第2話《私》が生まれた日
──ずっと何かを探していた。そんな気がする──
「では、自己紹介をしてくれるかい?」
「はい! うちの名前は
今は15歳の中学3年生で、春から高校生になります!」
テーブルの向かい越しに髭を生やしたアラサーの男性が、アイパッドを片手に質問を投げかける。
その質問に赤茶色の髪をした少女が元気よく答えていた。
「特技や趣味を教えてくれるかい?」
「はい!特技はダンスができます!
趣味は、スポーツをする事です!」
「そっかそっか。
じゃあ最後に、何で女優の活動をしようと思ったんだい?」
「それは……なんとなく、私がやらないといけない気がしたからです」
「ふむ……わかった。
今日はもういいから、後日指定の時間にもう一度ここに来てくれ」
「はい!わかりました!
今日はありがとうございます!」
軽やかに椅子から立ち上がり、一礼をして退室した。
ドアを閉め、自然とため息が零れた。
──私には足りていない 何かが 枯渇している──
まだ寒い2月の中旬、辛い受験シーズンを終えた優菜は、都内の有名芸能事務所に面接を受けに来ていた。
この後幼なじみの
「変に時間が余っちゃったな〜」
かえでとの待ち合わせの時間まで、まだ30分程の猶予がある。
暇つぶしのため近くのお店に入る事にしたが、ブランド物の洋服屋だったため、店の前で萎縮した。
「え、どうしよう。
見に行きたいんだけどな。
……このお店って私が入っても大丈夫なのかな?」
見栄えを気にして挙動不審になりながら右往左往してると後ろから声がかかった。
「はぁ、まったく。
そんなんじゃ女優やってけないわよ?」
「はっ!あぁ〜、 かえでぇ〜。
気がついてたら教えてよ!恥ずかしいじゃんっ!
で、ここって入っていいのかな?」
かえでと呼ばれた女性はため息をつき、優しげに微笑んだ。
「はぁ、相変わらず切り替えが早いわね。
ええ、あなたのような新人女優さんが入っても大丈夫な所よ」
「まだ採用されてないしっ! 1人じゃ恥ずかしいからかえでも入ろ!」
毎度の事のようにこうして2人のデートは始まる。
この後スイーツバイキングへ行く予定だ。
女優について気になっていた事があったかえでは、その事について優菜に問いかけた。
「ゆうなさ、なんで女優になろうと思ったわけ?」
「いやぁ、なんとなく?」
優菜も不思議そうに首を傾げる。
「じゃあなんでわざわざこの芸能事務所?
もっと近くにあったじゃん」
優菜が面接を受けに行った芸能事務所は、有名な事務所だが他に優秀な芸能事務所が近くの都内にも沢山あるのだ。
「それは……なんでかわからない!」
「はぁ、なんでかわからないって意味わかんないでしょ!……はっ!まさか好きな人がその芸能事務所に!?」
「え?違うよ?」
キョトンとした顔でかえでを見つめる。
「ほんとあんたってそういうの冷めてるよね」
「付き合うって一緒に遊ぶってことでしょ?
だったらかえでといた方が絶対楽しいじゃん!」
予想していなかったカウンターにかえでは赤面した。
「そういう事じゃないのよ!
まったくあなたったら」
「そういうかえでだって彼氏いたことないじゃん」
「私に合う人がいないのよ」
お互いに恋愛経験がないのだ。
かえではため息をつき、軽く微笑んだ。
── 私にとって たった一つだけの ──
スイーツバイキングを終え、帰宅のため2人で駅に向かうと遠くの方で黄色い声が聞こえてきた。
人集りで酷い事になっている。
「うわ、見てよゆうな。
こっからでもわかるけどすごい人が集まってる」
「うひゃ〜、芸能人でもいたのかな〜」
「ゆうなもそのうちあの輪の中心だよ?」
「だからまだ採用されてないしっ!」
2人は巻き込まれないように少し遠回りをし、改札口へ入ろうとした その時……
《
(くっ!!? 何これ 体が熱い )
気がついたら膝をついていた。
「ちょっと! ゆうなどうしたの!?
大丈夫!? 返事して!!」
「……! うん、大丈夫 ちょっとびっくりしただけだから」
「顔が真っ青だったよ!?
