第30話 続王都での日常生活 その名は魔法剣

 今日もいつも通り、基礎訓練が終わり、教官から渡された依頼を選択する。


 今日のパーティーでの研修は、北の森に自生するミドリダケというキノコの採取だ。


 干して煎じて飲むと薬用に、料理に入れると食材になる需要が高いキノコである。以前の討伐目標であったワイルドボアなどの野生動物が、好んで食べる為に採集時には戦闘になることもある。


 初心者冒険者には中々ハードルが高いミッションだ。


 キノコは森全体に自生しているため、探すのには苦労しない。しかし戦闘の危険性がある為、キノコを見つけた場合の役割分担だけは明確にする。俺とリアナとクリストフさんが採取班、他のメンバーは見張り番となった。


 歩きながら、役割の話を終えた俺達は詰め所で声をかけてもらって門をくぐった。


 しばらく歩くとすぐにキノコは見つかった。早速ナイフで収穫する。その時、クリストフさんが「変わった得物を使ってますねえ」と言っていた。俺はミスリル製らしいですよ、とだけ言っておいた。


 次のキノコも簡単に見つかり、リアナが収穫する。その次も、そしてその次も、とキノコはアッサリと見つかり、1時間かからずに依頼分のキノコは集まった。

 

 思い出すと、この1週間はずっとこんな感じだった。仮に時間がかかったとしても、難易度は高いとは言えなかった。最初のワイルドボアの時も、もっと連携をしっかりとっていれば楽だったのかもしれない。


 それでも気を抜くと、命に関わるという仕事であることには間違いないのだ。


 俺達は依頼分のキノコがあることを確認すると、報告に戻ることにした。


 来た道を戻ろうと振り返ると、そこにワイルドボアが今にも飛びかかってきそうな勢いで構えていたのだった。


 知らない間にワイルドボアの縄張りに足を踏み入れてたようだ。


 しかし相手はワイルドボアだ。シルバーランクの討伐対象である。ジュリアスが前に出る。慣れたものだ。リアナは後ろに下がる。しかし後の4人は少し動揺が見受けられる。


「討伐ランクがシルバーのブタさんです。俺達は研修1日目で戦っていますので、こんなの余裕です」


 俺は1度討伐している旨を説明する。


 昨日からパーティーを組んだので、落ちこぼれと思われている俺達と一緒では倒せないと思われるかもしれないからだ。


 すると、4人はえっ?! という顔をする。バカにするんじゃないですよっと。


「……えぇ〜と、貴方達シルバーランクへの討伐課題、ワイルドボアを既に倒したことがあるの?」

 

 シルバーランクへの討伐課題? つまりはそのランクでは最上位の討伐対象と言う事だ。


 アルティアさんは少し動揺している。他の3人の反応もそれに近い。


 俺はあの時の事を思い出した。俺達は何かできた? いやできていない。そう、あの時ワイルドボアを倒したのは、お姉ちゃんだった。


 俺は首をギギギと鳴りそうな動作で動かす。視線の先には、殺る気満々のワイルドボアの姿。


 そしてワイルドボアはあの時と同じように「ブフオオオオオン」と吼えて突進してきた。


 突進してきたワイルドボアに、俺達全員が意表をつかれた状態になった。いや1人だけ戦闘態勢を取れた人物がいた。さっき前に出てきたジュリアスだった。


 ジュリアスは身をかがめ、踏ん張った状態で盾を構える。


 前は木の盾だったが、この前のボーナス(・・・・)で装備を新調し鉄の盾を装備している。木の盾から、銅の盾を介さずに鉄の盾だ。大出世である。


 ガツンという衝撃音が鳴り、ジュリアスとワイルドボアが拮抗する。押しているのは先制のワイルドボアだろうか。しかしジュリアスも負けていない。


 それに反応して、すぐに魔法の詠唱を始めるアルティアさん。


「汝、強固な盾を纏い、その身を護らん」 


 3節の魔法詠唱が発動して、ジュリアスの身体を青白い光が包む。その瞬間、ジュリアスの厳しい表情が和らいだ。物理防御力強化の魔法なのかもしれない。


 同時に、モーガンさんとルクールさんが、ワイルドボアの側面を取り、攻撃を開始した。


 モーガンさんは片手斧を振りかざす。その1撃は重く、1振りごとにワイルドボアの皮膚が裂ける。


 ルクールさんはコンビネーションを叩き込んでいる。そのスピードは早く連撃と呼ばれるものだろう。重い1撃1撃は、ワイルドボアの内蔵に影響を及ぼしているに違いない。


 突進を止められて、側面から攻撃を受けるワイルドボア。攻撃を受け劣勢になった事で更なる咆哮を轟かせる。溜め(チャージ)という攻撃力を向上させるワイルドボアのスキル。


 前回、ジュリアスを吹き飛ばした攻撃だ。


 ワイルドボアは前足を振り上げ、地面に叩きつける。それと同時に後ろ足で前に進もうとした。


 しかし、ジュリアスは耐えていた。ギリリと奥歯が鳴り、唇が切れる。


「がああああぁぁっ!! もう、後ろに通す訳にはいかないっっ!! 俺がこのパーティーの壁(タンク)だっっ!!!」


 前回、吹き飛ばされたことで、パーティーが全滅するかもしれなかった事が、忘れられないのかもしれない。その裂帛の気合から伺い知れる。


 その時、先程とは違った、黄色い温かい光がジュリアスを包んだ。リアナが回復魔法を詠唱したのだろう。少し押されぎみだったジュリアスは、持ち直したみたいだった。


 全員の動きについていけてなかった俺は、ワイルドボアにナイフを抜刀して斬りかかろうと、右手でナイフを振り上げた。


 ふと、背後から何かが接近しているのを感じた。斬りかかる体制のまま目だけで後ろを確認する

 それは拳くらいの大きさである炎の玉だった。


 俺はひょっとして、射線上にいてフレンドリーファイアに巻き込まれる、分かってないニュービーな事をしてしまったのだろうか? なんとか避けようと無理やり体を倒そうとする。


 しかし、既に振り下げているナイフの軌道は変わらない。この火の玉は何度くらいの熱なんだろう?


 そう思ったとき、ナイフの周りに風が起こる。そして着弾した火の玉が風に沿ってナイフを覆う。


 それによりナイフが炎を刀身とした長剣に変わった。ファンタジーっ!


 既に振り下げていた炎を纏ったナイフがワイルドボアに直撃した。


 モーガンさんとルクールさんは危険を察知してワイルドボアから距離をとった。


 直後にワイルドボアは炎に包まれた。


「熱い! 熱いって!」


「ブオオオォォーー・・・……」

 

 燃えるワイルドボアの熱が直撃するジュリアス。


 ワイルドボアの断末魔の声は徐々に小さくなっていきーーそして遂にその巨躯は地に落ちた。


 その光景を後ろから眺める男が1人。


「……魔法剣ねえ。面白いですねえ」


 クリストフの呟きは誰にも聞こえることは無かった。

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