第14話 水泳3
「○ × △ ◇……!」
「わかってる、悪いのはあのガキたれどもだ。嬢ちゃんは悪くない」
腕のなかで泣いている幼女を宥めながらも、おっさんは自責の念にとらわれていた。
(覚悟か……。そうだ、俺はこの子の見た目だけで弱いものと判断していた。仮にも一国の代表だっていうのに。嬢ちゃんにも覚悟はあるに決まっている)
だから、彼女をか弱い幼女扱いせずに一人前の魔術師扱いするなら、自分の側に置くべきではない。自分の身を守れると、信じるべきだ。
おっさんが、日本政府から受けた使命は、『五大陸のプレート保持者を守ること』、『アトランティス大陸の選手を殺す』ことだ。
何も、準大陸人だからと言って、五大陸の沈没を願うものだけではない。変わらぬ世界と秩序の存続を願う者だっているのだ。日本政府はその道をとった。
世界の命運がかかっているなら、足手まといを連れていくわけにはいかない。
「悪いが嬢ちゃんはここに残ってくれ。この先危ないからな……。あー、すていひあ。ぷりーず。おっけー?」
おっさんは、伝わってくれと幼女のつぶらな瞳を見つめ、華奢な肩をそっとつかんだ。
事案である。
その迫力で言葉が伝わったのか、幼女はこくりと頷いた。
「そうか、良かった。大丈夫だ。大会運営なら、恐らく脱落者を保護してくれるはずだ。――確か、自分のプレートをへし折れば、脱落者とみなされるはず。……ここで折ってくれるか。……あー、ぶりてぃっしゅぷれーと、ぽきん。おっけー?」
全部日本語だったが、あまりの迫力に幼女はまた頷いた。心なし涙目である。なんだよぽきんって、擬音語が通じるのかよ。
幼女は、震える手でポケットから取り出したイギリスプレートを、パキンと折った。
通じた。なぜだ。
おっさんは安堵したように笑って、立ち上がる。
「嬢ちゃんを怖がらせた奴は、俺がきっかり成敗してくるからな。安心してくれ」
おっさんは不安げに見つめる幼女ににっこり笑うと、すっかり干上がった堀に向か
っていった。
……まだ地響きが続いている。心なしか、さっきより大きくなっている。
堀の際まで来て、それに気づいたおっさんは、アッ! と珍妙な声を上げた。
懐を探りながら、幼女に叫ぶ。
「嬢ちゃん忘れてた! ここは危険だ! 早くこの場からはなれてくれ! 今から潮干る珠を使うから大丈夫だと思g――え?」
おっさんは、最後まで言葉を繋げることが出来なかった。
ドクンドクンと、腹が心臓になったようだった。見下ろすと、幼女がおっさんの身体に体当たりしていた。
ぽたんぽたんと、幼女の手から血が伝い落ちる。
おっさんの腹に呪術を施したえぐいナイフが突き立っていた。
「な、ん――で」
おっさんは驚愕の顔を浮かべたまま、空堀に落下していく。
幼女は無表情で、おっさんの最後を見ていた。
――地響きが大きくなっておおきくなって……。
突如、掘に大量の水が流れ込んだ。もはや、津波だ。
幼女は目を見開いた。想定外だったらしい。
堀から溢れた水は、あっという間に幼女の首まで達し、……幼女は突き飛ばされるようにあっという間に押しながされていった。
こうして、首都ポセイディアは津波に沈んだのであった。
――水面下に人魚たちが群れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます