第27話 真実は一つなのですから……
俺はピリスさんに連行され、城の詰め所まで来ていた。
内容が機密事項なだけあって、人払いをした上での質問だった。
「まず私は、第1騎士団団長、ピリス・ヴァン・シュタイン。これでも王家に連なる家系です」
「ヤクモ・ナツメです。1週間前、冒険者ギルドに登録して、今日は初めてパーティーでの実践訓練をしました」
「続けて」
「はい。それで北門付近でリンバルと遭遇、確保。そのまま第4騎士団に身柄を引き渡しました」
「ふむ、それでは君を信じるなら、既にリンバルは王城で捕らえられているということかしら?」
「はい、状態は分かりませんが、俺達は引き渡した後のことは……」
「それはそう、しかし私に報告が上がっていないのはどういうこと?」
「俺にはその辺りはわかりません」
ピリスさんは立ち上がり、詰め所の外で待機している兵士に話しかけた。
兵士はハキハキと返事をして走り去る。ピリスさんは戻ってきて椅子に座った。
しばらくすると、1人の男が詰め所に来た。ヴァレオ団長だ。
「おお、少年。今日の朝あったばかりなのにどうした?」
「ヴァレオ団長、この少年がリンバルは既に捕らえられてると言っているが本当でしょうか?」
「……ピリス団長、不思議な事を申しますな。そんな事実はありません」
えっ?! この人何を言っているんだ? 訳が分からない。
「ちょ、ヴァレオ団長、朝の事ですよ? しかも俺達のカードに第4騎士団から報酬として10万マルクも頂いている」
「忘れているのは君の方だろう? 第4騎士団で探していたワイルドボアを討伐してくれたお礼ではないか。リンバルがもし本当に捕まっているとしたら王国から報酬がでるぞ。国家機密(・・・・)だからな」
こいつ、今ので釘を刺したのか! しかしリンバルを捕まえたのはこいつにとって都合悪いという事なのだろう。このままでは俺は下手をすれば捕まってしまう。場合によっては他の3人まで危険にさらされる事になるかもしれない。
ピリスさんは腕を組み、俺の方を見ている。これは絶対疑っている目だよね。ヴァレオはピリスさんからの言葉を待っている様だ。
俺はどうすれば良い? 思い出せ! あの時、何かなかったか? 思い出せ! あの時、何かを言ってなかったか? 思い出せ! あの時、光景を全て!
何をした? 何があった? 何を話した? 何を見つけた? 何を? 何を見つけた?
そう! 見つけたんだ!
「ピリス団長! 俺はあの時、リンバルが連れていかれたあの時、奴の仮面を橋の下に捨てました!」
「!!」
ピリスさんは、驚愕の表情を浮かべた途端、部屋から駆け出した。は、早い!!
ヴァレオは完全に置いて行かれた格好だ。いや動けないと言った方が正しいのかもしれない。なぜなら顔色が真っ白だったのだから。
俺はヴァレオを置いて部屋からでた。ピリスさんを追うために。
橋の詰め所に着くと、ピリスさんが兵士に指示をだして、下の堀を捜索していた。ビックリするほど早い行動だ。
しばらくして、あったぞーという声が聞こえる。兵士が堀にかけた梯子から上がって来る。
ピリスさんが、兵士からマスクを受け取り、俺に見せる。それは間違いなく、運ばれて行ったリンバルが落としたマスクだった。
その時、ヴァレオも橋までようやくたどり着いていた。しかし彼の雰囲気は重い。
「ヴァレオ団長、今、マスクが発見されました。貴方はこれでもリンバルの事は知らないと言われるのですか?」
「そ、そんな何処にでも売っている様なマスクで何が分かるというんだ。ピリス団長はもう少し聡明な方だと思っていたが……」
「ヴァレオ団長? 今、これが何処にでも売っていると言いましたか? ご存知と思いますが、帝国将校が付けるマスクは特殊であるという事は有名な話です。このマスクを城の研究室に解析を依頼しましょう」
「ぐっ!」
うめき声と共に、ヴァレオ団長は膝をついた。
「ヴァレオ団長を拘束し地下牢へ連れていけ」
ピリスさんは、周りの兵士指示を出した。すぐに兵士達が反応しヴァレオ団長を拘束、連行する。
ヴァレオ団長は、こんな所で……とうなだれながらドナドナされていった。
ヴァレオ団長が城内に消えて行くのを確認したピリスさんは同じく城内に戻っていこうとして、振り返る。その表情は少し冴えないように感じた。
「ごめんなさい、君を疑って。私達はこれからヴァレオを尋問して、真実を突き止めないといけない。君には真実を知る権利があるかもしれないけど、これは機密事項でもあるの」
ピリスさんはこれ以上、立ち入らないように進言してくれた。それには俺も同意だ。国を動かすような大事には近寄りたくない。
「分かりました。それでは俺はこれで失礼します」
「ええ、このお礼はいつか必ず、ね」
俺はそのまま跳ね橋を渡り南へ、ピリスさんは北の城内へ入って行った。
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