第3話 数学士
応接室とドアで直接繋がっているその部屋は、応接室とはまったく雰囲気を異にしていた。
まず広さが違う。5倍程度はあるだろうか。壁一面にホワイトボード。いくつものテーブル、イスと、寝転がることができるスペースまで。さながら気鋭のIT企業のオフィスのようだ。
さらにその一角にはバーカウンターまであり、そこには一人の男が座っている。手に持っているあれは……知恵の輪だ。懐かしい。
「あれ、木暮さん来てたんだ」
「うん、ずっといたよ?」
有坂に木暮と呼ばれたこの男もこの男で、飄々としているというか、掴みどころのない雰囲気をたたえていた。表情の変化の激しい有坂とは真逆のタイプに思える。
そして部屋の広さよりも驚いたのはその人数の多さだ。二十人前後の老若男女がひしめき合っている。恐ろしいのは、どのテーブルでも数学の議論をしているように見えることだった。こんなところにこんな場が……。
数学といえば男のイメージが強かったが、女性の数も少なくない。「総務のおじさん」といった雰囲気の人もいるし、どう見ても中学生にしか見えないような人もいる。サラリーマン風の人からスポーツマン風の人、優しそうな人からガラの悪そうな人……。老若男女。十人十色。魑魅……っと。なんでもないです。
それにしても、まさかこの人達が全員……?
「数学士です」
有坂は気負うでもなく、しかし少し誇らしげにそう言った。
(続)
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