第3話 いつもの面子

 柊真が初めて携帯電話を手にした時と違い、今はスマートフォン、そして、便利なチャットアプリというものが存在する。

 スマートフォンの出始めの頃は、交換用のQRコードがさっぱり読めなかった。あるいはそもそも存在しなかった。

 そのため、ガラパゴスケータイの方が赤外線で連絡先の交換が出来たために便利だった。

 柊真は比較的早くにスマートフォンに変わったが、最初はやはりガラパゴスケータイ組と赤外線でメールアドレスを交換していた。

 今となっては電話帳の交換などはせず、お互い様々なチャットアプリのIDだけさらっと交換してお終いだ。

 携帯の機種変更でも、連絡先はクラウド上に保存されているために、今まで面倒だった連絡先の引き継ぎが必要なくなったりと、名刺交換並みに気軽に出来るようになった。

 QRコードもリンゴ社のIフォンのカメラであれば簡単に読み取れるし、最近話題なゴーグル先生のPフォンでも取れるかもしれない。

 その上、今では赤外線交換の出来るスマートフォン自体が存在しないのではなかろうか?


――閑話休題


 何故、連絡先の交換を申し出なかったのかと後悔しながら歩くこと十数分。

 結局、柊真が教室に入ったのはいつもよりやや遅い時間だった。

 どうやら、柊真の思っていた以上に玲央那と話していたらしい。

 柊真が焦っているのは、玲央那との連絡先を交換する機会を逃したことに対してではなく、昨日の真相を確かめる機会を失ったかも知れないということに対してだった。

 だが、今更どうしようもないと諦め、おとなしく席へと向かう。


「珍しいじゃないか。こんな時間に来るなんて」


 一息ついた柊真にそう声を掛けたのは、比較的仲が良いクラスメイトの立花たちばなひかるだ。

 学年有数の秀才でもある。

 今年に関しては席も隣同士のため、必然的に話す時間が長くなっていた。


「ちょっと、珍しい出会い……みたいなものがあってね」


「ほう? コミュ障の柊真にしては珍しい。女か?」


「女の子だね」


 これまた意外とでも言わんばかりに目を丸くする光。

 柊真は「コミュ障じゃなくて目立たないようにしてるだけだぞ!」って心の中で思っていたが口にすることはなかった。

 何かと理屈っぽい光に、言い負かされる未来しか見えなかったからだ。


「それで相手は?」


 どうやら、この話題は続くらしい。

 ニヤニヤしている光を見て、げんなりとする柊真だったが、言わないと言わないで面倒臭そうだと思い、朝の一幕を話すことにする。


「相手は桜満さんだよ」


「なんと! あの桜満さんか。で? 馴れ初めは?」


「いや、なんか変な方向に話を持っていってるけど、単に通学路で偶然に会って話しただけだからね?」


 嘘は言っていない。

 確かに柊真は自ら接触しようとしていたが、実際には想定外のところで会っているのだから嘘ではないはずだ。

 これで、光も満足するだろうと柊真は思っていたが、そこに予想外の人物が現れる。


「朝、珍しくシュウを見かけないと思ったら、そんなことしてたんだ?」


 ムスッとした顔で席に近づいてきたのは、柊真の幼馴染である篠原夏菜であった。

 腰に手を当て不機嫌そうだ。


「通学路だよ? 見かけなかったの?」


「家に行ったら、もう出たっておばさんに言われて近道使ったの。

 その時には二人が話してた場所を過ぎてたってことでしょ」


 犬の散歩が日課の夏菜は柊真の知らない抜け道を多く知る。

 その内の一つを使った結果、見事に柊真と玲央那のいた場所を通り過ぎてしまったらしい。


「それよりも、立花。桜満さんと話せたから何だって言うの?」


 何故か怒りの矛先が光に向く。

 それが、幼馴染を困らせていることから来る怒りなのか、嫉妬から来るものなのかは、今の光には分からなかったが、柊真にどういう形であれ好意があるのは事実。

 玲央那と柊真が近づくことで拗れなければいいが――と、光は他人事ながら心配した。

