた。

「でも、それでも危険は消えてません」

 それでも尚、引き下がろうとしないナナにコータは両手をカウンターに置いた。

「失敗したら、違約金は3割じゃなくて全部払う。絶対成功させて見せる」

 無茶と言われても仕方がない、それほど稚拙で強引なやり口でコータはナナに詰め寄る。すると、ナナはわかりやすく大きなため息をついた。

「わかりました。今回だけですよ? 違約金は3割で構いません。でも、絶対に成功してくださいね」

 それは観念したような、諦めたような声音。表情には不安も滲み出ている。だが、クエストの受注を認めてくれた。

「ナナさん、本当にありがとうございます」

 そのことに感謝を述べ、コータはウルヌに向いた。

「ミスは許されないぞ」

「当たり前だろうが。お前こそ、オレの足を引っ張るんじゃねぇーぞ」

「任せろ」

 不敵に、不遜に笑みを浮かべるコータ。

「頼りがいがあるな、コータ」

 その表情にウルヌは小さくそう告げ、二人はギルドを出た。



「押し切られちゃったけど……」

 ギルド内には、今日の作戦を仲間と立てている者や掲示板の前で唸っている者などたくさんの人がいる。

 そんな人たちを眺めるように、ぼーっとした様子でナナは呟いた。

「どうしたの?」

 そんなナナを心配する声が、前方から届く。

「あぁ、サラ。おはよう」

「うん、おはよう。で、本当にどうしたの?」

 挨拶を交わし、受付に入り、ナナの横に立つサラ。

「これ、ウルヌさんとコータさんが受けちゃって」

「クエスト? そりゃ冒険者なんだから受けるでしょ」

 何を変なこと言ってるの、そう言わんばかりの口調で言い放つサラ。

「そうだけど」

「それにナナは冒険者に親身になり過ぎよ。受けたいって持ってきた依頼書なんてルール内なら受けさせとけばいいのよ」

 冒険者の命を、生活を最優先として考えるナナ。それとは逆に、冒険者の意志を尊重するサラ。そのスタンスの違いで何度か衝突したことがある。だが今回ばかりは事情が違った、

 いつものやつが始まった、と思っているサラに、ナナは静かに依頼書を渡す。

「もう、何なのよ」

 仕事に来たばかりで、まだやる気が起きていない様子のサラは心底めんどくさそうな声色で、依頼書を受け取る。

「依頼主のところ」

「はいはい」

 面倒くさそうな声音で、答えながらサラはナナに言われた通り、依頼主を確認した。

「嘘っ。これ、受けさせたの?」

「受けられたってほうが正しいかな」

 力ない声でナナは告げ、弱々しい笑みを浮かべた。

「依頼主、教えなかったの?」

「ギルマスに口止めされてた」

 あちゃあ。そう言わんばかりに、サラは頭に手をやる。

「依頼主が領主で、ギルマスが口止めって怪しすぎるでしょ」

 頭にやった手で、頭を掻きながらサラはそう呟くのだった。


 * * * *


 コータとウルヌはもうすでにソソケット森林の広間を抜けていた。

 運がいいというべきだろう。ここまで一体の魔物とも遭遇せずに来れている。

「にしても、鑑定スキル持ちってすげーな」

 鑑定スキルがどれほど希少価値があるのかわからないコータは「そうか?」としか答えようがない。

「そうだろ。見たらわかるってすげーだろ」

 目をキラキラと輝かせながら言うウルヌ。なんと答えるのが正解かわからないコータは小さく微笑み、それを受け流す。

 辺りはかなり暗くなり、湿り気もかなり強い。入り口から広間に行くまでとは比べ物にならないほどのジメジメ感。

 そんな道のりを歩いているときだ。眼前に巨大な青が現れた。

「なんだ!?」

「コータ、下がってろ!」

 驚くコータにウルヌはそう叫び、両腰に差していた剣を抜く。

 右に白銀色の刃を持つ剣。そして左手には少し黒みがかった刃を持つ、刀身がギザギザになっている剣を持ち、大きな青い物体に挑む。

「うおぉぉぉ」

 短い咆哮とともに、泥濘んだ地を蹴り、ウルヌは右手の剣を左斜め下の方向に振る。そしてそのまま左手に持った剣を今度は右斜め下の方向に振り、交差した腕をそのまま水平方向に振る。瞬間的な4連撃に青い巨大な魔物はなす術無しに存在を消した。

「凄いな」

 感嘆の声を洩らすコータに、少し照れくさそうな表情を浮かべるウルヌ。

「でもまぁ、ラージスライムだったから」

 魔物の名前など分からないコータには大きいスライムだということしか分からず、それが強いのか弱いのかすらも分からない。でも、ただ一つ言えることはコータ一人では勝ててない可能性が高い、ということだ。

「冗談抜きでウルヌとパーティー組めて良かったよ」

「コータが勝手に組んだんだろうが」

「まぁ、そうだけど」

 自分で言ったセリフに自分で恥ずかしくなり、コータは照れ隠しに頬を掻く。

「おい、まただ」

 そのため前を見てなかったコータに代わり、ウルヌが真剣な声音で告げた。

 前を向いたコータ。その眼前には青色に近い紫色の体毛が全身を覆うオオカミがいた。

「シーウルフか。ちょっと厄介だな」

 小さく舌打ちをしながら、ウルヌは再度抜刀してシーウルフと対峙する。

「結構下がってろよ。さっきのラージスライムやゴブリンなんかより全然強いからな」

 コータは自分が倒したゴブリンより高いレベルの魔物と聞き、小さく脚が震えるのが分かった。

「グルル」

 白く尖った歯を見せながら唸るシーウルフ。やはりスライムなどとは迫力が違う。液状と生物。考えるまでもなく生物のが怖い。

「マジで離れてろよ!」

 その言葉を最後に、ウルヌは地を蹴った。瞳に宿るのは真剣そのもの。振るう刃と交わる皮膚。シーウルフの鮮血が血に飛び、木に飛び散る。血の鉄臭さと泥臭さが混じり、異臭感が半端ではない。

