第12話 後始末
「クリスの、おおばかあぁぁぁぁ!!」
白い水蒸気が立ちのぼる中、まるでその轟音をもかき消すかのような声でルナが吠えた。
「ねえ、なんでこんなことしたの?
え?依頼は?土地が消えちゃったよ?
ヘビーモスも消えちゃったよ?」
「いや〜あはは。」
さすがにここまでの絶景になるとは思っていなく、クリスは笑うことしかできなかった。
「さっきの馬鹿みたいに魔力を込めた炎玉の余波で殆どの魔物死んでたけど!?
爆発させる必要絶対なかったと思うけど!?」
「ぶっぱなしたくなって……えへへ。
どうせ誰もいないし荒地だし良いかなと」
「ギルドや王都の人達になんて説明するのよおおおおお!!」
帰ったらギルド長とかに怪しまれるに違いないと、ルナは面倒くさそうにため息をついた。
既にクリスが人外の魔法を使った事にはもう突っ込まなかった。
「まぁ、さすがにこんなに地形破壊しちゃったから、直すよ」
「え?」
「【
とんでもない量の魔力がクリスの中で渦巻いた。
それが大地へ染み渡り、土地を癒した。
消し飛び、焦げ朽ちた大地が見える限り元に戻ったように見えた。
木々は戻らないが。
「土を盛り固めるだけだったから魔力しか喰わなかったよ。この魔法は技術なんていらないし」
大きすぎる魔法の規模にさすがのルナも口が塞がらなくなった。
「後これだよね【
上空へ舞い上がっていた巨大な白い煙が消えた。
ルナはこの魔法の仕組みなど全くわからなかった。
するとクリスが珍しく弱音を吐いた。
「ルナ、少し疲れちゃったかも。
魔力はまだ使えるけど、あまり使いたくないかな?」
そりゃそんな規模の魔法を連続で使いまくってるんだから枯れるだろとルナはジト目で心中激しく突っ込んだ。
「くっ!」
するとクリスが胸を抑え、軽く片膝をついた。
「クリス!大丈夫!?」
「うん、少し休めば」
「理由がわかりきってるわ。魔力の使い過ぎね」
ルナは最初は心配したが呆れたようにため息をついた。自業自得がここまで似合うとは思わなかったからだ。
だが、クリスの言葉を聞いて顔色を変えた。
「ルナ。私ね、たくさんの魔力をもっているって思っていたけど違ったみたい」
「え?……どういう事?」
「良く考えればこんな量の魔力が私一人に集まるわけない」
ルナはそりゃそうだと頷いた。
「そりゃ、おかしな話だとは思っていたけど、転生とかの話聞くと そういうものなのかなって思ったよ?」
「うん、私も」
「じゃあなんでそんな魔力を……クリスの魔力じゃないの?」
「うん、多分そう。私の魔力は私の魔力じゃない何かの魔力……」
クリスは笑ってそう言った。
「なんでそう思ったの?」
「本気で練っても減らない魔力……連続で使う事によって私の中心から湧いてくる事がわかったの。
それでね、私の中心から何かの力が溢れているようで。……補給している感じだったの」
「……どこから補給してるって言うの?」
「わからない。でも、悪い感じじゃない!それは確かだから大丈夫だよ」
「そう……ならいいわ」
クリスのありえない程の魔力の謎が少し解けた。
補給されているらしい。確かなことはわからなかったが、ルナは少し安堵した。
「ねえルナ、心配してくれてありがとう!」
そういってクリスはルナに抱きついた。
ルナは微笑みながらさせるがままになっていた。
───
クリス曰く、土地は埋めただけらしい。
なのでルナが木々を生やす事を提案した。
魔力はクリスから貰うが。
「「【
クリスは魔力をルナの魔力へ繋げた。
ルナの樹の属性の因子を魔力で取り込み、大地へ流し込んだ。
そしてその木々をルナは誕生させる。
クリスの魔力は大地に抵抗なく染み渡り、気がついたら災害(クリスの魔法)前よりも自然豊かになった。
クリスが急に「さっきより魔力の通りが良くなった気がする!あ、雨降ったら地固まるだ!」とか言って雨を降らせていた。
理由はよくわからない。
だが雨を降らすのは村でも良くやっていたのでルナは濡れないようにそっと結界を張った。
その後ルナの樹魔法で作った小屋の中で昼ごはんを食べた。
依頼へ出る前に買っておいたサンドイッチだ。
仲良くお昼寝をとった後2人は王都へ戻ろうとしていた。
……小屋を出る前にクリスが言い出した。
「ねえルナ!面白いこと思いついたの!」
「……何?」
「サーフィンしよう!」
「……は?」
ルナが言われるがままに魔法でサーフィンボードらしき物を作った。
強度は申し分ない。
「ほら!ルナも乗って!」
目を輝かせたクリスをみて止められないなと判断したルナはため息と共にボードに乗った。
すると……地面が盛り上がり急降下した。
「いやっほぉぉぉぉう!」
クリスはそう叫んだ。
するとどういう事か、滑る地面が液体化したのだ。
かなりの勢いがついてくると前方右手に土砂の波ができた。
クリスはそこに突っ込んだ。
ルナはクリスと自身に薄いスーツの様な結界を張り、クリスにしがみついた。
クリスは波を器用に乗り越え、飛んだ。
勢い良く風を切り木々をすり抜けて行く。
偶に大きな土しぶきを上げて……
たまにできる土砂波でジャンプをする。
その躍動感、高揚感、風を切る快感にルナも我慢できなくなった。
「「ひゃっほぉぉぉぉう!!」」
止まる事を知らず、どんどん加速して行った……
クリスのサーフィンは風魔法を使う。
それによる加速、安定、そしてコントロールが自在に操れる。
それはとてもアクロバティックな技術だった。
そして2人は酔った。
───
王都が近くなってきたので2人は歩きに切り替えた。
東門が見えてきたが、行きの状況とはかなり異なって騒然としていた。
門の近くまで歩くと2人を見つけた兵士のグランドが駆け寄ってきた。
「クリス!ルナ!よく無事だったな!!
