影キャラ、人生初のラッキースケベの巻。

「連れて帰ってきました!」


 俺はめるさんと共に喫茶店『cafeメルツ』に帰ってきた。


「良かったわ。心配してたのよ」


 途中で逃げたので門前払いされるかと思ったが、めい子さんは明るく出迎えてくれた。


「アンタ勤まるの?」

 

 第一声がそれかよ。黒髪ロングちゃん。


「エリカちゃん、そういうこと言わないで」

 

 やはりさっき一緒いた、めるさんは天使かもしれない。取り敢えず、


「…接客なら…少し経験あります」

 

 と言っといた。これは本当のことだ。


「おー頼もしいねえ」

 

 ぽやーっとした雰囲気の黒髪ショートカットの子がそう言った。

 しかし三人共美少女だ。俺みたいなイケてない影キャラが働いちゃっていいのだろうか。


「私、市ヶ谷雪いちがやゆきです。よろしく~」

「よ、よろしく」

 

 雰囲気に反して意外としっかりしていそうな子だった。


「お兄さん、さっきは一緒に戻ってきてくれてありがとう。私は東雲しののめめるです。cafeメルツの名前は私から取っているんだよ♪」


「そ…そうですか。よ…よろしく(この子は優しそうでホッとするなあ)」


「私は田端たばたエリカ。アンタも名乗りなよ」

「ど、どうも…(この子はちょっと苦手だ)僕は影「影野利彰君よね♪」」


 めい子さんに先に名乗られた…!


「あらごめん。私が名乗っちゃったわ」

「も~お母さんそういうとこだよ」

「え~」

「マイペース今発揮しないでよ」


 東雲親子はその後漫才のようなやり取りをし、みんなが笑い始める。

 俺は喋るタイミングを逃してしまった。


「ねえねえ影野って呼んでもいい?」

「へ?(いきなり何だ田端さん。せめて年上にはさんを付けろよ)」


 俺は返答に迷っていると、


「じゃあ私は影野っちにする~」

「え?(っちも違くない?)」


 と、市ヶ谷さんまでぶっこんできた。

 めるさんはさすがに…分かってくれるよな?


「私は利彰君って呼ぶね♪」

「は!?(もっと違うわ!)」


 めるさんはもしかして天然なのか?


「める、距離近すぎ。影野からストーカーされたらどうすんのよ」

「へ?し、しないです(めるさんは彼氏いるのかな?でも可愛いからいるだろうな…死にたい。って思うけどしねーから!)」


「利彰君はそう言う人じゃないよ」

 

 めるさん、その一言で俺の天使に認定しました。


「私も影野っちはしそうでしないタイプだと思うの~」

 

 しそうでしないは余計だぞ市ヶ谷さん…


「ほらほら、開店時間が迫っているから着替えてね」

 

 とめい子さんは言った。三人は「はい」と返事をしてそのまま別室へ行ってしまった。


「…(そして俺はどうすれば?)」

「今日は私の手伝いをしてくれる?いきなりホールじゃ大変だと思うから」

「あっはい…」

「後、これに着替えてくれるかな」


 めい子さんからアニメに出てくるイケメン執事が着ていそうな男性用ウェイターの制服を渡された。俺が着て大丈夫か?


「あそこのドアの部屋で着替えてね。」

 

 とめい子さんは指さした。


「すいませんその前に…」

「ん?」


 俺はてんやわんやの1日に体がついていけず、尿意に限界がきていた。


「お手洗いを…」

「あっごめんね。此処よ」


 と、めい子さんが案内してくれた。何から何まですいません。


 トイレに入ると、やはり綺麗に掃除をされていて、洗面台の鏡は曇りが一つもなく、窓際に飾られている観葉植物もお洒落だ。


 用を済ませ、いざ着替えようとしたら、めい子さんが指さした場所を忘れてしまった。

 ドアが二つある。俺は再び聞くのは悪い気がして勘でドアを開けた。


 すると其処には、ピンク色のブラジャーをしためるさんと、意外にもスポブラだった田端さん、意外を越えたのは黒レースでガーターベルトだった市ヶ谷さんが着替えていた。

 そして部屋は甘い香りが漂う…此処は天国か?

