第2話
「で、金儲けのことなんだが」
「二言目にはそれか」
俺は紅茶を一気に飲み干すと、医者に嘲笑をして見せた。
「医者としてどうだよ、それ」
「知らん。我々が医者失格というのならそれも認めよう。だが、実際問題、金がもらえないのならば、誰もこんな職業にはつかないと思うがね」
「やっぱり医者としては失格だな」
「いつもは真面目に仕事しているよ? ただ今日は久々に同志に出会ったから、仕事ほっぽり出して熱心に口説いているんだよ。わかってくれる? アンダスタン?」
「金儲けの手段にしようってなら、まあ、別にいいけどよ」
俺たちも金が欲しいしな、とカップを投げる。
医者はヒョイとそれを避けると、ヘラリと笑った。
「で……一応医者として聞いてもいいかな。君は彼女のことを知っているが、彼女は君の存在に気づいていない。そして、リアちゃんの中にいる人格は君と彼女自身の二つだけ。これで合ってる?」
俺は椅子の上にあぐらをかいて、笑い返す。
「合ってるよ。リアは俺のことを知らない。だが、リア自身の本来の人格は俺じゃない。あくまでも俺はリアの生み出した別の人格で、メインは向こう」
「君に、名前はないのかな」
「あったとしても、それを教える義理がない。それに」
俺は手にした皿を覗き込んだ。
「俺は、お前の言う秘密結社とかいう冗談を信じてないんだよ」
「信じてほしいなぁ」
「それを信じて、俺たちにメリットはあるのか?」
綺麗に磨き上げられたそれに、自分の顔が映り込む。血が伝っているのを抜きにしても、化粧っ気もなく、肌ツヤもない。最低限の手入れはされているが、あたかもそうするので精一杯だと、力尽きたとでもいうように、その顔には覇気がなかった。
「あんたももう御察しの通り、リアはもうすでに、この上なく、不幸だよ。だからこれ以上奴を不幸にしようっていうなら、俺はお前をぶっ殺すしかないんだ。それが俺の仕事だからな」
「物騒なことを言うなよ同志!」
医者は両手をあげ、面倒臭そうに降伏のポーズをしてみせた。
「疑ってるなら言うけど、僕は何も、そういう療法で言ってるんじゃないぞ。箱庭療法とか、そういうくだらんごっこ遊びで秘密結社とか言ってるわけじゃない。そんなしょうもない治療法がまかり通るなら、今頃この世はもっと健全で平和だ」
「そりゃそうだわな」
皿に写り込んだリアの顔が、力なく笑った。
「この世は、みーんな病んでる。でも、俺たちだけは、正常だ……」
「……」
医者はしばらく黙っていたが、やがて、ポンと手を打った。そして真面目な顔で、こう言ってきた。
「わかった。じゃあこうしよう。君が結社に入ってくれるのなら、僕がじきじきに君の親をぶち殺してあげよう」
「は?」
「入社祝いってやつ」
「え、いやでも、そうすると俺たちは孤児になるって、いうか、その……」
俺のこわばった笑みになど構わず、医者はどこまでも優しく、ニッコリと笑っていた。
「ああそこは、僕が養女にとるから
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