第41話 シュタイン王との謁見

 アイリーン王女救出の知らせは瞬く間に城内を駆け巡った。毒の件は伏せられたままだったが。


 城内の全員が無事を喜び、そして讃えあった。王国は安泰であると。


 王女の救出とリンバルの確保に尽力した俺達は、王様との謁見があるらしく、控室に通されていた。


 急な謁見の為、スケジュール調整が難しいのだろう。そんな無理しなくても良いのに。


「失礼します」

 

 ドアがノックされ、メイド達が入ってくる。


「必要なもの御座いませんか?」


「あ、特にないです。あまり気にしないで下さい」


「承知致しました。失礼ですが、お召し物を少し変更させていただいても宜しいでしょうか?」


 更衣室に案内されて、服装を選ばされる。


 どれを選んでも変わる気がしないので、メイドさんのおまかせコースにした。


 フッティングルームで着替えを済ます。


 そう言えば、ここに来てからすぐに買った服なので、もう3週間も着ている事になる。早いものだなあと少し感慨深くなってしまう。


 俺が更衣室から出る頃には、女性以外は全員揃っていた。


 モーガン、ルクール、クリストフは貴族然とした服が似合っている。着慣れているのだろうか。


 そうしているうちに、女性陣も更衣室から戻ってきた。


 うん、全員が似合っている。流石はうちのパーティーはレベルが高い。


 慣れない服に着飾られて、お茶を嗜んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。


「はい、どうぞ」


 返事をすると、カチャリと音がして、赤毛をショートボブにした女性、ピリス団長が入ってきた。


 これまた普段見たこともない美人さんはドレス姿も美しい。


「お待たせしました。謁見の準備ができました」


 どうやら、団長様が直々に呼びに来てくれたみたいだ。


 ピリス団長を先頭に、俺達は後ろをついていく。


 俺とジュリアスとリアナはもうお上りさん全開だ。全てが珍しくきょろきょろと落ち着かない。


 お姉ちゃんとアルティアとモーガン、ルクール、クリストフは平然としている。


 どうしてそんなに落ち着いていられるんだ? クールだけじゃなくホットもいいもんだぜ!


 結構歩いて、ようやくそれらしい扉にたどり着いた。かなり広い場所だ。


 ここに何週間か泊まったらトレーニングになるね。



 ゴージャスな扉を開き、中に入る。眩しすぎて目が見えない、なんてことは無く普通に入れた。


 中央の玉座には堂々とした美丈夫がどっしりと腰を下ろしている。


 頭の王冠、プラチナブロンドの髪、真っ赤なマント、光沢のある衣服。間違いなく王様だ。

 

 隣には、明らかに父娘と分かる、同じ色の髪、光沢のある真っ白なドレスを纏ったアイリーン王女が控えている。まだ少し体調は悪そうだが、この短時間で凄まじい回復力だ。


 そして右には文官だろうか、ローブを着た人物が5人。左には武官と思われる、甲冑に身を包んだ人物が4人並んでいた。


 先導してくれたピリス団長はそのまま武官の先頭に並ぶ。ドレス姿の彼女は一人だけ浮いていた。


 パーティーのリーダーが俺なので、先頭を歩かされる。


 こういう事は慣れてる人がするべきだと思うの。


 玉座の5メートル手前くらいで足を止め、片膝をつき、恭しく頭を下げる。これで合ってるのかな?


 後ろが見えないから分かんない。


「よくぞ参った、余の娘、そして国を護りし英雄よ。苦しゅうない、面を上げよ」


 よく通るバスで、威厳たっぷりに話しかけられて、反応をどうしたら良いのか分からない俺。


 とりあえず面を上げろということなので、「ハッ!」と勢いある返事をして顔を上げる。


「無理しなくても良いぞ。そなた達に礼儀を要求するのは野暮であろう。いつも通りに受け答えをするが良い」


「ありがとうございます、シュタイン王。これ以上は私には無理です」


 俺は正直に思っていた事を口にする。第一声でそれが許されそうな王様だったから。


「わはは! 面白い男よ。そなたがヤクモナツメか?」


「ありがとうございます。私がヤクモナツメです。ファーストネームがヤクモでラストネームがナツメになります」


「ふむ、珍しい響きの名前だな。何処から参った?」


 やっぱり名前を聞かれると、出身地は気になるよね。相手は王様、嘘を言うと正直怖い。もしかすると特別な情報網を持っていて、何かを知っているかもしれない。


 そう考えた俺は本当の事を言ってみようと考える。


「まず、陛下の御前なのでこれは本当の事として聞いて欲しいのですが」


「うむ? それはそうである。余の前で虚言を語るなど万死に値する」


「ふえぇ……。ご、ごほん。に、日本という所から来ました」


「ニホン? 初めて聞いた国の名前だ。お前たちは聞いたことがあるか?」


 文官も武官も全員が首を傾げるか、手を広げ全く分からない素振りをみせた。そうでしょうね。


「しかし変わっている。変わっているといえばそなた達のメンバーなのだが……」


 シュタイン王は俺たちを見回して手で顎を触れた。何かを考えているようだ。


 そして、続ける。


「そこにいるのは、ヴィネ教会国家の第2王女、アルティアではないか。懐かしい、大きくなったな」


 その言葉に謁見の間全体からと、俺達のパーティーから驚きの声が上がる。モーガン、ルクール、クリストフは少し苦そうな表情だ。


「流石はシュタインのおじさま、わたくしの変装眼鏡が全く効果がありませんとは……」


 そう言って、眼鏡を外し、修道ベールを取るアルティア。


 ふわっふわっの金髪と美しい顔立ち、牛乳瓶詐欺ここに極まれり!


 この世界は顔面偏差値が高すぎると思います!


「まあ、ヴィネの聖女であるそなたが、ここにいるのは理由があるのだろう? それは聞かぬがゆっくりとしていくがよい」


「はい、おじさま。ご厚意感謝いたします」


 優雅なロイヤルカーテシーをスマートに行う姿に感嘆の声があがる。


「すると、アルティア王女の近くに控えるのは司祭家の子息達か、お前たちもよくやった」


「はっ! ありがたき幸せ!」


「ふむ、ギルドの受付をしているアンナ嬢……。いやシルフの村の精霊術士の長の娘だな。10年前のあの件は申し訳なかった」


 更にどよめきが起こる、俺には分からないが凄い人だったのだろうか。お姉ちゃん。


「いえ、その事は王様が気に病む案件ではありません。侵攻してきた賊に対して、村は抗えなかったのですから。平和だからと気を抜いてはいけないという事です」


「その言葉、正に今回の事でもあるな。これは余も気を引き締めねばならん」


「失礼しました。決して他意はありませんでした」


「気にするでない。あくまで余の気構えの話だ」


「そして、そこの二人も顔を上げよ。名は何と申す?」


「は、はいっ! ジュリアスと申します」


「あたしはリアナ」


「本当に、この件はよくやってくれた」


 ジュリアスは緊張しまくりで、返事したとき以外はずっと頭を下げていた。対してリアナは少し面白くなさそうに王様を見ている。ひょっとして、他の人に比べて扱いがぞんざいだったからか。


 しかし、シュタイン王は全く変わらず、そのまま続けた。


「英雄達の戦功を労うため、本日舞踏会を催す! 直ちに準備にかかれ」


 言い終えるとシュタイン王は玉座から立ち上がり、部屋を出ていく。


 文官の先頭にいた、豪奢なローブを纏った老人が変わりに口を開く。


「これにて、謁見の儀を終了する!」


 こうしてシュタイン王との謁見は終了したのだった。


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