第2話
まぁまぁよりちょい上かな、と思った陸は秒でその考えを打ち消した。自分は、まぁまぁにも届いてないくせにと。
「そやけど、こんな寒い日やのにほんまみんな薄着なんやなー」
頭に浮かんだ考えを振り払うように慌てて陸が口にした一言が、一瞬その場の空気を微妙なものにした。
実際、今日の京都の気温は今にも零下に手が届きそうなくらいで、夕方からチラチラ舞っている雪が一晩降り続けば明日には雪舟の世界だろう。
それなのに相手の女の子三人組は全員膝上のスカートにストッキング、薄手のジャケットのようなアウターだ。
それがピーコートなのかダッフルコートなのか、はたまた全く知らないネーミングのものかは陸には判別できなかったのだが、モコモコとしたダウンコートでないことだけは確かだった。
「なに年寄りじみたこと言ってんだ陸、みんな若いんだから平気だろ」
いや若くても寒いものは寒い‥
一人ダウンジャケットを着て来た陸は菊人の台詞に目だけで返事をした。
「そうそう菊人の言う通り!みんな私服超可愛いし、すげーお洒落だよねー」
待ち合わせ場所に先に到着していた
隆斗は菊人とはまたタイプの違ったイケメンだったが、こちらは中学の頃から彼女が一度も途切れたことがないというツワモノだ。
陸と一緒に何度か参加した合コンでは、そのすべての回で確実に彼女をゲットしていたが、それは裏を返せば、どの彼女とも長続きせずに一ヶ月〜三カ月スパンで付き合う→破局を繰り返しているということでもあった。
「じゃあ行こうか、店すぐそこだから」
菊人が連絡係の子と歩き出し、その後を女子二人が何やら目配せしながら歩き始め、少し離れて陸と隆斗が続いた。
「陸ちゃんあれはダメだってー」
隆斗が陸に顔を寄せるようにして小声で囁いた。
「え…何が?」
「さっきの薄着のくだり」
「ああ、あれな、一瞬妙な空気になったけど何やろて思っててん」
隆斗は、にやっと笑うと少し足を緩めて前を歩く女の子たちと距離を取った。
「陸ちゃん、女子は合コンにはそりゃ気合い入れてお洒落するもんだってのは解るよな」
陸は先を歩く二人を気にしながら小さく頷いた。
「うん、でもさ、その気合いが入りまくってることは知られたくないって微妙な女心があって、あくまで誘われたからまぁ来てみたってスタンスでいたいわけよ。そこに薄着だねー!なんて言っちゃったら、いやーこんな寒い日にそんな薄着でおたくらどんだけ気合い入れてんの?って言われたように裏読みされちゃうじゃん」
「えー!俺そんな裏の意味とか全然思いつきもせんかったで、マジかー、深いって言うかそんなん難しすぎやろ」
「まぁまぁ、陸ちゃんはまだ若葉マークだし。そのこなれてないとこが陸ちゃんらしくていいんだけどさ」
隆斗は陸の肩をポンポンと叩きながら笑った。
「こういうとこなんかなー、彼女がでけへん理由」
「これからこれから陸ちゃん!まだスタートもしてないって、今日は三人同時にゴール決めようぜ!」
背中をさらにバンバンと叩かれて陸はむせそうになった。
上を見上げると暗い空一面に雪雲がどんよりと垂れ込めている。
陸は隣を歩く隆斗にも聞こえないくらいの小さな溜息をついた。
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