君と僕 ボクはキミ
ある時期から、僕は毎日ムシャクシャするようになっていた。
学校が終わり、家に着いてもそのイラつきは収まらなかった。
別に先生に叱られたわけでも、友達とケンカしたわけでもない。
最近の僕は、無性に自分自身にイラつく時があった。
部屋でただ、ため息や頭をかきむしったり、落ち着かない時間を過ごしていると、視線を感じた。
狭い僕の部屋、隅にある縦鏡から。
恐る恐る視線を送った。
誰かが写っている。
当然、僕のはずだ、でももう1人いた。
ゆっくり近ずくと、僕より少し幼い少女だった。
一体何がどうなってるのか分からなかった。
鏡の中の少女は、まるで鏡に閉じ込められてるように、切ない表情で僕を見ていた。
僕の姿と少し透けた彼女の姿が重なる。
「君は?どうしてそこに?」
聞こえているのか、少し困った顔をして首を振った。
「いつからそこにいるの?話せる?」
もう1度声をかけるが、やはり彼女は首をゆっくり振った。
はたから見れば、鏡に喋る妙な男だ。
だけど、僕は彼女が幻には見えなかった。
不思議な親近感さえ湧くほどだ。
鏡の彼女は喋ろうと口を開くが音はでず、また切ない表情をする。
僕はどうにか会話ができないか、模索した。
紙に五十音を書いて試したが、鏡なので彼女が指さす方とはズレてしまう。
それから学校が終わればすぐ鏡の前に行き、彼女に話しかけた。
こちらが言っていることは分かるようで、時々笑ってくれた。
どうにか彼女の声が聞きたかった。
けれどいい案が浮かばず、鏡の前で両膝に顔をうずめた。
(どうしたの?何か悲しいの?)
ハッとして鏡を見た。心配そうな彼女が僕を見ている。
今確かに聞こえた。
聞こえたというより、僕の中に響いた彼女の声。
「ねえ、今喋った?」
彼女はいたずらっ子のようにくすっと笑った。
「やっぱり、君の声なんだね。どうやって話したの?」
鏡の彼女はゆっくり口を動かした。
(アナタが私の声を、聞こうとしてくれたから。)
声は鏡からではなく、直接僕の中で響いている。
僕はやっと聞けた彼女の声に嬉しかった。
そして、取り留めなく色々な話をした。
だけど、そのうちだんだんと彼女の姿が薄くなっていくのに気づいた。
「どうしたの?まさかこのまま消えたりしないよね?やっと話せるようになったのに。」
彼女はゆっくり口を動かした。
(大丈夫、アナタが私に気づいてくれたから、だから大丈夫。)
そう言うとスッと姿が消えた。
思わず泣き出しそうになった。どこに行ってしまったんだ。
もう1度話したい。
そう思った時、僕の中からあの声がした。
(ほら、大丈夫。私はもうアナタの1部。いつでもどこでも、アナタと一緒にいる。)
彼女は消えてはいなかった。
今も多分これからも僕の中にいるんだろう。
僕は気づいた。
それは、彼女がもう1人の僕だと。
僕は
そう ボク...私。
彼女はボクの
もう1つの 姿。
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