俺影キャラ、バイト先がハーレムで困る。
北乃ミエ
影キャラだけど、面接には合格したい。
俺は
夢も希望もないニートでコミュ障。属に言う影キャラ。
俺は人間様に虐げられる日々が続き、いつの間にか喋る事を恐れ、口から言葉が出にくくなってしまった。
いい加減働けと毒親から叱責され、昨日はコンビニのバイトの面接を受けたが、今日電話で不合格の通達があった。
「人手不足で困っているんだ」と言っていた癖に落とすとは、中々の畜生だ。
俺は社会に必要とされていないのだろうかと落ち込みながら、住宅街をフラフラ歩いていると、渋い喫茶店を見つけた。
『cafeメルツ』と看板に書いてある。
窓には内側からアルバイト募集の紙が貼られていた。
────────────
cafeメルツのメンバー募集中♪
時給1000円~
【業務内容】
まずはお皿洗いから♪
ゆくゆくはホールで
接客とレジをお願いします!
興味のある方は店長まで♪
─────────────
1000円か…まあ都内にしちゃ普通かもしれないけど、いいかな。
外観的に渋いマスターがいるのだろうか?その中で働くっていうのも、男として格好いいではないか。
此処を見つけた事は二度と無いチャンスかもしれない。緊張するが、中に入って店長に聞いてみよう。
これを逃したらまたインターネットでバイトを探す日々に戻ってしまう。
俺は意を決してドアを開けた。
「いらっしゃい」
目の前には20代後半くらいの、栗色のロングのパーマをかけた美女がいた。
俺は一気に心臓がドクドクと鳴り、顔を上げられなくなった。
駄目だ。予想外すぎて言葉が出ない。
「…っ(渋いマスターじゃないのかよ)」
「ごめんなさい。開いてて。今日十八時からなんです」
「えっあ…」
「だから、またいらして下さいね」
少し顔を上げてみると、ニコっとした笑顔を向けてくれた。美しい…じゃなくって!バイトのことを言わなくては。
「か」
「か?」
「紙に…(アルバイト募集と書いてありましたので来ました)」
やばい、緊張で会話が出来ない…
心の中だと完璧なのに…
「あ!見てくれたの?もしかしてバイト希望?」
キラキラした目を向けられた。
言葉を汲み取ってくれて助かった。
「…はい」
「やったー!」
と、美人のお方は ぴょんぴょん跳ねた。大人だからちょっとイタイと思ったのは内緒だ。
「じゃあ今から面接をしてもいい?」
「へ?」
「履歴書無くても大丈夫なので」
彼女はお店に置いてあるソファーまで案内をしてくれた。
「私は
「あっはい…」
俺はぺこっと会釈したら、左手薬指に指輪をしているのが見えた。
人妻か。ちょっと残念。
「まずはお名前から伺ってもいい?」
「えっあっか…影野…利彰です(ヤバい、ぼーっとしていた)」
「年齢は?」
「二十歳です」
「では、志望動機をお願いします」
「…っ(いきなり聞くか…コンビニのバイトに落ちて途方に暮れていたら、辿り着いたって言ったら絶対に落ちるよな)」
「き…」
「き?」
「喫茶店が…好きなんです(嘘だけど…)」
「えっ本当に!?」
「…(ヤバい。なんか食いついてきた)」
「阿佐ヶ谷は面白い喫茶店が多いわよね。私ね、純喫茶に憧れてたから自分のお店開いたの!」
「は…はあ(熱量すげーな。てか実家の中野から阿佐ヶ谷まで歩いていたのか)」
「後失礼な事を聞くけど、今彼女はいる?」
「!?(やはり挙動不審すぎてバレたか!)」
「ロリコンの趣味は」
「…どっちかというと年上が好きです(いいえありません)」
って何言ってんだ俺は!
心と言う言葉を間違えてどうする!
もう完全に落ちた。
つか質問の意図がわかんねえ。
でも落ちたら俺、何処にも働けない…
「うん、合格!」
「…(へっ?)」
「ちょうど防犯の為に男の子が欲しかったのよね」
「…(どういうことだ?)」
「あっでも、従業員みんな女子高生だけど、上手くやれるかしら?」
「…え?」
カランコロンカランと鈴が鳴る。
誰か来た。
「ただいまー♪」
「こんばんは」
「どうも~」
目の前にはピチピチの女子高生三人組が現れた。
「あれ?どちら様ですか?」
栗色のツインテール美少女JKはそう言う。
俺は若々しい子の前で固まってしまった。
「新しいバイトの子だよ」
と、東雲さんは言った。あの、面接の途中ですがこれはどういうことですか…?
「えっ男の子?」
「もしかしてウチラの誰か目当てじゃないの?」
黒髪ロングのキツそうな美少女JKがそう言った。
「ち、違います(東雲さんとJKしか働いてないって聞いてないし!)」
焦る俺に、彼女達は疑いの目を向けてくる。とにかく急いで此処から出よう!
「し、失礼します」
俺は駆け足でその場を去る。
「ちょっと待ってよ!」という声が聞こえても気にしない。
◇
少し走ってその後、阿佐ヶ谷の商店街をとぼとぼ歩いていたら、後ろから「待ってー」という可愛らしい声が聞こえた。
振り向くと、さっきの栗色ツインテールの美少女JKがいた。
「はあはあ、良かった間に合って…」
最初から見た時から美少女だなと思っていたが、改めて見ると、透き通った肌は上気していて薄っすら頬が赤く、目はアニメから飛び出て来た様な、ウルウルとした黒目がちな大きな瞳。しかもツインテールという俺が今見ているアニメの主人公にとても似ていた。
「実は女子高生目当てのお客様もいてね、怖い目にあったらどうしようってみんなで話していたところだったの」
俺はこんな美少女が一生懸命走って追いかけてくれるなんて夢みたいだ、と思っていると、
「貴方がそうじゃないって、さっき聞きました。だから、私達の所へ戻ってきてくれませんか」
「えっ」
「お願いします!」
彼女は俺に頭を下げた。
周りが俺達のことを見ている。
恐らく、俺がこの子に何か強要している悪い業者に見えているのかもしれない。
「あ、あの、顔上げて…人いるし…」
「あ、ごめんなさい」
顔を上げたので改めて観察すると、やはりアニメみたいな子だ。
周りはまだじろじろ見ている。その中で「ヒューやるねえ」やら「泣かすなよ~」とおちょくる声が聞こえるが、無視して美しい姿を目に焼き付けていた。
「私、一緒に働けたら嬉しいです。私達の為に戻ってきてくれますか?」
「…はい(君にそう言われたら、承諾するしかないだろう)」
「やった!ありがとう。お母さんも喜ぶよ」
「…!?(お母さん!?)」
「ん?面接したの私のお母さんだよ♪若いでしょ」
「…そうっすね(若すぎだろ)」
二十代に見える東雲さんがこの美少女JKを生んだのか。人類って凄いと感心し、ぽかーんとしている俺を見て彼女はクスクス笑っている。
「じゃあ、一緒に帰ろう?」
「はい…(まあ、どうにかなるだろう)」
もしかして都合の良い警備兼雑用係が来て喜ばれているだけかもしれない。でも、それでもいいや。
俺は人生で初めてと言っていいくらい、ちょっとワクワクしていたから。
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