第31話 続王都での日常生活 最強のお手伝い様
ワイルドボアを無事倒した俺達は、キノコを持ってギルドに向かっていた。
北門を通り、大通りを南下する。この道も通りなれたものだ。
ワイルドボアとの戦闘は俺の経験不足を露呈させた。みんながしっかりと役割をこなせていたので、大事には至らなかったが、もっと厳しい戦いなら危険にさらされていただろう。
俺が凹みながら歩いていると、肩をポンと叩かれた。クリストフさんだ。
「さっきのスキルは魔法剣ですよねえ? どうやって習得したんですかあ?」
「魔法剣って何? 全く分からない」
「ワタシが放った火球の魔法をそのナイフに帯びさせましたよねえ? 剣に魔法効果を与えるエンチャントの1つと言われる魔法剣! どうやったのかワタシに教えてーー」
「クリストフ! そんなにグイグイ行ったらナツメ様が困ってますよ」
「ア、アルティアさ、ゴホン! アルティアはこの凄さが分からないから、そんなに冷静でいられるのですねえ。リアルエンチャントをワタシ達は目の当たりにーー」
「落ち着けよ、クリストフ。ほら深呼吸して……」
「モーガン、ワタシはずっと落ち着いていますよお!」
「そうだクリストフさん、よかったらこのナイフの作者を紹介しようか?」
「!?」
「みんなはギルドに向かっていて。俺とクリストフさんに鉄屑武具店を紹介してくる」
「ぶふぉっ!」
鉄屑武具店という名前を聞いた近接前衛職のジュリアス、モーガンさん、ルクールさんは同時に吹き出す。うん、分かるよその反応。
遠距離後衛職の2人は疑問の表情だ。残り1人は期待に胸を踊らせているのだろう。ソワソワと落ち着きがない。
「クリストフがそこまで興味を示すのは珍しいですね。私達は大丈夫だからいってらっしゃい」
「え!? 良いのですかあ、アルティア」
「モーガンとルクールもいることだし、王都の中で何かあることもないでしょう」
「4人は知り合いだったんだ」
「そうなんです。全員が同郷の幼馴染なんですよ」
「知り合いが近くにいるのは良いね。それじゃあ、クリストフさん、ここから東に少し行った場所だよ」
俺とクリストフさんは鉄屑武具店に向かい、他のメンバーは南のギルドへ歩いていった。
俺達は5分くらいで鉄屑武具店に到着した。クリストフさんは目を爛々と輝かせている。
俺は扉を開いて、クリストフさんを促しす。我先にと店内に飛び込むクリストフさん。
完全に店内に入ったのを確認して、俺は外から扉を閉める。
店内から、ぴぎゃあああぁぁぁあああぁという絶叫が聞こえてきた。
俺はたっぷり5分経過するのを待って、扉を開けて中に入った。
これは、ここを訪れた者が必ず通る通過儀礼なのだ。
店内に入ると、クリストフさんが芋虫のようになっていた。
恐怖と恐慌で腰が抜けて動けない状態。俺を恨めしそな目で見ている。
その後ろで動けない獲物の片足を掴んで逃さない捕食者。まぁヴェスタフはこれが平常運転か。
俺はヴェスタフに挨拶がてら、よぉと言う感じで片手を上げる。
「あらぁ? ヤクモじゃなあい。今日はこんな早くからいったいどうしたのよ」
「今日の研修中、今にもヴェスタフに捕食されそうになっているクリストフが、俺のナイフに火球の魔法を当てたんだ。するとどうなったと思う?」
「貴方が大火傷して、ナイフは溶けるか使い物にならなくなるわね」
「そう思うだろ? しかし現に俺は無傷だ」
「ナイフがその火球の火を帯びて炎の剣に姿をかえたのですよお!」
芋虫になりながらもクリストフは差し込んできた。こいつは本気のようだ。
「面白いこというわねえ。それでヤクモはこの子を私に紹介しに来たわけねえ」
