世界の始まりから

あなたに


 愛する人が死んだ部屋で、私たちはそれから話をした。

 たくさんの話を。

 生きてきた時代もなにをしてきたのかも、なにもかも違うのに私たちの目的だけは不思議と一致した。

「私は私が生まれたその時から、彼を愛していた」

「私は世界が生まれるたびに、彼を探していた」

 一瞬の人生を彼だけで占めた私。

 永遠の中で彼だけを見つけ出したシビュラ。

 私たちはただ彼を愛しているという一点でわかりあえた。私たちにとってはそれだけで十分で、それだけがたった一つの妥協点だった。

 私が、最も信頼する友人の心臓を飲み込むのがすべてのはじまり。

 それから、私たちはお互いの心臓を分け合った。お互いの死を分け合った。そして、お互いの心を分け合った。

 そして、私たちは二人で一つのアレフとなった。

 この世界そのものであり、すべてが重なった一つの点。真理を内包し、この世界の始まりから終わりまでを見守る傍観者。その役割を私たちは二人で共有する。

 背中合わせのガライ街のアレフ。

 それでも、再び世界が形作られたとき、そこには私たち二人の姿があった。

 一人でならできていたことも、二人だとできなかった。

 一人ではできなかったことも、二人ならできた。

 まったく新しく、隣にいる人間だけが違う世界で、二人は進んでいく。


 それから、どれだけの時が経ったのか。


 ある宇宙の、ある星の、ある島の、ある町の、ある病院の、ある病室。

 二人はある一人の男の前に立った。

 男はやつれていて、ベッドに横たわっていた。彼は三年前から、ある重い病の治療を行っていて、諦めかけながらも生きるためにそれを続けていた。

 彼には幼馴染の女の子はおらず、偏屈な友人はおらず、白髪赤眼の女性にぶつかったこともなかった。

 静かな病室にさわやかな風が通り抜ける。世界の中心がそこにあるなんて誰も思うことなく世界は回っていた。彼は彼女たちの顔に懐かしさなんて微塵も感じることもなく、彼女たちの用件を問う。


「どうか、私にあなたの死をください」と白髪の女は声を絞り出す。

「どうか、私の心を受け取ってほしい」と茶髪の女は声に力を籠める。

「「世界の始まりからあなたに恋をしています」」


 なにかをかじる音が、聞こえたような気がした。

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捩じくれトーラス かたつむり工房 @LADaccel1108

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