第6話 せ

 昨日の記録の文字も、読めない。何がいけないのだろう。とりあえず、進めるしかない。

 徐々に、苦痛が大きくなっている。

 そう、はっきりと、これを苦痛だと捉えている。あれやこれやと大口をきいておきながら、このようなものなのだと落ち込む。

 それでも、気を引き締め、筆を執る。



 それらは、逃げようともしない。ただ、つまらぬものでも通り過ぎるように、俺に目をくれる。まるで、その生きるところとは何ほどの接触もないものであるように。つまり、気を揉むあまり、蟷螂とうろうの手で触れぬようにと注意を払っているのは、俺だけなのだ。

 その事実に触れたとき、ある種、周囲が俺を取り残してゆくような思いをする。




 駄目だ、駄目だ、まるで面白くない。このようなものを作るつもりじゃない。くそ、何故だ。苛々する。どの言葉が良くて、どの言葉が駄目なのだ。そもそも、何故、俺はこのようなことをしているのだ?

 落としてゆく言葉。拾えない言葉。失う言葉。言葉。言葉。言葉。文字。音。言葉。言葉。人は、振り回されすぎる。自由になる。誰にも縛られず、自由に。それをすることを、どう言うのだったろう。

 嫌だ。嫌だ。つまらない。

 面白いものが、欲しい。

 出来ない。

 次は、「が」を封じる。

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