第33話 続王都での日常生活 反復練習

 アルティアさんが、戻っていこうとするモーガンさんに一言二言何かを言っていた。モーガンさんは驚いた表情をしていたが、諦めたように街に向かって歩いていった。


 ジュリアスとリアナはすごく良い表情で笑いながら歩いていった。あの二人付き合うんじゃないだろうか? それ程に良い雰囲気だった。


 アルティアさんと2人になり、彼女が口を開く。


「まず大切なのが、何処までを効果範囲とするのかのイメージです。そこでナツメ様と私のパーティーを解除します。近くにいる私には音が聞こえるので、効果が私に出なくなれば、まずは成功となります」


 アルティアさんは少し距離をとるために、さっきまでジュリアス達が座っていた石の所まで離れていった。そして石の上に座る。


「それではナツメ様、始めてください。回数よりも、コツを掴むための精度を重視してください」

「はい!」


 俺は自分自身を効果範囲としてイメージしながら、曲を弾き始めた。


 練習で弾く曲は、先程と同じで愛の挨拶だ。



 もう何度弾き直したのだろう、回数を最初は数えていたが、それに意識を割くと精度が低下すると思い、数えなくなっていた。アルティアさんは弾き終える度に、失敗ですと言っていた。


 何度目かの時から、弾き始めるたびにアルティアさんが、ビクンと少し震えるようになった。


 何度も同じ曲を聞いているので、音が怖くなっているのかもしれない。


 ヴァイオリンは高い音も多いので苦手な人もいるだろう。


 その後、しばらくして失敗ですという声が弱々しくなっていった。やっぱり辛いのだろう。


 更に、その後、弱々しくなった声が上擦ってきた。もうこれは限界が近いのかもしれない。


 そして、今、手を上に上げて円を作ってくれた。分かりにくいがOKということなのだろうか?

 

 俺が確認しようと近づいていくと、アルティアさんはそのまま目を回して倒れてしまった。



 俺は、気を失っているアルティアさんに着ていた上着を掛けて、目が覚めるのを待っていた。


 一時間くらいたった時、アルティアさんの口から、ううんと色っぽい声が聞こえた。


 眉間が動き、重そうに目が開く。ここは? という言葉が聞こえてきそうな表情のまま左右を見る。


 そして、俺が隣で座って見ている事に気付いて、バッと上体を起こした。腹筋スゲー!


「どどどど、どうして、ナツメ様がこんな所で?」


「アルティアさんが、俺の練習に付き合ってくれて何度も同じ曲を聞いていたから、多分疲れたんだと思う。それで気を失ってしまった感じかな」


「そ、そ、そうでしたね。あ、でも疲れたのは、同じ曲だったからというわけではなく、えっと、私は小さい頃からきょうこ……あわわ、修道院での訓練で精神統一の練習をしていたので、えっとナツメ様の感情操作が強力で、じゃなくって……」


 何だろう、この人パニックになってる。普段は見れない側面を見てほっこりしていると……。


「えっと、ナツメ様、私、どうも頑張りすぎてしまったみたいで、下半身に力が入りません。歩けないので、えっと、せ、背負ってもらえませんか?」


 牛乳瓶メガネと目が合う。お願いの内容が恥ずかしいのだろう、頬も少し赤くなっている。


 俺の答えは1つだ。ここまでお世話になって断ることなどできるはずもない。


「気にしないで、むしろ無理して付き合ってもらってありがとう」


 俺はしゃがんで、アルティアさんを背負った。俺の背中に凶器が当たる。


 こ、この人、着痩せしすぎじゃね? 


        

 俺はアルティアさんを背負って、歩き出した。


 そうだ、この人は何処に泊まっているのだろう? そう思い宿泊先を聞いてみる。


「アルティアさん、宿泊先まで行くので教えてもらってもいいかな?」


「……風の乙女亭」


「了解、風の乙女て……って、お昼食べた所だけどいいの?」


 アルティアさんは肩越しに小さく頷いた。あ、察してしまった。そうだよね、普通の泊まっている場所を教えたりしないよね。俺ってやっぱりダメだね。


 できるだけ揺らさないように、ゆっくりと一歩ずつ踏みしめて歩く。だって、危険でしょ?

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