「そういう事。ナイフも預けておくので色々と意見の交換をしてみて」
「オネエ様、お願いしますう」
「あらあ、中々見どころのある子じゃなあい」
「俺はこれで……。夕方にはまた来るのでナイフのメンテもよろしく」
なんだか息があっている2人を見て少し戦慄する。
俺はナイフを渡し店を出て、ギルドに向かった。クリストフの顔が絶望から希望に変わっていたのは興味深かった。
20分ほど歩いて、冒険者ギルドに到着した。相変わらず重厚な扉を開けて、中に入るとテーブルに座っているメンバーが手を振っていた。
既にクエストの完了報告も済ませ、雑談モードに入っていた。
なんだか良い雰囲気だ。俺も仲間に入れてくれよう。
これからどうするのかという話になったとき、まずは腹ごしらえが大切ということで、ランチを何処かで食べようと言うことになった。ちょうどお姉ちゃんも、業務が一段落ついたということで合流した。
何処で食べようかとなったところで、風の乙女亭を激推しした。お姉ちゃん、ジュリアス、リアナの援護射撃もあり、アルティアさん、モーガンさん、ルクールさんもそれならばと乗ってくれた。
6人でギルドを出て風の乙女亭に到着すると、結構な賑わいを見せていた。
そういえば、俺がこの街に着き最初にランチをこの店で食べた時は、こんなにお客さんはいなかった。穴場的な低価格のお店として、ここしか利用してなかった俺としては、嬉しいやら悲しいやら。いつしか、この店は俺が育てたなんて言ってみたいものである。
あれ、お姉ちゃんが怪訝な表情だ。気持ちがだだ漏れだったのだろうか?
いやだなあ、心を読まないでほしい。
店に入ると、忙しそうにティアンネさんが出迎えてくれた。
「お! いらっしゃい。いつもありがとうね! ちょうど今、空いた席を片付けるから、少し待っていてくれないかい?」
「時間もありますので、大丈夫です。少し手伝いましょうか?」
「ああ、それは助かるね。給金は宿泊代金から天引きでいいかい?」
俺は有り難いと返事をして、みんなに座っておいてと伝えて手伝いを始めた。
お姉ちゃんも助太刀してくれる。俺はテーブルの上の食器の片付けと配膳を、お姉ちゃんは注文を取るウエイトレスだ。
テーブルの上を慣れない手つきで片付ける。あぁ落としそうっ!
オーダーされた料理を運ぶ。あぁこれは違う席の分だっ!
俺は何故かオーダーが増え続けていることに気が付いた。しかも高単価商品のスペシャルステーキ。
お客さんは増えていないはずなのに?
お姉ちゃんは大丈夫だろうかと周り見渡して姿を探す。
そこで我々はとんでもないものを見つけてしまったっ! いや、俺だけなんですけどね。
お姉ちゃんが、テーブルに座っているお客さんに注文を聞いていた。これは言葉だけで聞けば普通の状態だ。しかし、お姉ちゃんのニッコリスマイルは、あの冒険者ギルドの荒波にもまれた魔性の笑顔だ。
男性客などはもうそれだけでKOだ。一子相伝の世紀末覇者でさえ指先1つなので、これがいかに凄い事なのか推して知るべし。
そこで更に追撃がかかる。「ご注文は以上ですか? 今日はステーキがお得なんですよ」だ。
これが想像以上の攻撃力で、客は思わず「そ、それもお願いします」って声が上擦りながら言っちゃってる。
「ありがとうございまーす。本日のスペシャルメニュー、ステーキ入りまーす!!」
こうして、オーダーが増えていき、俺は必死に頑張った。
俺達がテーブルに着けたのは30分後だった。
ティアンネさんは喜んでくれて、ランチは全員分サービスにしてくれたのは嬉しい誤算だ。
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