第10話 再びの邂逅

 柊真と玲央那が一緒に登校してきたという事件から数日。

 未だ二人に対する好奇の視線は弱まることを知らない。

 学園でも御構いなしに二人で行動する時間が多く、学内では夏菜が劣勢ではないかという見方さえ出ている。

 ある意味で突然の環境変化に驚いていた周囲も段々と慣れつつあった頃、その放課後のことだった。


「今日、この後は時間ある?」


 いつものように教室へと柊真を迎えに来た玲央那が聞く。

 なお、柊真のお迎えは初日からのことであり、「未来の旦那様を迎えに行くのは妻の役目でしょ?」と玲央那が平然と言ってのけた結果だ。

 意外と本人たちが思っている以上に、お互いに許婚ということを受け入れているのかもしれない。

 柊真も家に帰り次第、親からその話があったのだから、どれだけ手が早いんだと驚いたものである。

 しかし、これを諦めというかどうかは、当人たちですら分からないものだった。

 更に一部のクラスメイトに聞かれてしまい、夏菜の劣勢を示唆する者が増えたことは言うまでもない。

 流石に夏菜にその事を話す勇気のある者はいなかった様だが……


「あるにはあるよ?」


 なんとも間抜けな返事だと光は思ったが、何となく今更デートのお誘いでもないんじゃないかと考え、あえて柊真を指摘することはしない。

 それに対し柊真は、教室でデートの申し込み的なテンプレ行動を玲央那が取ったことで周りに悪影響が出るのではないかと警戒をしていた。

 昼食の時に下手に動くと目立つと共通の認識を得ていたにも関わらず、玲央那の行動は目立ってばかりだ。

 柊真が一々警戒するのも頷ける。

 柊真の想像通り視線は余計痛くなったものの、応援ムードの女子たちの抑制力で男子たちは抑えられ実害は今の所ない。


(そろそろ本当に刺されそう)


 本気でそう思い始めた柊真だったが、そこは光が一緒に行動してくれているので事なきを得ている。

 柊真が光の方を見れば、柊真が何を気にしているか気付いた光は「頑張れ」と表情一つで返す。

 その目は柊真を憐れむかのようだった。

 彼らは知らないが柊真と玲央那は許婚――婚約者である。

 柊真としても恋人飛ばして婚約者になってしまったのだから、幸せ税として甘んじて総受けするしかないのではないかと考え始めていた。

 何かと堂々としている玲央那に手を引かれるように柊真は教室を出た。

 数日前ならそれだけで女子の黄色い声が上がっていたのだが、最近では「まぁ、あの二人だし?」と流されている。

 男子たちを抑えてくれているのも大体彼女らだ。

 最近は夏菜の方にまで気を配ってくれているのだから、かなり徹底した応援ムードではある。

 柊真としてはありがたいような、外堀がどんどんと埋められているようなと言った感じだった。

 万が一にも婚約していることがバレ、挙げ句、最終的にその婚約を解消しようものなら教室どころか全校生徒を敵に回すことになるだろう。

 あれ? 今とあんまり変わんない?と一瞬考えてしまった柊真。

 どう考えても詰んでる今の状況に、これ以上悪化しないことを切に願った。


「今日はこのまま駅の方に行くわよ」


 うん、デートだねコレ。と柊真は思ったが、そういう訳ではないらしい。

 学校を出て人通りが少なくなってきたところで、玲央那はようやく柊真に説明をした。


「さっき神社経由で連絡が入ったの」


「もしかして?」


「その、もしかしてよ。こないだ見たのとはまた別だけどアレが出現したみたい」


 アレと玲央那が呼称したものは、先日、柊真が遭遇し玲央那が撃退した黒いモヤのような何かのことだ。

 神社によって呼称は変わるらしく、祟、魔力溜まり、魔霧などなどと多岐に渡る。

 桜満神社では魔霧と正式に呼称していると泰三は言うが、玲央那曰く実際に魔霧と呼んでいるのは幹部だけで、他は大体がアレと言っているのだとか。

 結局、新人の柊真は玲央那と行動を共にする関係上、アレと呼称することにしている。


「でもこの時間って人多いよね? 人気のないところにおびき寄せるの?」


 桜山市は特別大きな街ではない。

 桜満家のように名主と呼ばれる家柄も残っているのだから、想像すればすぐに分かりそうなことではある。

 とはいえ、小さいかと言えばそういう訳でもない。

 急行列車が停まることもあって、駅前はデパートやら何やらとショッピングセンターが建ち並ぶ。

 人はかなりごった返している。

 そこで、アレが発見されというのはどういう事なのだろうかと柊真は疑問に思う。

 柊真が初めてアレに出会った時、完全に視認が可能であった。

 もし、駅前に現れれば多くの人がパニックを起こすだろうし、ニュースにもならないとおかしい。

 しかし、柊真は今の今まで、あの日アレに出会うまでは魔霧の存在を知らなかった。

 ニュースでも聞いたことがない。

 桜満神社が秘匿された組織なのだから当たり前といえば当たり前だ。


 † † †


 駅に着いた。

 最初から分かっていた事だが、やはり人が多くいて柊真の剣は愚か、玲央那の鉄扇も振り回せない。

 果たしてこんな所でどんな方法を用いるのか。

 柊真には想像も出来なかった。


「確かここら辺で目撃されたって報告が上がっていたはずなんだけど……」


「こないだ見たのと同じように黒いモヤが見えるの?」


「そうよ?」


「でもそれって見つかったら騒ぎになるよね?」


「基本は誰にも見えないから大丈夫よ」


 昔からオカルト好きが口にする言葉に『霊感』というものがある。

 モヤはこの霊感がある者にしか見えないらしい。


「これだけ人がいても、霊感を持っている人は中々いない。ましてや複数人いるなんてことはまずないわ。

 だから、一人が見えたところで、周りは近寄らないほうがいい変な人にしか思わないわけ。

 あとは、確保して記憶を消してあげれば元通りという寸法よ」


 何処がどう元通りなのか柊真は些か疑問ではあったが、聞いたところで無駄だろうと考え聞き流す。


(玲央那さんはサラッととんでも無いことを言ってるって気づいているんだろうか?)


 何となく、柊真は自分の中の玲央那像が砕け散っていくのを感じた。

 勿論、悪いことばかりではない。

 柊真は今まで見たことない玲央那の可愛らしさを目の当たりにしているのだから。

 結局、その日はアレの発見には至らなかった。

 ただ、探知能力に優れた玲央那が終始、嫌な感じがすると訴えており、桜満神社としても駅周辺にアレがいるのはほぼ確定だろうと言っている。

 しばらくの間。具体的にはアレを見つけ消すまでの間、玲央那と二人で駅周辺を警戒してほしいと柊真は泰三から言われた。

 実動部隊はこういう時に根気と体力で処理を行うようだ。

 ただ、それも一週間経てば痺れを切らし始めるわけで……


「本当にいるのかしら?」


「嫌な感じはするんでしょ?」


「する」


「ならいるんじゃないの?」


 法術に詳しくない柊真だが、こと探知に関して言えば玲央那は鋭い嗅覚を持っているのだろうと思っていた。

 それは、初日に陰ながら探知をしていた工作員たちが、翌日からは別の捜索に加わることになっていれば、玲央那に全幅の信頼を寄せているか、探知が余程上手かのどちらかだろうと推測が出来る。

 その予測は正しく、ようやくとは付くもののアレを発見することが出来た。


「見つけた」


 玲央那はそう一言呟くと直ぐに行動に移したのだった。

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