第10話 射撃・フェンシング1

《最初の競技は、『射撃・フェンシング』。選手が、次の『水泳』に進むためには、このコロシアム内の人間のうち二人以上を魔術で倒す必要があります》


 魔法で拡声された声とともに、コロセウムの出入り口が透明な膜で覆われた。

 おそらく、条件を満たした者だけが通過できる結界だろう。

 大和はフォトンソードを構えた。フェンシングということで、多分剣もオッケーのはず。

 他のメンバーもそれぞれの得物を構え、若干楽しそうに闘気を発している。

 お互いの背中をフォローするように合わせ、足に力を溜める。

 アメリアが歌うように告げた。

「みんな、い~い? 自分がやられそうになったら、その前に無事な仲間に自分のプレートを渡しなさいね~。私達の役目は、アトランティス大陸代表より先に五大陸のプレートを神殿に納めることよ~。いわば私達だけプレートを襷代わりに、リレーをやってるようなものね~。最後の一人がゴールできれば勝ちよ~。それを忘れないでね~」

 全員が気合たっぷりに返事をする。

「「「いえっさー!」」」

「うふふ~いい返事!」

 アメリアは嬉しそうに笑った。

 周囲の選手たちも、杖なり、魔法具なり、魔法陣やらを展開し始めた。

 張り詰める空気――。

 会場に篭もる殺気に耐えかねたかのように、アナウンスが叫ぶ!

 《第一競技レディ! ――ゴー!》

「さぁ、始まるわよ~。派手に行きましょう~!」

 アメリアの発破とともに、全員が地を蹴った。


「トランス!」

 最初に魔力を使ったのは、ルーだった。

 叫ぶように一声を上げ、点滴スタンドに魔力を走らせる。応じて輸血パックが燐光を発した。

 ルーの細腕に走る静脈に、化物の血液が流入する。

 血液が血管を駆け巡るにつれ、華奢な体にしなやかな鞭のような筋肉が何層にも重なった。その上から、美しい銀の獣毛がルーの体を覆っていく。

 硬質な黒曜石色の爪。遠距離の音も逃さない柔らかな獣耳。白銀に輝く尻尾。

 瞬きの間に、細身の女の子は人狼に変じた。

《モード:ワーウルフ!……さぁ、噛み殺されたい奴から前に出なさい!》

 ルーが獣の唸り声を上げ、疾走った。

 目の前には、ルーの変貌に度肝を抜かれて呪文を発する事もできない術師。

 彼が、ルーの最初の獲物になった。


「まぁ、ノルマが二人なら手早く終わりそうやなぁ。マット、ジェフ。適当にがぶっといったれや」

 ルーの勇猛さに比べて、シドニーと来たら酷いものだった。

 完全に、使い魔である二匹の炎狗任せで本人は高みの見物である。

 しかも使い魔たちは、他の魔法使いが乱戦のところを、背後から仕留める。仮に逃げても自動追尾の火だるまがどこまでも追いかけてくるのだ。パニックになり、足をもつれさせたところで、炎の牙の餌食になった。

「お、ノルマ達成。ほな次行こーっと」

 スキップのような軽やかさで、シドは出口に向かった。クリア達成の安堵からか、完全に気を抜いていた。

 ――そんなんだから、スナイパーに狙われるんだよ。

 圧縮詠唱を終えた魔術師が、魔法銃のサイトにシドを捉えた。極限まで圧縮された魔弾のトリガーに指がかかり――。

「馬鹿! しゃがめ!」

 大和が、ホルダーを投げてビットを展開した。驚いてシドが尻餅をつく。

「反重力フィールド、全開!」

 コンマ一秒、ビットがバリアを展開するのと、打ち込まれた魔弾から魔法陣が展開するのが同時だった。

 魔法陣から飛び出した、白い霊体が反重力フィールドに弾かれた。対象を逸らされ、たまたま近くにいた罪もない選手に襲いかかっていった。

「……それ本当に反重力なん?」

「いや、なんとなくUFOぽくなるから反重力言ってるだけで、原理はわからん。魔力減ってるから、魔法道具なんだと思うけど……」

「お前のUFOドリームはほんま重症やな……」

 大和は手を差し出した。

 シドが礼を言って、その手を取る。

 スナイパーの方は、シドの命を受けたマットが跳びかかって止めを刺した。

「俺のほうは終わったけど、お前は?」

「俺もや。次行こうとしたらこのざま。ルーは?」

「あっという間にコロッセオから飛び出していったぞ。先行したやつら噛み殺してくるって」

「は、今宵の人狼は血に飢えてると……」

「まぁ、昼間だけどな」

 二人は軽口を叩きながら、乱戦の中を駆け始めた。

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