 ウルヌはシーウルフが自分が攻撃される間合いに入って来ないように双剣を振るう。

「グルるる」

 今までの咆哮とは違う、何やら不気味さを感じる咆哮を上げるや否や、シーウルフが口を大きく開けた。

 同時にシーウルフの口には黄緑色に近い色の光が宿る。

「ガァァ!」

 その声と同時にシーウルフの口から、ほんの僅かな、目を凝らさないと見逃してしまうほどの薄い色のついた風が放たれる。

 ウルヌ向かって飛ぶ風。ウルヌは瞬間的に体を右へと動かした。だが、それでも一瞬遅く、逃げ遅れた左肩に風がかすった。

「うぐっ」

 ウルヌの左肩から鮮血が噴き出す。短く声を洩らした。だが、それ以上には何も言うことなく、ウルヌは右手で左肩を抑えた。

 ソソケット森林ではゴブリンに、ギルドではオラリアから大きな傷を負ったコータにはわかる。あの傷がどれほど痛く、耐え難いものか。

 それをほとんど声も上げずに堪え、今尚立っているウルヌは本当に凄いと思う。

 でも、だからこそコータは動いた。

 ここでウルヌを失う訳にはいかないんから。もしコータが動かなければ、多分ウルヌは死ぬまで立ち続けるだろう。

「喰らえっ!」


 ──体術Lv1 掌打


 弱々しい光がコータの掌に集まる。シーウルフの側面を取るために、コータは駆ける。その行動にはウルヌすら気づいていない。いや、ウルヌには気づくだけの注意力が残っていないのかもしれない。息は荒れ、肩で大きく呼吸をしながら、ただ剣を構えているだけ。

 腕を捻り、後ろへと引く。そしてちょうどシーウルフの右側面に行き、コータの腕の間合いに入ったそこで、後方へと引いていた腕を捻りながら突き出した。

 威力は対したことはない。だが、それでも完全なる不意打ちであったためか、シーウルフはグオォと声を上げ、左側へと体をよろめかせた。

「いまだ!」

 トドメをさせるほどの攻撃力はまだない。腰に指している月の宝刀を使ったところで、一撃で仕留めるのは恐らく不可能だ。

 だからこそ、コータは申し訳ないとは思いつつも叫んだ。

「わーってるよ!」

 ウルヌは傷口を抑えるのをやめ、双剣をしっかりと構えて地を蹴る。一瞬でシーウルフとの間合いを詰め、ウルヌは叫ぶ。


双剣術ツインソード バニッシュ・フラッシュ」


 瞬間、双剣に眩い光が集中する。ウルヌは光が完全に収束する前に右手の白銀色の刃を持つ剣を前方へと突き出す。刹那の時間も開けずに、左手のギザギザの刀身を持つ剣を振り上げた。

 そして、同時に右手は上へ、左手は下へと動かす。そうなれば必然的に、ある1箇所で剣筋が交わる。交わったそこから、光が溢れ出る。そして弾ける。

 一体何が起こったのか。コータには何もわからない。視界が眩い光で覆われたと同時に、頬に熱い感覚が伝わったのだ。

 光は直ぐに消えた。そして目の前には顔面にクロスでの傷跡が残るシーウルフの亡骸があった。

「助かったぜ」

 薄く微笑み、その場に座り込むウルヌはその場で手を広げる。


 【レベルアップ2→3


  体力200→400 筋力15→25 魔力5→20


  耐久20→80 敏捷10→35 器用5→6


  知力3→15 運0→0


  スキル:鑑定Lv2→Lv3『植物』


      体術Lv1→2


      剣術Lv1獲得】


 その瞬間、脳内に鳴り響くファンファーレと視界に突然として現れる文字。

「レベルアップだ」

「そりゃあよかったな」

 震えた声でそう告げるや、ウルヌは掌の先に闇色の円を作り出す。

「何してんだ?」

「回復するんだよ」

 そう言うや、ウルヌは闇色の円の中に手を入れ、その中から液体の入った小瓶を取り出した。

「どうなってんだよ」

「さぁな。オレにとってはこれがコータの冒険者バッグってとこ」

 ここに来てようやく、コータはウルヌが冒険者バッグを持っていないことに気づく。傷口に液を掛けるウルヌは表情を歪めながら口を開く。

「それよりもあともうちょっとだ。気引き締めて行くぞ」

「分かってるって」

 液を全て掛け終えると、ウルヌの傷口はすっかり塞がっていた。まるでそこに傷なんてなかったかのような跡。

「ポーションって凄いよな」

「そうか? 普通だろ」

 この世界で、掛けたり飲んだりすることで治るポーションがあるのが当たり前のウルヌにとっては感動する要因は何一つもない。だが、風邪を引いた、怪我をした、その度に病院に行く現代日本においては、ポーションはとても素晴らしい物だと言える。

「それもそうだな」

 これがワールドギャップとか言うやつかもしれない。そんなことを思いながら、コータはウルヌと共にロック湖を目指すのだった。

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