第36話 研修最終日 アライアンス

 地下の研修場に降りていくと、ほぼ全員が集まっていた。


 ほぼというのは、おそらくギルドマスターがカウンター立っていたことが関係しているはずである。


 パーティーごとにいつもの様に集まり、しばらく待つと、時間通りに教官が姿を表した。

 

 教官の合図によって、いつものメニューが始まる。


 しかし、今日でこれが最後なのかと思うと感慨深いものがある。


 思えば、初日は俺だけが出来ずに、枕を涙で濡らしたものだ。いや泣いてないけど。


 それが今では辛いけど、ついていくことができるようになった。人間は成長するのだ!


 継続は力なりである。これは研修が終わってからも続けよう。


 基礎訓練が終わり、全員が教官の元に集まる。教官は少しの時間、待つように指示した。


 一体何が起こるのか? 全員が少し緊張した面持ちだ。


 そして、教官が「そろそろか……」と言ったとき、研修場の扉が開かれた。


「ごめんなさい、遅くなってしまって」


 あ、そうか、お姉ちゃんを待っていたんだ。



 パーティーにお姉ちゃんが加わり、教官の話が再開する。

 

「今日は、新人研修最終日であるアライアンスでの戦闘訓練を行う!」


「はいっ!」


「討伐対象は、シルバーランクへのランクアップ対象であるワイルドボアだ! 座学で教えたが、巨体からの突進がヤツの攻撃手段になる。いかにその攻撃を防ぎ、こちらの攻撃を当てるのかが勝敗の行方を左右する! しかしヤツの攻撃は強烈だ、並の防御だと大怪我するから注意してくれ!」


「はいっ!」


「よーし、それではまず、パーティーの登録が完璧か確認してくれ!」


 そう言われて、パーティーメンバーがギルドカードをかざし合う。


「よーし、次にパーティーリーダー同士でギルドカードをかざしてくれ!」


 ルシフェルと仲良しリーダーと俺は前に出て、ギルドカードをかざし合う。


「よし! これでアライアンスの登録は完了だ。これより北門から森に出て、ワイルドボアを討伐する! 油断は絶対するなよ!」


「はいっ!」


 リーダーはそれぞれのパーティーに戻り、そして全員が研修場から出ていった。


「全員が無事で帰ってこいよ」


 教官は研修生全員の無事を祈っていた。


        ☆


「まず、俺達で獲物をやるから、他は手を出さないでくれ」


 ギルドから北門に向かう道でそういったのは、勇者ルシフェルだった。


「こんな相手で、アライアンスを組んで倒したとか、恥ずかしくて街を歩けなくなる」


「やっぱりルシフェルは考えが素敵よねー」


「貴方達も少しはルシフェルを見習った方がいいんじゃない?」


「流石は勇者だぜ、俺もお前みたいになりたいよ」


 勇者パーティーはルシフェルの言動に対して大絶賛だ。しかも他の人をディスってまでアゲアゲだ。


「アンナ、そんなパーティーより僕のところに来なよ。最高の待遇を約束するからさ」


 勇者はお姉ちゃんに何故か執着している節がある。まあ超絶美人さんなのが理由なのかもしれない。


 勇者の言葉にブルリと震えるお姉ちゃん。すかさず俺の背後でスリップストリームに入る。


 それを見た勇者はチッと舌打ち。ガラ悪いなこいつ。


「ナツメ君だったかな? アンナを返してくれよ。僕とアンナは将来をーー」


 その時、恐ろしい殺気と共に、風よ……という詠唱が聞こえた。その瞬間、勇者の右頬に血の筋が通る。


 それ以降、勇者はお姉ちゃんを話題には出さなかった。


 後ろから「弟君、あいつはタダの幼馴染なだけだから」という声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る