第20話 種明かし


「目、覚めたか。姐さん」

「最悪の気分だけどね~」


 縛られたまま、アメリアは疲れた声で軽口を叩いた。

 目の前には、シドニーと大和。そろって複雑そうな顔をしている。

 服はボロボロだったが、身体に怪我はなさそうだった。

 あの死体――二人は幻術が使えなかったから、うっかり本物かと思ったのだが――競技中に仲間になった第三者の幻術だったらしい。本当にいい仕事をしている。

 今、アトランティス大陸のプレートは、大和の手にある。

 完全に詰みだった。

 アメリアの中で、張り詰めていた糸のようなものがふつりと切れた。

 アメリアはむしろ、晴れやかな気分で問いかける。


「どういうことか説明しもらってもいいかしら~」


 大和は、ため息をついて肩をすくめた。


「試したんだよ。ルーの様子がおかしくてさ。人魚がアトランティス人だと分かった途端に、『あの人は自分が人魚だと隠したかった』とか、『現大陸にいない存在なんて、自分をアトランティス人だと言っているようなもの』とか。止めは、『アメリアさんを捜しに行く』とか言い出した。あの人って姐さんのことだろ? つまり、ルーの中じゃ、姐さん=人魚になっているみたいだった。それが本当なら、姐さんはアトランティス大陸人だ。敵の可能性があった」


 やっぱりあの子がトリガーだったか。アメリアは苦笑した。

 ここまできたら隠しても仕方ない。


「あの子の一族が、私の血肉を欲しがったのは、私が人魚だからでしょうね~。知ってる? 人魚の肉には不老不死の効果があるって~?」


「うん。俺はてっきりレズ的な意味かと思ってたけど……」


 横で、シドニーがこくこく頷いている。


「私もルーのことが好きだったんだけどね~。多分、ルーの一族は、化け物の血を食らい続ける運命から逃げたかったのよ~。人魚の肉で永遠に血に飢えずに済むかも知れないっていうなら~、飛びつくわよね~」


 シドニーは胡散臭い顔をした。


「……本当に不老不死になれるん?」


 アメリアは、小首を傾げた。


「わからないわ。アトランティス人は、ごく一部を除いて大陸から出なかったもの~。まぁ、だから、私も実験中なんだけど~」

「「実験……?」」


 うふふ~と、アメリアは笑った。


「まだナイショ。でもうまくいってほしいわ~」


 それより~と、アメリアは言葉を繋げた。


「それで、大陸のプレートを掴ませて、どういう反応をするか試したのは分かったわ~。破壊すれば、敵決定ってわけでしょう? でも、どうしてオーストラリア大陸もアフリカ大陸も無事だったの~。私、確かに二つの大陸のプレートを破壊したのに~」


 心底不思議そうだった。……確かに、あれはプレートだった。幻術ではない。

 きらーんと、目を輝かせて大和は口を釣り上げた。ふっふっふと喉で笑いはじめた。

 アメリアは胡散臭いものを見るような眼をした。

 大和は構わず、厳かに宣言した。


「あれは、オーストラリア大陸ではない……四国だ」

「しこく」


「ちなみに、あれもアフリカ大陸ではない……九州だ」

「きゅうしゅう」


 呆然とおうむ返しするアメリア。全く気付かなかった。

 瞠目するアメリアを見て、大和は悪役の様に「はっはっはっはっはっ」と高笑いした。

 そして、おもむろに左手を腰に当て、右手を突き出してアメリアを指さしながら、


「すり替えておいたのさ!」

「「――イラッ☆」」


 漏れなく全員がイラッと来た。あのにやけ顔をぶん殴りたい気分である。

 大和は得意げにニヤリとした。


「まぁ、全プレートの大きさが同じだから思いついたんだけど。この凄惨な現場みると大陸の形なんて気にしている暇もないだろうからな。……実際よく似ているんだ。竹内文書には『日本国は世界雛形』と描かれているくらいだし」


 アメリアもその本は見たことがある。思いっきり、トンデモ本だったが……。

 だがまぁ、ものすごく、ものすごく悔しいが、――騙されたことは事実である。

 素直にその(腹の立つ)手腕を認めようとアメリアは思った。実に大人だった。



「まぁ、大体納得したわ~。……でももう十分。さ、さぱっと介錯をお願い~。五大陸を神殿に納めるのでも、この場でパきっとアトランティス大陸をやっちゃうのでもオッケーよ~」


 アメリアたちは負けたのだ。


 準大陸人の中にスパイをこれでもかと紛れ込ませても、結局勝てなかった。

 万全の準備を済ませたうえでこれなんだから、敗北は決定的である。

 なら、散るのも恥ではない。また深海に沈むのも一興。

 アメリアは、せめてもの矜持でにっこり笑った。

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