 俺は母親の下着姿しか見たことがないので、まじまじと観察してしまったらしい。

 気がついたら三人に(主に田端さん)殴られ、タンコブが出来ていた。


 あれは夢だったのだろうか。

 いつの間にか俺は殴られた痛みを感じながら、既に着替え終えていた。


「遅い!何やってんのよ変態!」

 

 ホールに戻ると、ロングのメイド服を着た田端さんが開口一番そう言った。


「すいません(三人の視線が痛い…)」

「まあまあ許してやって。私のさし方が悪かったのよ」

「いえ…(めい子さんは悪くないですよ)」


「利彰君、さっきのこと忘れてね」


 と、めるさんはもじもじしていた。その姿は不覚にも可愛い。


「ほんと信じらんない」

「…すいません(田端さんはまだ怒っている。当然だよな。でも正直、脳裏に焼き付いて離れない)」


「まあいいじゃないの~下着ぐらい~」


 のほほんと市ヶ谷さんは言った。俺は顔がみるみる熱くなっていった。


「馬鹿!なんてこと言うの!もっと自分を大切にしなさいよ!」

「もしかしてエリカっち、スポブラ姿を見せたくなかったのかい?」


 それは禁句ワードでは市ヶ谷さん…


「はあ!?違うし!つか何が悪いのよ!アンタのいやらしい下着の方がよっぽど恥ずかしいわよ」


 ん~俺的には三人とも個性があって良かったと思うけどな。


「二人共やめなよ。利彰君困ってるでしょ」


 めるさん、俺は困っていると同時に楽しんでいるのは、純粋な君の為に黙っておこう。


「うふふ。ラッキースケベで良かったわね。影野君」

「…え?(こそっと何言ってんだこの人妻は)」


「影野君緊張しているし、みんな許してやってね」


 とめい子さんは三人に説いた。

 気を遣わせてしまって申し訳ない。

 頑張っていいところを見せて名誉挽回しないと。


「影野君はこっちへ来て。三人は開店の準備ね」


 めい子さんは仕事モードに入り、真剣な眼差しになった。

 最初の印象は穏やかで可愛らしい人だと思っていたが、今は最初と逆で格好いい姿だ。

 三人もキリッとした瞳になり、大きな声で「はい」と言った。


「…(俺やっていけるかな)」


 俺は折角働くことになったのに、突如仕事をして失敗するイメージが沸き上がった。


 前も喫茶店で働いていたことがあったが、キツそうな男女の大学生達にいじめられた。

 俺はバカだから覚えるのにも時間が掛り、コミュ障なのも相まってかなり迷惑を掛けた。


「利彰君?おーい」

「え?」


 めるさんが何度か呼んでいたらしい。

 気がついたら俺はうつ向いていた。


「アンタ、大丈夫?」


 田端さんも心配してくれている。

 俺の悪い癖で、考えすぎてネガティブになってしまっていた。


「影野っち、最初は誰でも緊張するよ。私も最初そうだったよ」

「え?最初から堂々としてたわよ雪」

「いやいや。緊張していたのだよ」


 市ヶ谷さんは今はベテランの雰囲気が漂っているので、意外だった。

 俺も女子高生に諭されてちゃいかんな…


「…すいません、やります(頑張りますのでよろしくお願いします)」

「おっその意気よ影野!」バシッ

「い…(痛。急に叩かれた…つかやっぱり呼び捨てなんだな田端さん)」


 俺はいつの間にか睨んでしまったらしく、


「おお…影野っちが睨んだ」

「何で睨むのよ!」

「に、睨んでは…(つい、感情が高ぶって表情に出てしまった)」


 田端さんはキーキー怒っている。

 しかし俺だって呼び捨ては聞き捨てならん。


「ふふ…面白い」

「…(急に何言ってんだめるさん)」

「頑張ろうね利彰くん♪」

「…はい(俺やっていけるかな)」


 めるさんは喧嘩にならないように気を遣ったのかも。

 俺は冷静になり、年上として情けなくなった。


「影野君、あなたなら大丈夫だって私は思っているわよ」

 

 めい子さんも優しく言ってくれた。

 ネガティブに考えて、また周りに迷惑を掛けていては駄目だ。


「あの…」

「なあに利彰くん」

「何よ」

「影野っちどうした?」


 俺は思いきって、彼女達に自分の事を少し話そうと思った。


「俺…物覚え悪いんです。しゃ、喋るのも下手で、じょ、女子も苦手で、多分迷惑を…掛けると思います」


 きっと引いているだろう。でも、真剣な彼女達の為に予め言っておこうと決意した。


「それでも、頑張りたいです…だ…だから…その…色々…教えてください!」


 俺は全身が熱くなり、手は汗で濡れていた。


「そんなのもちろんだよ♪」

「アンタ、やっとまともに喋ったわね!こっちもビシバシいくわよ」

「これからよろしくだよ~」


 しかし、こんなどうしようもない俺に対して、三人は笑顔でそう返してくれた。


「みんな良い子だから、仲良くしてやってね」

 めい子さんも優しく言ってくれた。


 この人達は、最初は俺に対して酷い扱いをするんじゃないかと思っていたが、一人の人間として、彼女達は自立し、美しい人間だと思った。


 俺はこんな素敵な人達の中で頑張れば何かが変わるかもしれないと希望を持ちながら、めい子さんと共にキッチンへ向かった。

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