第3話 か
さて、今日も書く。今日は、「か」だ。
人であることを引き換えにしてでも、成し遂げる。そうじゃなきゃ、生きてる甲斐もない。だいたい、小説や文字の世ってのは、決まりごとが多すぎるんだよ。行を改める?行と行の間?それをきっちりしていないと駄作呼ばわり。ただ決まり通り作っただけの、他との区別の付かないようなものには、
「読みやすいです」
という有り難いお言葉を読者様から下げ渡される。だけど、本を売る店には、全くもって何がいいのか分からないようなものばかりが並べられている。
結局、それも俺の好みなのだから、正解も不正解もない。
人は、はっきりとした悪を求めすぎる。それを定めることで、己が間違っていないと感じたいのは分かる。
だからどうしたとも思う。
取り敢えず、俺は、俺の物語を綴るだけ。
さて。気が満ちた。
——あれ、いつもの決め台詞が——?
ああ、そうだ。
さて、気が満ちた。筆を執る。
夜に降りる露にその羽を濡らさぬよう、そっと気を付けながら、それらは休むのだろう。見られぬよう、そして見られるよう。その暗い欲求に気付くとき、羽のみならず己自体が細い震えを起こすのだ。それをこそ、楽しむのだろう。
あえて探さぬのは、もともと秘められた行いであるが故。
そして、俺が今この夜に一人でそれをすることになっているのも、俺がその掟を破ったため。
前もって定められた通り、それを探してはいけないはずであったのに、俺はそれを求め、探した。昼に舞い、夕に飛ぶその姿を眺めるだけでも、よかったはずなのに。
ああ、何故、お前は去ってしまったのだろう。そのような、答えの見えている問いを投げても、夜は答えることはない。
そう、夜は、ただ夜なのだ。では、飛ばず、舞うことのないそれらにも、相応しい名を与えてやっても良いのだろう。
順調。
まだまだいけるな。どのみち、これは短編の競作に応募するものだ。それほど、長くならなくてもいい。
内容じゃあない。この文字の列が生まれた経緯こそが、俺が挑むべきところなのだ。
ああ、喉が——ええと、水が飲みたい。
何て言ったっけ、あの店——飲み物や食べ物、日用の品などがある——スーパーじゃあなくて。
まあ、いい。そこに行って、水を得て、寝ることにする。
明日は、「た」だ。「た」は駄目だけど、「だ」はセーフ。そういうルールだ。今のうちに、言っておこう。た!た!た!た!た!
よし、馬鹿みたいだ。
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