第37話 気配を隠した驚異

 北門の詰め所で頑張れよーと応援を受けて、ワイルドボアの探索にはいる。


 まず、パーティー毎に別れて、ワイルドボアを探す。見つけた場合、大声を出して知らせる。


 戦闘には入らず、勇者の到着を待ち、やむを得ない場合は攻撃を控え防戦に徹底する。


 そんな打ち合わせを行い、それぞれの森に入っていく。


 しかしワイルドボアと言っても脅威には違いなく、防戦するというのは危険極まりない。


 俺達も足跡や糞などの残骸を求めて、森に入っていった。


 北門の周りに広がる森は広大な面積を誇っている。


 こんなにバラバラに動いていて、もし発見したときに果たして声は届くのだろうか?


 そんな疑問が湧いてくる。


 しかし、結構深い所まで入ってきた気がするけど、何も痕跡も見当たらない。


 メンバーも細かく見てくれているが、見つけられない様だ。

 

 少し向きを変え、進んで行く。


 しばらくすると、木が植えられてなく、拓けた所にたどり着いた。

 

 森の拓けた場所には、人が八体倒れていた。


 それは先程別れた、仲良しグループの8人。それぞれの体に切り裂かれた様な傷がある。


 息はあるようだが、かなり苦しそうだ。


「アルティア、診てもらえるかな?」


「ええ、これは……、毒ね。致死性はないけど、このままだと危ない。解毒します」


 アルティアはすぐに「不浄なる邪を清め給え」と詠唱する。


 制御して、範囲化をする事で消費する魔力を抑えるあたりは手慣れている。


 8人全員がオレンジ色の淡い光に包まれた。苦しそうな表情が和らいだ気がする。


 しかし、8人とも戦闘していた様な跡がない。抜刀した跡はあるが、乱れていないのだ。


 俺は猛毒の事を思い出した。


 気配を消して、人知れぬままに致命傷を与える。


 ゾワリと寒気がして、鳥肌が立つ。


 仲良しパーティー8人は、猛毒と戦ったのではないかと思えた。そして何もできないまま倒された。


 そう考えると納得がいく。


 俺はメンバーに向き、その話しをしようとした時、少し離れた所で悲鳴が上がった。


 俺達はその場に向かって駆け出した。



 俺達がその場についたときには、既に戦いは終わった後だった。


 仲良しパーティーと同じような状態で、勇者のパーティーが倒れていた。


 さっきと同じ要領でアルティアが解毒の魔法をかける。


 ふと思ったけど、解毒も腰抜けも同じ魔法を使っている。状態異常回復という同じカテゴリーになるのだろうか? また今度聞いてみよう。


 しかし、最初に猛毒を捕らえたときは、これで将校? と思ったものだが実際、見えない敵とまみえるのは神経が擦り切れそうになるくらい辛い。


 いつ攻撃されるかもしれない、どこから見られているかもしれない、そんな気持ちが疑心暗鬼を呼び起こす。


 するとお姉ちゃんが「風よ、周囲に加護を……」とボソリと言うと、周りの空気が揺らいだ。


「これで、見えない何かが来ても感知はできるはず。放射状に風を吹かせたけど反応はないわ。もう周辺には何もないはずよ」


 俺のお姉ちゃんは万能です。



 この森には、肉食の動物はいないはずだが、負傷者16人をこのまま置いておくのも気が引ける。

 ーー正直、勇者はカラスに突かれれば良いと思っているが。


「それでは多数決取りたいと思います。一旦、街に戻るべきか。探索を続けるべきか。」


 俺はちょっとリーダーらしい事を初めてしてみた。独裁ではなく民主主義で行くべきだよね。


 その結果戻る派は、ジュリアス、リアナ。探索派はお姉ちゃん、アルティア、モーガン、ルクール、クリストフ。お姉ちゃんは脳筋派だった。うん、知ってた。


「民意は探索だけど、もし戻りたいのであれば止めないよ」


「い、いや、ヤクモ。ちょっと怖気づいただけだ、俺は行くよ」


「ジュリアスが行くって言うなら、あたしもついていく」


 ふむ、何だか帰りたい理由が分かったような気がした。ここ一週間くらいで急接近したからね。


 よくドラマとかで守りたいものができたから、無理できないニャンとかあるあるだしね。


「ジュリアス、皆まで言うな。俺はお前を応援している。引き返すなら今のうちだ」


「ヤクモ? 何言ってるのかわからないが、俺は帰らないぞ」


 何だか、ジュリアスって偶に頑固というか、引かないところがあるよね。


「そうか。よし、それでは行こう!」


 俺達の探索はリスタートした。



 俺が先頭を歩いていると、ジュリアスが肩を並べてきた。


「ジュリアス、どうした?」


「ヤクモ、最初から一緒のパーティーだったお前にだけは言っておきたくて」


 何だろう、ジュリアスが珍しく真面目そうだ。


「どうした? お金と命以外のことなら、できるだけ相談にのるよ」


「お前にそんな事頼まないよ。俺も相談内容で相手くらい選ぶからな」


「ほんまそれな」


「変な言葉を時々使うよな、お前って」


「ほっとけ。それで、一体どうしたよ?」


「お、おう、今回の研修が終わったら、とりあえず俺達は一人前の冒険者になるよな。そしたらリアナとけ、け、け、け……」


「……気持ち悪い笑い方やめてほしいのですが」


「笑ってない! け、結婚をだな……」


「……フラグ……」


「え!? 意味わからん言葉使うな!」


「とりあえず教えといてやる。大切な事の前に生死に関わるイベントを持ってくるな! またはそれを人に言うな! これはおじさんとの約束だ、いいな!?」


「あ、あぁ」


 その時、俺達の上、つまり上空を陰が過ぎった。


 俺は咄嗟に上を向く。そしてソレを見て愕然としてしまった。


 どうしてこういうものがあるのか?


 上空を通り過ぎたもの、それは真っ黒な機体をした、ステルス型のVTOL機だった。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る