序章 夢と憧れ
――憧れって何だろうか?
テレビで活躍する人を見れば、自分もテレビで取り上げられるような活躍をしたいと思うだろうし、可愛いアイドルを見ればお近づきになりたいと思うだろう。
憧れはただただ憧れであって、必ずしも現実になるわけではない。
それは、夢と同じようなものだからだ。
――自由に夢を見ることの出来る小学生が羨ましい。
学校の先生になりたい。科学者になりたい。ピアニストになりたい。お医者さんになりたい――無邪気な小学生なら自分の夢をはっきりと口にすることが出来る。
だが、高校生にもなれば無邪気に「◯◯になりたい」なんて言っていた自分が恥ずかしくなってくる。
中には努力して本当に夢に向かってのレールを進む者もいるが、少なくとも
それこそ柊真も小学生の時は「剣道場の師範になりたい」と本気で思っていたし、中学校に上がった後もひたすらに剣道に打ち込んでいた。
だからこそ、実力も全国大会で他を圧倒するくらいにはあった。
それに比べ、今ではその剣道は愚か、竹刀を持って素振りなどもしていない。
理由は単純明快。祖父・葛木
もちろん、後継者が居ない――柊真は学生であるが故に、そもそも候補から外されていた――のもあるが、維持費の捻出が難しいこと。建物の老朽化による崩落の危険。どこでも聞くような問題が山積みだったのだ。
しかし、それも高校生になり成長したからこそ理解できることであって、納得もせずに割り切っているに過ぎない。
小学生からすれば、剣道場は思い出の場所であり、崩落していない以上、老朽もクソもないのだから。
そして、柊真は剣道をやめた。
目標の喪失。あるいは夢の挫折。
そんな少しばかり落ちぶれてしまった柊真だったが、別に憧れがないというわけではなかった。
何せ柊真も健全な青少年だ。学園のアイドルに憧れもするし、見かけるとついつい目で追ってしまう。
だけど、一年の時に彼女の存在を知り、二年になった今でも彼女のことを柊真は何も知らない。
クラスは去年に引き続き別々で隣のクラス。最近の日課は通学の時に席から外を見ている彼女の横顔を眺めることだった。
ストーカーと言われかねないかもしれないが、この気持ちは憧れであって恋愛感情じゃない。少なくとも現時点で柊真はそう考えていた。
彼女と同じ学校に通っているという事実。それだけで何となく満足だからだ。
例え相手が知らない政治家でも、握手して貰うと自慢したくなる――あんな感じだ。
そして、これは高校生活に置ける潤いであって、大学に入れば色褪せ忘れられる日常の一コマでしかない。
彼女のことも、剣道のことも、いずれ忘れることだって、そう思っていた――
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