第45話 舞踏会 中編

「仕方ないと思わない? お姉ちゃんとアルティアには言える内容と、アイリーン王女には言えない内容っていうのがあるよ」


 何だか、冴えない言い訳をしていると自分でも思う。


「まあ、いいわ! アイリーン王女の次は私が踊るということで許してあげる!」


「ま、待ちなさい、アンナ! どうしたらそんな横暴な答えになるの!?」


 どうしたんだろう? そんなに言い合うような内容ではないような? 


 そんな言い合いの中、入口から中央に向かっていく美丈夫。


 真打ち登場のようだ。ホールが静寂に包まれる。


 ホールの中央に着いたシュタイン王は、相変わらずのよく通るバスで話しだした。


「皆のもの、余が舞踏会によくぞ来た。本日、王都を不安に陥れ、近衛騎士団長アイリーンを捕虜としていた帝国軍将校のリンバルを確保できた。ひとえに皆の努力と協力があったから成し得た」


 シュタイン王は周りを見渡し続ける。


「その中において、獅子奮迅の活躍を見せた者がいる。紹介しよう、ギルドのブロンズランクの冒険者、ヤクモナツメとそのメンバーだ」


 シュタイン王がホールの中央付近を指し示す。そこに移動しろって言うことか! 


 事前の打ち合わせは計画的にっ! アドリブダメゼッタイ!


 俺たちのパーティーはダッシュで中央付近移動する。


 ジュリアス達は少し遠い入口側なので大変そうだ。


 全員が集まったのを確認したシュタイン王は更に続ける。


「今日の事で理解した。肩書が、身なりが、年齢がというのは飾りだということを。物事を成し遂げるのは思いであるということを。帝国がきな臭い動きをしているという話も聞く。しかし今日の出来事を教訓として、思いと気持ちがあればどの様な困難にも対処できることを意識してほしい!」


 シュタイン王が話しを終えると、大歓声がホールを埋め尽くした。


 そのまま王様は入口に向かって歩き出す。舞踏会には顔を出しただけらしい。


「それでは皆様、後はご自由にお楽しみくだされ」


 退出したシュタイン王に変わって、年老いた人が引き継いだ。


 その言葉のあと、椅子と楽器を持った人が入ってくる。結構な人数だ。


 そして、全員が椅子に座るとゆっくりとした音楽が流れ出した。



「さぁ、ヤクモ様、参りましょうか」


 アイリーン王女は俺の手を引きながら楽しそうに言った。


 俺はダンスなんて踊ったことがない初心者なんですけど。


「アイリーン王女に恥を掻かせてしまうかも知れません」


 俺は心配そうに言うと、アイリーン王女はふふっと笑ってーー


「大切なのは気持ちです。お父様も先程そのように言ってましたよ。あとアイリーンはおやめ下さい。エリーとお呼びくださいませ」


「わ、分かりました。え、エリー王女」


「王女ではなく、エリーです、それと敬語もおやめ下さい」


 少し拗ねたような表情のあとウィンクをした。王女ってこんな仕草もするんだ。


「それじゃあ、よろしくエリー」


「こちらこそ、ヤクモ」


 こうして俺達は貴族達が踊っている音楽に一緒にとけこんでいった。


        ☆


 その姿を後ろから眺めていたアンナとアルティナは深い溜め息をついていた。


「あ~ん、弟君の初めては必ず私のものだったのに〜!」


「アンナ、ちょっと大きい声で誤解を招く言い方は止めて!」


「なによ! 間違ってないもん! うう〜、私の前からいなくならないでって言ったのに〜」


 真っ白なドレスを身に纏った美女2人が、ホールの端で何だか意味ありげな事を言っている光景は、2人に声をかけるようとする男を退ける効果があった。


 現に、何人かの貴族の男は近付こうとして、聞こえてくる内容が、なんだか怪しい痴話喧嘩っぽいものだった為に引き返していく姿が見受けられた。


「ねえ、アンナ。何だかあの2人良い雰囲気ね」


 中央で踊る、ヤクモとアイリーン王女の事だ。


「ふん、私と踊ったらもっと映えるんだから!」


 見もせずに答えるアンナ。よっぽど悔しいのだろう。


 そんな2人に近寄る影があった。


「アンナ、僕と一緒に踊らないか?」

 

 かなりやつれた顔をした勇者ルシフェル推参!


「アルティア、次は私の番なんだからね」


「何言っているのよ、アンナ。それはわたくしのセリフです」


「……」


 美しいシカトだった。勇者は沈黙した。


 しかしここで引き下がるくらいなら勇者などしていない!


「アンナ、あんなやつがお前を見ているわけないじゃないか。いやお前と釣り合うわけないじゃないか。一度俺と踊ってみないか? 楽しめるとおもーー」


「風よ、集いて衝撃とならん」


「ふごおっ!?」


 ルシフェルさん、いきなりの奇襲攻撃を腹部に直撃! くの字に折れ曲がる体!


「はいはーい」


 そう言ってどこからか取り出した杖を下から上へアッパー気味に繰り出すアルティアさん。


 相変わらずの阿吽の呼吸。美しい連携だ。


 突き出た顎をガッされて、吹き飛ぶルシフェルさん。


 弧を描きながら吹き飛ぶ様は、ある種の芸術だった。


 着地したルシフェルはぐるぐる目を回していた。


 恋路を邪魔をする者は、古今同じ結果になるのかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る