駅員さんに言って救護室いく?」
「本当に大丈夫だから!!」
徐々に落ち着いてきた優菜は、心配してくれたかえでに礼をいった。
「大丈夫ならいいけど……早く帰ろ」
「……うん。わかった」
──今の
実は優菜は自身に驚愕していた。
あの時体が言うことを聞かなくなったからだ。
優菜にとってそれは初めての体験で、大きな何かに呑まれるような感覚がした。
家に着いてからも冷や汗が止まらなく、あの時かえでが隣にいて助かった。
(さっきのアレはなんだったんだろう。
とっても大きかった 何かがうちを?いや、うちの? いや……わからない)
このままじゃ寝れそうにないと思っていた優菜だったが、体が疲れていたらしく、ベッドに入るとすんなり眠りにおちた。
────
4月になった。有名芸能事務所に無事採用された優菜は、高校で半ばスターのようなスタートをきった。
ちなみにかえでと同じ高校で、同じ教室だった。
「かえで〜! おっひさ〜!!」
「ゆうな、朝一緒に来たでしょ?
その『同じ中学の友達と偶然同じ教室だった運命じゃね?嬉しいな』感だされてもなぁ」
「察してよ!」
「察したよ!?」
いつも通り仲良く会話を交わしていると周囲からの視線を感じる。
「それよりもすごかったね、男子達。
女優の事言ってないんでしょ? なんで知ってたんだろ」
「ねー」
男子の会話をすると、そこへ乱入者が現れた。
「それは男という生き物だからさっ!」
「「…… え 誰?」」
優菜とかえでの声が綺麗にハモった。
「くっ… 先程自己紹介したではないか!
同じクラスの
その男は腰に手を当て高らかに宣言した。
「「よろしくー」」
優菜とかえでは素で返した。するとそれを見ていた周囲の男子達が我先にと押し寄せてきた。
「俺は
「俺は
「俺は……」
───
入学式のため、午後に高校が終わり呼び出しをくらった優菜はそのへんを漂ってたかえでを捕まえ、電車で芸能事務所へ向かった。
平日のこの時間から都内へ向かう者はほとんど居なく、電車内はかなり空いていた。
「いや〜凄かったねぇ」
「ほんと、なんかもう疲れちゃった」
「ゆうなが午前中で疲れるなんて、相当だね」
「もう寝たいよ、そしてストレスね!」
「まだ大丈夫そうね。
でなんでまた急な呼び出し?」
「う〜ん、なんかドラマがどうのこうのでその出演者に挨拶だって」
「めんどくさそ〜な……
えっ?ドラマでるの!??」
「竹内監督の作品なの!脇役だけどね」
「脇役だとしてもすっごいじゃん!」
竹内監督とは幾多の名作を生み出している映画やドラマのカリスマ的存在である。
かえでと話しているといつの間にか事務所前までついていた。
「連れ出しといて悪いけど待っててもらうことになると思う……」
「わかったー!気にしないで大丈夫よ。パンフでも見とくから」
「ごめんね、ありがとう!かえで大好き!!」
──ここがターニングポイントだったのかもしれない。 それとも全てが仕組まれたものなのかもしれない。 ただ、この
受け付けにいつものおじさんがいる。
元気よく話しかけた。
「こんにちは。ゆうなです!」
「お〜優奈ちゃんね。4階の3号室に入ってね、みんないるから。 あ、お友達は待合室で待っててね」
「「はーい!!」」
「じゃあまた後で〜」
「はいよー」
かえでにそう告げた後、1人でエレベーターに乗った。
1階……2階……
《……トクン……トクン……》
(なんだろう?)
何かを感じる。
3階……4階……
《……トクン……トクン……ドクンッ》
(くっ!?な、んなの?これ……)
エレベーターから降りと少しずつ鼓動が収まってきた。
(なにが、おきてんの? ……なんだったのよ)
ただ一つ、わかる事があった。
(私は、行かなくてはならない……どこに?わからない )
何故か心が昂った。 枯れていた、足りてなかった何かがある気がした。
(ずっと何かを探していた。これが?……え、うちは何を言って。いや、今はいい)
「この先に、
呼吸を整えて、部屋の前まで来た。
何故か震える手に、ぎゅっと力を込めノックする。
「優菜です、失礼します」
「どうぞ入ってください」
私は扉を開いた。やけに重く、遅く見えた。
──見つけた。
《…ドクンッ!!》
言葉が出なかった。
何故か涙がでた。
魂が震えた。
(あぁ……そうか)
何もわからないはずなのに理解できた。
この人だ……
──私は彼に恋をした──
──この
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