第24話 エピローグ

 百物語が終わったあと、僕たちは縁側でのんびりと涼んでいた。

 思ったよりも短い時間ではあったものの、暗い部屋で怪談を語り合うという体験は、予想外に精神力を消耗させたようだ。日差しはきついものの湿度は低く、意外に爽やかな午後である。

「わたしたちって、意外と青春しているって思いません?」

「これが青春ねえ、ずいぶんと物好きなんだな」

 ぽつりと呟いた小幡さんに、高瀬先輩はぶっきらぼうに返した。

「そういえば高瀬さんは、わたしが初めて見学に来たときに言いましたよね。貴重な大学生活の無駄遣いだから止めておけって」

「ああ、そんなことを言ったな。あのときは、多分もう来ないだろうと思っていた」

「ふうん、そんな風に思っていたんですね。でも、わたしは結構ここの活動が楽しいと思いますよ。生産性とか意義があるのかと聞かれると困りますけど、みんなそれだけのために生きているわけじゃないでしょう。無駄に思えることにだって、必要なことはありますよ。ねえ?」

 小幡さんは、唐突に僕の方を見ながら同意を求めてきた。

「そ、そうだね。なんていうか、そう、無駄だからこそ必要なのかな」

「無駄だからこそ必要、何だか良いね」

 動揺してしまったため適当な事を言ってしまったのだが、小幡さんはにっこりと笑ってくれた。

 このときの彼女は、その、なんていうか、とても可愛く思えた。僕は何か気の利いたことを言おうとしたが、うまく言葉がでてこない。そうだ、彼女の今日の服装は、とても良く似合っていると思ったのだが、それすらも言えていない。

 僕の様子に気づいたのか、小幡さんが不思議そうに首を傾げた。彼女がときおり見せる、僕にとっては魅力的に感じる仕草だ。

「えっと……その、小幡さんは……」

「うん?どうしたの」

「そのう、入会するのかなって、正式にこの不思議探究会に」

 結局、言いたいことは言えず、どうでも良いことを聞いてしまった。

「ああ、自分もそれは気になるね。別に正式なメンバーにならなきゃならないってことは無いと思うけど」

 川北は地面に目を落としながら言った。何を見ているのかと思ったら、こぼれたスイカの果汁に集まってきたアリを観察しているらしい。ときどき、彼のマイペースぶりが羨ましくなる。

「入会かあ、そうですね。嫌だってわけじゃありませんが、保留ではいけませんか。何だか今のままが良いなって思って。あっ、会費なんかはきちんとお支払いしますよ」

「もちろんかまわんさ。オレたちはそんな小さなことにこだわるような器の小さな人間じゃないからな。むしろ、オレとしては怪談を二十話ぐらい何も見ずに語れるようになってから、入部を申請してもらうと思ってたぐらいだ」

 天城部長は、そう言って豪快に笑った。

 他のみんなもつられて一緒に笑う。


 それにしても、変わったメンバーがよく集まったな、と僕は自分のことを棚にあげて思う。

 ロマンを追求するという天城部長に、オカルト懐疑派にも関わらずに所属している高瀬先輩と川北、そして、やっぱりどういう理由でこのサークルに来ているのかがよくわからない小幡さん。

 部長はこの世の謎とロマンを追い求めると日頃から口にしているが、身近な人間の方がよっぽど謎なのかもしれない。小幡さんがよく呟く「不思議ですね」というフレーズ、彼女はどんな想いであの言葉を口にしているのだろう。

 いや、謎は謎のままにしておく方が魅力的かもしれない。今日の百物語のように、真相を知ってしまえば大したことがない可能性もある。

 それでも、僕はいつかその謎の正体を知りたい、そう思うのだった。

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不思議探究会の活動日誌 野島製粉 @kkym20180616

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