大丈夫だったか?怪我はないか?
私はてっきり……うぅ。良かった!」
グランドは男泣きしていた。
感極まってる彼にかなり申し訳無かったがクリスは状況を尋ねた。
「なんかすごいみんな慌ただしいけど何かあったの?」
「何かって……あれしかないだろ!
2人はわからなかったか?あの神の怒りを!!」
「「?」」
グランドは大きな身振りで語り始めた。
「あの爆発だよ!白い煙がでた!あんな轟音聞いた事はない!みんな神の怒りだと言っているんだ。気がついたらあの規模の煙も消えてるしよ……
もうすぐ夜になるが雇われた冒険者達や騎士、兵士が偵察に行く予定なんだ。本当は日中がいいんだがこんな事前代未聞でよ。
出来るだけ早く原因を突き止めろと王からの命令なんだ」
クリスとルナの表情が
それどころではない、原因は私たちだ。
クリスがその事を言うべきか悩んでいるとルナが止めた。
とりあえずグランドには手続きをしてもらい冒険者ギルドへ行くと言い別れた。
「ルナ、私が原因なんだから素直に謝った方いいんじゃない?」
「クリス、そんな事したら王に目をつけられるよ。
旅なんて絶対にできなくなるわ」
「……」
「神の怒りとまで言われているのにクリスが私がやりましたと言っても誰も信じないと思うよ?」
「そう……だね。ありがとうルナ」
「うん。どういたしまして」
ルナはとても冷静だった。それはそうだろう。神の怒りと呼ばれているものをやったと言っても誰も信じないだろう。
「ルナ、後悔してないよ!
だって魔物退治したんだから」
「うん。驚くのは勝手だしね。それにその実力を持ったクリスが責任負う必要ないんだから」
「じゃあ初依頼完了のお知らせをしに行こう!」
こうして2人は冒険者ギルド本部へ向かった。
───
「さて、何があったか説明してもらおうか?」
「「いや、知らないですわからないです」」
「知らないわけないだろう!
依頼で荒地へ向かったのは今日2人しかいないんだぞ!?」
クリスとルナは、ギルド長のエナとにらめっこしていた。
エナの言い分はこうだ。
2人は何か知っている。
というよりあの天変地異のような爆発に死なずに帰ってきて驚きだった。
それなのに頑なにその事を話そうとしない。
「説明できない理由があるのか?」と聞いたら一瞬、2人の口元がニヤリと裂けたかのように見えた気がした。
急にクリスが淡々と話し始める。
「はい。1人だけなら説明することが出来ます。ナーベさんとカイルさんは悪いけど……」
「かしこまりました」
そういって受付嬢のナーベは出ていった。
「どうして1人だけなんだ?」
カイルがそう聞くとルナが何かを含めたような言い方で答えた。
「1人だけなら話して良い。そういう
「カイル、出ていけ」
「わかりました。」
それに何かを察したエナはカイルに命じた。その指示を聞いたカイルはすぐに退室していった。
クリスとルナは心の中でカイルに謝りながらエナを見た。
「さぁ、人払いは済んだ。なにかあるんだろう?話してくれないか?」
「その前に誰にも言わないと約束してください。もちろん王族にも」
王族というスケールの大きさにエナは思わず息を呑んだ。
「……わかった。理にかなっていたらな」
それはギルドと国の関係上、簡単に了承はできないからだ。
「まず、これはあの災害をおこした者との約束です」
ルナが災害と言うのにむず痒くなりながらクリスは言った。
「あの方はこう言いました。お主らにも上がいるだろう。そのうち1人にだけなら私の事、そして事の顛末を話して良い……と」
エナがまさかっ……といった表情を作った。
「その……御方とは?」
「「神です」」
「なっ……なんと!」
エナは椅子をひっくり返して驚いた。
「今回の災害は神の手違いで、特に問題はないそうです。ただ、神の手違いとなってはいろいろと問題があり、私達は他1人のみにしか伝えてはならないと厳命を……」
そう、2人は決めたのだ。
神様のせいにしちゃおうぜ大作戦を!
