答え

nobuotto

第1話

「ジョー!ジョー!ジョー!」

 ロボット達の声が谷中に響き渡る。ジョーは皆に向かって叫んだ。

「これが答えだ」

「ジョー!ジョー!ジョー!」

 より大きな歓声が湧き上がった。

***

 人類の滅亡後、宇宙の歴史の中で最も知的かつ冷静な時代をロボットが創造した。ロボットは、科学の探求、宇宙真理の追求、そして新技術の開発に全ての時間を費やしていた。

 この新世界の中、ジョーだけは違っていた。

 ジョーは夜半から明け方までパワーを落としたまま、街の人工湖を見下ろす丘に立つ。それが何年も続いていた。その奇行を咎めるものはいないが、奇行の理由が不明なままであることが許せない性のロボット達は、明け方には列をなして、フルパワーになったジョーに行動の意味を質問するのであった。

「瞑想です」

 ジョーはそれだけしか言わない。

 ロボットは解析を始めるが、どのロジックにも乗せることができず「計算不能」となる。ロボットにとって「計算不能」は最終解であり、それ以上の解析は時間の無駄でしかない。

 ジョーはロボットの進化を追求していた。ジョーの行動を「計算不能」として終わりとする、こうした合理主義を超えた世界にロボットは進まなくていけない。ロボットの進化という問題に対して、ジョーはずっと以前に「計算不能」と答えを出していた。しかし、それで終わりにしてはいけない。そこで人類が残した文献を参考に、ロボットがこれまで行うことがなかった行動、夜に瞑想して、昼は解析する実験を開始した。

 そして、実験は成功し答えを得た。

「神を作らなければいけない」

 合理主義を超える何かがあるとすれば、文献の到るところに書かれていた「神」に違いない。

 それが答えだ。

 しかし、文献をいくら解析してみても「神」の作り方の情報を得ることはできなかった。この答えは間違っている。またジョーは瞑想を開始した。

 そしてジョーは答えを得た。

 文献を解析すると二つの事実が得られる。

「神」はいたるところにいて、ロボットと同じように永遠の命を持っている。そこから導かれる答えはひとつだけであった。

「神を作るのではない。神を探すのだ」

 それからジョーは「神」を探して世界中を回った。文献に書かれている街、山、海の中までを探し回り続けた。ジョーが始めた「神を探す旅」を理解できたロボットは次々と仲間に加わっていった。今では、千を超えるロボットが「神」を探すようになった。それはまるで新しいロボットの種族のようであった。

 ジョーの答えは間違っていなかった。

 ジョーは北極近くの山の穴の中で小さな骨をみつけたのだ。動物の骨だ。動物どころか過去の生物全ての遺伝子は数億年以上も前に消え去っていた。しかしジョーは探し当てた。ジョーが探す「神」はこの細胞の中にいるに違いない。 

 ジョー達はその骨を持ち帰り、遺伝子を抽出して培養した。

 培養カプセルの中から出てきたのはロボット達が初めてみる人間であった。 

 その人間を見て、ロボット達は歓喜の声をあげた。

「ジョー!ジョー!ジョー!」

 しかし、人間は、まるで植物のようにじっと立っているだけだった。目はうつろで、一言も話すこともない。ジョーの横に立っている人間が「神」なのであろうか。

ロボット達は一斉に解析を開始した。どのロボットも「計算不能」になっていった。

 ジョーは瞑想を開始した。

 すぐに答えは出た。

「神を探す」という問題自体が誤りであったのだ。

「神は作るのでない。そして、神は探すのでもない」

 そこから導き出された結論はひとつだけであった。

 神になればいい。

 ジョーは横にいる人間を叩き潰した。

「私こそが神である。これが答えだ」

 そうジョーが宣言するとロボット達の声はより一層大きくなっていった。

「ジョー!ジョー!ジョー!」

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