第4話





「あっははははは! じゃあお前、マジであいつとお医者さんごっこしてきたのか! ウケる!」



 私は気づけば、あの医者の所有するマンションの一室にいた。

 ポータブルゲーム機を片手に私に笑いかける、知らない坊主頭の女の子と一緒に。


 その知らない女の子が話してくれたところによると、あの医者は、本当は医者でもなんでもなかったそうだ。

 その正体は稀代の殺し屋で、どこにでも忍び込めて誰でも殺し、また何者にでも成りすませる、というにわかに信じがたいハイスペック男だったらしい。

「小さな病院だったのが救いかもだが、目撃者皆殺しはさすがにやべーよな! たかだかオメーひとり仲間に引き入れるために、コスパが悪いにもほどがあるっつーの!」

 坊主頭の彼女はそう言って豪快に笑った。

 聞くところによれば彼は、私が記憶を失ったあと、あの病院にいた人間を皆殺しにしたらしい。そこから一人消えた私は当然行方不明扱いとなり、どこかわからぬマンションの部屋の中で、知らない女の子に見守られながら眠っていたのだった。

「だってその時は、本当のお医者さんだと思ってたから……」

「はぁ? だってお前、見た感じ、もうとっくに中学生だろ? 普通の医者とモグリの区別くらいつくだろ、普通」

「そういうもの?」

「まあ、そういうものじゃね?」

「ふうん……」

「ふーん、ってなんだよ……」

 人生そういうこともあるらしい。

 ふとテレビに目をやると、夕方のアニメが始まるところだった。私の好きなアニメだ。

「あ、もしかしてお前もこれ好きなの?」

 坊主頭の彼女が嬉しそうに話しかけてくる。頷くと、彼女はますます笑みを深くした。

「へへ、お前ぼけっとしてるけど、なかなかいいセンスしてんじゃん。俺は中山ミレ。お前は?」

「市ノ瀬リア」

「リアか。よろしく」

「よろしくね」

 私とミレは固い握手を交わした。

「そういえば私、あの医者から秘密結社の話をされたんだけど」

「ほいほい」

「ミレもその一員なの?」

「うん」

 ミレはあっけらかんと頷いた。

「俺はミレ。で、ほかにはまあ軽く五人くらいは中にいるかな。この結社にはなんつーか、守ってもらってるっつーか……会長に保護されてるわけよ」

「会長?」

「うん。この秘密結社の創始者だよ。何人人格持ってるかとか、どこに住んでいるかとか、正体は誰にもわからないけど、世界中の多重人格者を囲って保護するのが主な活動目的なんだってさ。あとは、まあ、金儲けとか」

 やっぱり金儲けなのか。

「金儲けして、どうするの?」

「まあ結社の活動資金にするんだろうよ? 一週間前みたいに、ユウが大量に人殺したりしたら、その後始末もしなきゃなんないし」

「後始末?」

「うん。そりゃまあ、逃走資金とか情報操作とか。目立つことしちまったら、秘密結社の秘密の部分が台無しだからよ」

 というか、私は一週間も眠っていたのか。珍しいこともあるものだ。今までは、きっちり8時間睡眠しかしたことがなかったのに。

「てか、そろそろユウ帰ってくるし、晩飯でもつくらねーとな」

 ミレがゲーム機を置き、立ち上がって伸びをする。

「お前、何がいい、リア? リクエストあったらつくるぜ」

「ない」

「そーかい……」

「僕はオムライスがいいなぁー!」

 突然背後から、聞き覚えのある男の声がした。

 驚いて振り返ると、あの医者が、今度は白衣など着ずに、真っ黒なコート姿で立っていた。彼はしゃがみ込んで、また顔を近づけてきた。

「やあ、おはようそしてお久しぶりだねリアちゃん。ユウ・F・ブランシェットだよ!」


 

 

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