 とはいえ、このまま黙っていれば危険なのは光だ。

 光は自己防衛のため、仕方なく口を開く。


「彼女と話せるということ自体が奇跡なんだがな……

 なにせ、彼女は『鋼鉄の黒薔薇』とまで言われているんだぞ?」


「ごめん。ちょっと意味わかんない……」


 光にしては珍しく興奮気味だ。

 夏菜も呆れて「何それ?」と言っている。

 しかし、そんな二人の反応も光はお構いなしだった。

 光は元々、この手の情報通で、嬉々として色々と情報をかき集めてくる。

 とはいえ、相手はあの玲央那だ。

 柊真も夏菜も彼女の噂はよく聞く。

 何人が告白して玉砕したとか等々。


(鋼鉄ってそういう意味かな?)


 柊真はその身持ちの堅さが鋼鉄と呼ばれる所以かと思ったが、光曰くそういうわけではないらしい。


「確かに彼女は告白を即答で断るということでも知られているが、鋼鉄と呼ばれる所以は性別問わず会話を成立させられないことにあるそうだ」


「成立させられない? シュウは普通に話してたんでしょ?」


「え? う、うん」


「それが、上手い具合に躱されると言うべきか――言葉巧みに避けていくらしい。故に鋼鉄と呼ばれているわけだ。

 挙げ句、あの黒髪。鋼鉄のような防御に、黒薔薇のようなミステリアスさがなんとも言えない人気を生み出し二つ名となったようだ」


 今どき二つ名を付けられることがあるのか?と柊真は心の内でツッコみつつ、玲央那が「目立たないように――」と言っていたのを思い出して苦笑する。


「彼女としては災難のような気もするけど……

 確か黒薔薇の花言葉ってあんまりいい意味じゃなかったような?」


「柊真から花言葉が出てこようとは意外だな。

 確かに、黒薔薇には『貴方はあくまで私のもの』などなど束縛が強い意味ばかりなのだが、他にも『永遠の愛』などがある。

 きっと名付け親は『例え君に何度振られようとも永遠の愛を誓おう』という意味でも込めて『シュバルツローゼン・シュタール』と呼んだんだろうさ」


「シュバルツ……? なんだって?」


 柊真の頭では英語でもやっとやっと。

 横文字が続くと苦手意識が先行してしまう。

 比較的、成績のよい夏菜も英語だけは苦手で、柊真同様、横文字が続くと表情が固くなる。


「シュバルツローゼン・シュタールな。

 ドイツ語でシュバルツが黒、ローゼンが薔薇、シュタールが鋼鉄という意味だ」


「長くない?」


「長いな。だからみんな、ローゼン・シュタールって呼んでる」


 ここまで聞いて柊真は自分が如何に不思議な体験をしたのかを知る。

 なにせ、その鋼鉄の黒薔薇と会話を成り立たせてしまったのだから。

 言うまでもなく、そのことを知った夏菜の顔は険しくなった。

 流石に不味いと感じた光はフォローを入れる。


「ま、でも仲良くなったというより偶々なんだろ?」


「それが、放課後に桜満神社に行くことになって……」


「桜満神社だと?」


 フォローのつもりが火に油を注ぐ形になってしまった。

 だが、光の興味は次に移る。


「場所知ってるの? 連絡先を聞きそびれちゃって場所が分からないんだよね」


 柊真は登校途中に地図アプリで検索をしていたのだが――結果は検索に引っかからなかった。


「桜満神社と言えばこの桜山市では一部で人気のスポットじゃないか」


「一部で人気?」


「何でも、誰でも入れる訳ではない桜満家の屋敷にある神社だそうだ」


 光から柊真が得た情報は、桜満神社とは一般開放されていないということ。

 一般人は愚か政府関係者でも極一部の者しか入れず、秘匿された神社なんだとか。

 桜満家は裏手の小さな山を一つ持っているため、そこにあるのではないだろうかという憶測も飛び交っているらしい。

 その裏山には一般開放された小さな公園もあるそうだ。

 柊真は放課後、その公園を訪れてみようと決め席に着いた。

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