みんな神様の怒りとか言っているしちょうどいいかなって。その方が信憑性高まるかなって。まあ、実際に神が存在するのかは知らないが、
……軽い気持ちで。
「なっ……なるほど。
それは……確かに私が聞いてしまった以上王族にすら言えぬな」
この国では信仰する神がいる。
信仰は人それぞれだが神は神だ。
故に皆敬っているのだ。
それも人族を代表とする王族以上に。
クリスとルナの軽い気持ちからできたでっち上げが、エナの中ではトップクラスの事案になっていた。
ルナが恐る恐るといった表情で畳み掛ける。
「神との約束を破ってしまったら、神罰が降ります。
それは関わった者全てに……ですのでエナさん」
「わ、わかった。ギルド統括の長の名前に銘じて誰にも言わん。あの災害が神の手違いというのなら人類にとって危険な事はないだろう。
だが、あの規模の爆発がおこったのだ。何も知らない民達は納得いかないだろう。しばらく様子を見るように定期的に調査を行う。良いな?」
「はい。あ、ヘビーモスは?」
「そんな依頼、魔物諸共消えたわっ!……が、この情報を提供してくれた2人には別に褒美を与えよう」
さすがに原因が出鱈目を言って褒美を貰うのはとても気が引けた。
「いえ、大丈夫です気にしないでください!」
「いいや、この情報はとても必要な事だった。
2人のおかげで少なからず安心した。……別に神が動いたという問題があるがな」
「あはは。」
苦笑いしか出てこない。
「まあ良い、ヘビーモスの依頼達成の報酬どころではないのでな。しばらく考えさせてくれ」
「「いえ、ヘビーモスも報酬でいいです!」」
クリスとルナは口を揃えていった。
「いや、2人の功績はな、公開できないが偉業だぞ?」
「「いえ!ヘビーモスの報酬が1番嬉しいです!!」」
「そ、そうか。ならヘビーモスの成功報酬を与えよう。……本当に良いのか?」
「「お願いします!」」
「はぁ、よくわからんが2人には欲が無いのか?」
「「あははは。」」
やっぱ嘘です。なんて絶対言えないなとクリスとルナはため息をついた。
とことん自業自得が似合う2人だった。
───
夕暮れ時。
何故か王都の街中が騒がしい今日この頃。
辺りはほんのりと明るく、視界が白い湯気で覆われていた。
綺麗に並べられた石の浴槽にもたれかかっている2人の少女がいた。
「あぁ〜気持ちいい」
「ほへぇ〜ふあぁ」
クリスとルナは温泉のある大浴場へ来ていた。
「なんか王都ってこんなに騒がしかったっけ?」
「ね〜、何かあったのかな」
その王都が騒がしくなっている
こんな非常事態にのんびり温泉に入っている者は他に誰もいなく、非常に空いていた。いや、ほぼ貸切状態だった。
温泉で体と心を癒してから2人は宿屋の『くまさん』に戻った。
夕食のため食堂に行くと災害の話題で賑わっていた。
「おい、聞いたか?あの爆発、神の仕業だってよ」
男性の3人組が話し合っている。
神の仕業と聞いてエナが話したのかと思ったが違った。
「先に状況調査しにいったAランク冒険者達がいてな、そいつ等曰く、神の仕業らしい。……あの荒地が自然豊かな森林へと変わっていたんだと」
「なわけあるか!そんな事……神の仕業じゃねえかよ!」
「俺も最初はそうだと思ったよ。今冒険者達や騎士様達が調査している。明日の昼には真実がわかるだろうよ」
「だな!もし本当にそれが災害の正体だとしたら……神の恵みだな」
「あぁ、あの年々広がる王族の大問題の一つの荒地が森林になったんだもんな。神様々だな」
震える唇を強ばらせ、クリスとルナは見つめあった。
「……ねえクリス。私達すごくない?」
「それ思った。神の怒りから恵みになってるよ」
「まさか王都の問題すら解決してたなんて」
「「あはははは。」」
ダイルが作ってくれた夕食の野菜炒めがとても美味しかった。
非愛転生〜カタオモイ〜 オサムフトシ @shuka_hiai
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