木こりと狩人

ある村に1人の木こりがおりました

行きなれた森へいき いつものように仕事をしておりました

その森はとても広く 木こりがまだ行ったこともない場所があるほど 深くおいしげっています


ふと 木こりが思いました 

「今日は もっと奥に入ってみよう」

歩いていると 見知らぬ狩人に出会いました

木こりが訪ねました

「村で見かけた事がないが ここで何をしているのです?」


狩人は答えました

「とある獣を追っていたら ここまで来てしまった その獣は誰かれかまわず襲うので この森は危険だ」


木こりは 笑いながら言いました

「何をいってるのですか 私はこの森の近くに住んでいる そんな物騒なものは この森にはいません」


狩人は もう一度言いました

「あなたは 森の深くまで行ったことがあるのかい?とにかく そんな軽装では危ない これからは用心に越したことはない いつあの獣が現れるかわからないのだから」


そして 森の奥に消えました


木こりは腹がたちました

「何を言ってるんだ 私は何度も森に来ている よそ者が知った顔でよく言えたものだ この森は美しい 鳥は歌い  流れるせせらぎも美しい さてはあのよそ者 ここが気に入って 私を追い出す気か」


木こりは 村へ帰り 近所のものに森で出会った狩人の話をしました

みんな 口々に よそ者ぶぜいがと 狩人が言う獣の話を信じませんでした


翌日

木こりはいつものように森へいく支度をしました

ふと 昨日の狩人の話を思い出しました 

護身用の身支度をしては 遅れるし 普段もちあるくオノより荷物がかさばります 

それに あれはウソに違いない といつも通りに出かけました


森へ入り ひと仕事すむと 切った切り株の上で休んでいました

すると背後から大きな影が 木こりの姿をおおいました

とっさに振り向くと そこには木こりより何倍もある熊が睨みつけています

木こりは手元のオノを拾い上げましたが その時にはもう目の前 鋭い爪で切りきざまれました


悲鳴を聞いて 駆けつけた狩人 しかしもう 獣の姿はなく 昨日出会った木こりの変わり果てた姿でした


狩人は 木こりを抱きかかえ 森の入口にある村へ その亡骸を運びました

村人は 嘆き悲しみ 森にいる獣のことを信じました

そして よそ者の狩人に言いました

「アンタがちゃんと退治してくれれば」

さらに

「アンタがその獣を この静かな森に連れてきたんじゃないのか」

誰一人 ここまで運んだお礼も 忠告した事さえ忘れ よそ者の狩人をののしりました


狩人は ただ無言で聞き 悲しい顔をして村を出ていきました

そして 

なぜあの獣が この森に来たのか気付きました

あの獣が現れる行く先々で 同じような事がおこり 

同じような人々の声を聞いてきたのです


その森から 狩人は姿を消しました

どこに行ったのかは 誰にも分かりません


ただそれから

村人は 森へ行くのをためらいました

獣がまだいるかもしれないという恐怖と 立ち向かう術を知らないのです


木こりがいなくなったため

森は光りが届かないほど いっそう深くおいしげりました

それは以前と違い 近寄りがたい場所へとなっていきました


木こりがアナタだったなら?

村人がアナタだったなら?

狩人がアナタだったなら?...。


そして獣がこれからおこる災難や不幸だったら?




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ポエム☆短編集アーカイブ Len @norasino

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