第7話 魔リンピックルール
沸き立つ興奮そのままに、大和はこの上なく輝いた目でアメリアを振り返った。
「で、どうやって奴らをボコるんです?」
「まぁ、魔リンピックって言うくらいやし、なんか競技するんとちゃうんか」
「シド、せいか~い☆ まずはこの箱の中見てね~」
そういって、アメリアが取り出したのは強固な鍵のついた優美な箱だった。
まるで王妃の 時代がかった宝石箱のような。しかし、大きさは宝石箱のレベルじゃない。両手で持たないと手に余る。
「なんでしょうか、中身は?」
興味津々のルーにアメリアはウィンクした。
「これは、アトランティス人から、競技に必要だって渡されたものよ~」
片手で箱の底を支えながら、アメリアは蓋を開けた。
中を覗き込む三人。
箱の中――ブルーベルベットの敷布の上に、金色のプレートが五つ並んでいた。
注目すべきは、それぞれの形である。
――南北アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸。ユーラシアは真ん中で別れており、それぞれ、ヨーロッパ大陸、アジア大陸となっている。
――つまり、五大陸の金のプレートが、青いベルベット地を海洋に見立て、世界地図の位置に並べてあった。
「綺麗……。アメリアさん、これって……」
「うん。この五大陸のプレートとアトランティス大陸を、一人ずつ持って、アトランティス大陸の中央の山頂。そこに建つ神殿の台座にプレートを納める――というのが競技の内容よ~。あ、ただし、五つ納められた時点で、台座はしまっちゃうの~。あぶれた一つの大陸だけ海中に没するってわけ~」
あ、あと道中にも、水泳とか射撃とかするポイントもあるのが特徴よ~。アスレチックみたいで楽しそうね~。
アメリアがのほほんと付け加えたが、注目すべきはその前のセリフである。なに、その五大陸絶対潰すマンなルール……。
「ほんま、えげつないなァ……」
シドニーが呆れたように笑った。
大和も肩をすくめた。
「つまり、本当のバトルロワイヤルですね。どうせ、競技中にプレートを破壊すれば、その時点でその大陸は沈んじゃうんでしょ? むしろ神殿の頂上に上る道中が危険だ」
「ありがちだけどね~。その通りよ~」
ルーもうんざりしたように首を振った。
「ただでさえ五大陸同士で恨みも憎しみもあるから、五大陸同士で足の引っ張り合いしている内に、アトランティス大陸が漁夫の利……本当にずるいですね」
「そうね~、犯行声明でも『せいぜい足を引っ張りあえ』って言っていたけど、これは、五大陸同士の共倒れを想定した言葉だと思うわ~」
しかし、それはアメリアたち、五大陸側がチームを組むことで未然に防ぐことが出来た。
私利私欲の勝利である!別に誇らしくはない……!
「そう、私達と、アトランティス。ただでさえ、四対一なんです。それにアメリアさんが指揮してくれるなら、鬼に金棒です。魔術大国だかなんだか、知りませんが、絶対に勝てます!」
アメリアへのあふれんばかりの信仰心を込めて、ルーは力強く断言した。気持ちが軽い……。こんなしあわせな気持ちでアメリアさんと一緒に戦えるなんて、初めて……。そう、もう何も怖くな――
「あ、四対一じゃないわ~。多分、いえ確実に『四対たくさん』になるわよ~。数だけなら、私達が不利ね~」
全員の動きが凍りついた。
「おま、ハートフルボッコなアニメのフラグなんて立てるから……!」
「何の話よ!」
大和がムンクの叫びのようにうわぁああと無音でドン引いた。何かトラウマがあるらしい。自覚のないルーが怒ったようにツッコミを入れる。無意識フラグ建設ウーマンほんとコワイ……。
「馬鹿共はほっといて――姐御、それどういうことなん?!」
シドニーがアメリアに食い気味に尋ねる。人数のアドバンテージが取れないどころか、下手すると囲んでフルボッコにされるおそれがあるらしい。それは困る!
「プレートは五大陸とアトランティス大陸以外にも存在するの~。大陸にカウントされない、準大陸や諸島なんかにもプレートがあるわ~。イギリスやアイルランド、ミクロネシア諸島、フィリピン、キューバにプエルトリコ他いっぱい! あ、そうだったわ、日本も入るわね~」
「まさか、そいつらも魔リンピックに参加できるっちゅうんじゃ……」
シドニーが引きつった声を漏らした。
「せいか~い☆ でも彼らは、別に参加しなくても沈みはしないわ~オリンピックの呪いは『五大陸のみ』にかかっているんだもの~」
ええ~。三人は、うめき声を上げた。なんでそんなめんどくさいことに!
「じゃあ、何のために参加するんですか!」
ルーが全員の心を代弁した。アメリアはのほほんと応える。
「この魔法オリンピックは、憎い国を大陸ごと沈めることが出来る機会なの~。プレートを破壊するだけなんだもの、他国が見逃すと思う~? きっと刺客に四方八方から狙われるに違いないわ~。そうね~キューバとアメリカ大陸なんか、多分血を見ることになるわね~」
うふふ~。とアメリアは仄暗い笑みを浮かべた。アメリカ出身のアメリアとしては、なんか余人には測れない苦々しい思いがあるらしい……。
その暗黒微笑をみて、大和は引き気味に頭を掻いた。
「エグイ事をするなぁ……これもアトランティスの策略ですか?」
「あ、これは人質になってるIOC会長が、『どの国も参加できるオリンピックじゃなきゃ、オリンピックじゃない!』って熱く語りすぎちゃったせいね~。アトランティス側は『お、おう……』感じって押しきられたわ~」
「自爆やないかい!」
とんだ誤算である。敵は身内にいた……。IOC会長ェ……。
「まぁメリットも有るのよ~。木を隠すなら森の中って言うでしょう~? それにならって五大陸以外の準大陸のプレートでアトランティス人を攪乱することだってできるわ~。向こうには誰がプレート持ちかなんてわからないんだし~」
「アトランティス人が普通の人間と変わらなかったら、俺達にも見分けることができなくなるんですが、それは……」
「あ、そうね困ったわね~」
フォローもなかった。メリットとは一体……。
ころころと笑うアメリアをよそに三人は頭を抱えた。
引き受けた以上、完遂する気ではあるが、前途は多難である。
これもうわかんねぇな……。
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